第165話 義兄さん…………
裏アーカスに駆け寄ると思ったよりも怪我がひどい。
「これは酷い。うわっ手なんて取れそうだよ?」
「敵だったのよね。でもその同じ顔がこう言う目にあうのは嫌だな」
ナイとアンジェリカが裏アーカスを見てはそれぞれの感想を言う。
それでも裏アーカスは立ち上がろうとしたので俺は手でそれを抑え込んだ。
「怪我って治るのか?」
頷きその後に横に首を振る。
「すぐには治らないって事か、さすがは魔剣って所かな自分が斬られなくてよかったよかった」
「昔貸してくれって頼んだ時は無いって言われたのじゃが」
「実は持っていたパターンっすね」
「で、メルギナスどうするの? 再封印の手も無くなったし帝国がもう入って来てる」
ナイは他人事のように師匠に聞いている。
実際他人事なんだけどさ、こいつにとっては特に。
「あれぐらいならワラワの魔法で吹き飛ばすぐらいはできる」
「その代わり一生帝国にこれなさそうですね」
「ドアホウ何か策はあるなのじゃ?」
全くない。
「無いですかね、影の兵士でしたらたぶん増やせますけど」
「出来るのじゃ?」
「多分ですよ?」
師匠が「やってみてくれ」と言うので開発室に戻るしかなくなった。
「ここでは出来ませんので……あれ。裏クロウベルお前その手に持っているのはタブレット!」
俺の目の前にいつの間にか裏クロウベルが現れていた。
手にはタブレットを持って俺に突き出してくる。
ちなみにタブレットとは小さいパソコンみたいな物で持ち運び適している奴だ。
「なんじゃその板はなのじゃ」
「魔力も何も感じられないね……」
「うわっクロウベル君それ操作できるの!?」
「古代機械みたいな物で昔文献で見ました」
俺がそれっぽい事を言うと周りが静かになる。
「ドアホウそれっぽい事を言うがワラワやナイが知らない時点で嘘に近い、覚えていた方がいいのじゃ」
「同意見ね」
「深くは聞かないで、説明面倒だから」
素の俺の言葉で師匠もアンジェリカも黙ってくれた。
「まぁクロウベル君がそういうなら」
「面倒そうな事なのじゃ」
「自分は色々聞きたいけど自分が聞いても答えてくれなさそうなんだよね……」
ナイがちらちら師匠をみるが師匠は無視してる。
ありがとう師匠、ありがとうアンジェリカ。
さて……タブレットには先ほどのパソコン画面が出ており、開発フォルダを開く。
その中の古代都市編をクリックしMAP画面を開くとMAPと影の兵士の人数調整画面が出てきた。
影の兵士の数は今は39人まで減っている。
「師匠見てください、これが影の兵士の数です」
「ほう……少ないのじゃ」
「足します。ほら無くなったら足すだけですってことわざしりません?」
俺は39の数字を99999に書き換えた。
「馬鹿、ドアホウ!」
「え? うおおおおお!?」
影の兵士が99999人になり謁見の間、城下町が真っ黒に染まった。
遠くから帝国兵士の悲鳴だろう、近くでも阿鼻叫喚が聞こえ始め剣と剣がぶつかる音、魔法の音色々な音が聞こえる。
満員電車に乗ってるように身動きが取れなくなり、何とかタブレットを見るのが精いっぱいだ。
99999人の影の兵士の数が99800、99200と桁違いに減っていく。
俺は数字を9999人にして再度決定を押すと謁見の間にいた影の兵士が消えていった。
「はぁはぁはぁ……き、消えた?」
「どさくさに紛れてワラワの尻を触った奴がいたのじゃ!」
「自分は足を踏まれたね……全員食ってやろうか。と思ったぐらいだよ」
「私は私を守るように影の兵士が空間を作ってくれたわ……きっと妊婦だからでしょうね」
当たりを見回して裏クロウベルを見る。
絶対師匠の尻を触ったのはこいつだ! 俺の視線に気づいたのか顔をそむけた。
殺す。
俺であろうが師匠の尻を触ったやつは殺す。
…………しかしナイの足を踏んだのはナイスだ。
師匠に関しては次やったら本気で斬る。勝てなくても斬る。
ジェスチャーでOKという裏クロウベルと意思疎通をして師匠達に振り向いた。
「多すぎましたかね?」
「多すぎじゃドアホウ圧死するかと思ったのじゃ……その機械で城門の封印は出来ないのじゃ?」
「調べてみます」
MAPを見ても封印された扉。とだけ書かれており指で押しても何も出ない。
「そもそも、ここの影ってデバックで出来た初期設定というか没になった元というか……静かに暮らしたいだけだよね」
俺の独り言に裏アーカスは小さくうなずく。
「ほう……」
「だから追って来なかったし、素直に古代都市の扉を封印されたのか」
「えーかわいそう」
再封印が一番いいけど……。
「扉が壊れてますし再封印は――」
「影の王! 僕と勝負だ!!」
突然の声で考えが中断された。
謁見の間。
その一番遠い扉の前に剣を構えた青年がいた。
うん。よーく見知った顔だ。
その顔が俺達を見ては喋りだす。
「…………あれ? クロウベルさんに似た顔を持つ影の王。そっちにはメルさん似た人も。あれアンジェリカさんに似た妊婦さんも……もう一人の男性は知らない人だ」
捕まっていたはずのクウガが元気な姿で俺達の前にやって来た。
ってかアレだけ影の兵士いたのによくここまで来れたな。
「やぁやぁ君がクウガ君だね。英雄の素質がある……自分は古竜ナイ。一部では邪竜とか呼ばわれ心外であるけど左から順に君の思っている人達だよ」
「え……本物!? そんなはずはない! クロウベルさんならこんな所にいないで僕を助けてくれるはずだ! さっきもアンジェリカの幻を見せて動揺させて来た。今回も罠だ。ホーリーウェポン!」
クウガの剣に光属性の効果がつけられると一気に俺との間合いを詰めて来た。
「へえ。ほら君もダークウェポンを使ったら?」
ナイが俺にアドバイスをくれるが……。
「使った事無いし覚えてないからね!?」
「珍しい」
珍しいも何もない。
『水盾』を唱えるも、クウガの攻撃で『水盾』は真っ二つに斬られてしまった。
これだから主人公様は嫌になる。
俺の『水盾』をそう簡単に攻略しないでほしい。
「偽物め! この僕クウガが殺っ…………た?」
俺の首筋にを狙った剣は裏アーカスの2本の剣によって防がれた。
防いでなかったら俺の首と胴は一生ばいばいだったに違いない。
「くっ!」
「アンジェリカ。クウガの事捕まえられる?」
「任せて」
妊婦のアンジェリカがクウガの背後に回り込み破壊締めにする。
クウガが一瞬だけ暴れる。
「離せっ」
「クウガ、アンジェリカは妊婦だ」
「こ、これも幻!」
「じゃぁ、あの晩の事説明してあげる」
あの晩がどの晩かは、想像はつくが合えて語る事もない。
クウガの耳元で妊婦のアンジェリカは何かをささやくとクウガの顔が赤や青に変わり最後はまた赤になる。
説明が終わったのだろうアンジェリカがクウガから離れると、クウガはそのまま床に座り込んだ。
「本物のクロウベルさん……なんですか……?」
「本物。ちなみにあっちで師匠の肩を揉んでいるのが偽物の裏クロウベル」
ちらっと見ると裏クロウベルは師匠を座らせて肩を揉んでいる所だ。抜け目がないってか師匠に許可なくスキンシップとか殺したい。
「殺すならあっち殺してくれない?」
「いや……突然言われても。そもそも何で皆さんここに」
それは俺達のセリフだ。
「クウガこそなんで」
「アレキ義兄さんが僕の事を信じてくれて……良い所見せるのに単身影の王を」
「は!? 義兄さん!?」
「え、あ……ええっとその」
クウガはアンジェリカを見ては口を止めた。
「別にいいわよ。クウガパパが誰と子を作っても。アレキ義兄さんって事は帝国の第一王女とも子を作ったわけだ、ふーん」
「いや。あの! 僕は悪くない! アンジェリカに子供が出来たの知らなかったんだ」
まぁそうだろう。
でもだ。
「でもクウガ、アンジェリカの妹であるフレイとも子は作っていたし」
「うぐっ!?」
「ドアホウその辺にしておけ、本人達の問題なのじゃ。そもそも一夫一妻と言う決まりはないのじゃ」
日本と違うもんな。
元の地球でさせ一夫多妻の国だってあったはずだ。
「じゃっクウガ。その辺にする代わりに一つ頼みがあるんだけど」
「とても嫌な予感がしますが」
「大丈夫、ちょっとアレキ第一皇子殺してきてくれない?」
クウガの表情が強張った。
「で、出来るわけないでしょ!」
「出来る出来ないかで言えば出来る。クウガは強い。それにアレキを義兄さんと呼ぶんだ。ちょっと背後から心臓をつくだけでいい! 頼む! 俺の土下座が欲しいならいくらでも、おい! 裏クロウベルお前もだ!」
俺と裏クロウベルはクウガに土下座をする。
暫くするとクウガが「顔を上げてください」と言って来た。
やった、言ってみるもんだ。
これでアレキが暗殺されて帝国ここに攻めてる場合じゃなくなる。
「本当! さすがクウガだ」
「いや、暗殺は出来ません。出来ませんからね!?」
「は? ふざけんな。俺の土下座帰してよ!?」
背後から「見事な逆切れなのじゃ」と師匠の声が聞こえたが押し切った方が勝つ。
「以前の僕なら押し切られてましたが、今回は絶対に無理です! 別の手を。まず理由を話してください!!」




