第161話 かんてんは素晴らしい
俺が構えるよりも早く裏クロウベルは動いてきた。
同じような剣で俺の剣を受けると横から黒い水竜の攻撃が来る。
それを守るように俺の水竜が攻撃をした。
「相殺!?」
俺は離れると裏クロウベルも離れる。
「こういう時って偽物は本物より弱いんじゃないの!?」
俺の叫びに背後から手を叩く音が聞こえた。
「じゃぁ君が偽物だ。あっちの影が本物の君だって事か」
「ふざけんじゃ邪竜! ぶちころすぞ! 俺と同じ力だって!」
「おーこわ」
「クロウベル君、君は直ぐに暴言を吐くのはよくないよ?」
邪竜が俺に変な冗談を言ったのが原因なのに、アンジェリカから怒られた。
出し惜しみはなしだ。
俺と同じ強さであるなら、瞬発系の攻撃型。
要はスタミナがないのだ。
だって10時間戦いっぱなしとか経験した事ないし、終わらせる事が出来るならさっさと終わらせたほうがいい。
「水分身!」
水竜たんが一度水の固まりに戻るど、俺と同じ形になる。
「ほう……ドアホウ」
「これはすごい。アンジェリカ君あれが天才というやつだよ」
「以前にもナイ様を斬ったり、ウロコを斬ったりしてましたけど、やっぱり天才っているんですね」
俺はくるっと首を回した。
「あの、褒められても気持ち悪いで黙って貰えます? 後俺よりもクウガの方が強いからね。今は弱いかもしれないけど……」
俺なんてしょせんは雑魚ボスの1人すぎない。
運よく生き延びてるだけで本気で強くなった奴らには勝てる気しない。
「君ねぇ文句を言っても褒めても何なんだい?」
「まだ理不尽に馬鹿にされた方が言い返せるっと……まぁそうだよね……」
俺が『そうだよねぇ』と言うのは影クロウベルも同じように水分身を作ったからだ。
絶対この先は通さないマンかよお前は。
いや待てよ?
俺は座り込んでみると裏クロウベルも座り込む。
鏡……ではないんだろうけど。
水分身だけを先に攻撃に行かせると、黒い水で出来た水分身も同じく攻撃してきた。
2つの水分身がはじけ飛ぶ。
すでに走り出した俺は水分身を突破して裏クロウベルへ剣を刺した。
裏クロウベルは表情を崩さないまま、刺された状態のまま俺の体を貫く。
「クロウベル君!?」
「うわっ」
刺された俺はにやりと笑い滝のように崩れていった。
裏クロウベルは少しだけ表情を動かしたがもう遅い。
「へぇ……自分の顔を刺すのは嫌だけど……悪いね」
滝のように崩れた水分身の後ろ。
そこに隠れていた俺は裏クロウベルの顔を思いっきりアンジュの剣で突き刺した。
手応えが無い。
無いが裏クロウベルはまるで霧のように消えていった。
「はぁ…………疲れた」
背後から拍手と共に足音が近づいてくる。
「ドアホウやるのじゃ。今のは……水分身が消えた瞬間に水分身。その背後にドアホウ本体がいたって感じなのじゃ?」
「正解です。まぁ相手も水分身で本体を出していたら困るんですけど賭けですかね。こっちの動き様子見てましたし」
2段構えというか3段構えだ。
俺が師匠の手をとって体を起こすと邪竜も会話に入って来た。
「メルギナス。君の弟子は中々に面白いね、さすが自分を殺すというだけある」
「クロウベル君。前もいったかもしれないがナイ様を殺すような事はだめだからね」
「はっはっはっはアンジェリカ君。自分はもう何度も殺されそうになってるよ。前回は惜しかった……あと少しずれていれたら自分は死に彼はドラゴンスレイヤーの称号を得ただろう」
「惜しかったって……ナイ様。メル様もとめてください!」
アンジェリカが怒りだし、師匠の方を見た。
「…………なぜワラワが。この2人が憎しみ合って殺し合いするとして、ワラワが止めた所で問題は先送りじゃ、それにとうの本人が何も言って来ないなのじゃ」
「そうそう。アンジェリカ君は考えすぎだよ、自分は殺されるならしょうがないと思っているよ。自分も沢山人間を殺してるからね、アンジェリカ君だってそうなんだろ」
やばい、会話が殺伐としてきた。
止めに入ったアンジェリカだって真っ白か? と言われるとそうではないだろう。
聖騎士団の規則の中で極悪人を処刑だってしてる。
「今はその話は辞めよう。不毛だし俺だってこのクエストが終わるまでは邪竜を殺そうなど思ってないから」
「そうじゃの。今は離れたほうがいいなのじゃ。どうせ黒いドアホウもすぐに復活するじゃろ」
「は?」
「話聞いていたかい? ここの影みたいな奴。死なないんだよ……自分達が帝国の古代遺跡を封印もそれだって説明したよね。ひょっこり現れるから同じ場所にいない方がいいよ」
そういえば蜃気楼の古城で言っていた気もする。
「え? じゃあ別に戦う必要なかった……」
「ワラワも一撃放ってから後ろにいたじゃろ? ドアホウがどうしても戦いたいのかと思って、違ったなのじゃ?」
ちげーよ!
と師匠に言えるはずもない。
「ちげーよ!」
は!? 言ってしまった。
「まぁそう怒るな、先に進なのじゃ」
「そうだね。裏アーカスはどこかなぁーどこまで記憶あるんだろう」
師匠達が先に進んだ。
俺がちょっとほっとしてると、アンジェリカが俺の顔を覗き込んできた。
「君。今の失言で怒られると思ってたでしょ」
「な、何の事かなー」
「…………まぁいいけど。裏メル様や裏ナイ様もでるのかな?」
「それは勘弁してもらいたい」
でも裏師匠なら捕まえたい気もする。
先に行く2人に追いついて警戒しながら進む。
「城というか……」
「迷宮だね」
アンジェリカが俺の独り言に応えてくれた。
長いのだ。
本来城の基本である部屋の作りがなしていない。
長い廊下に左右の部屋。
本来謁見の間がありそうな所は何もない宝物庫になっていたり、トイレの横が天幕付きのベッドがある私室になっていたりもした。
「面倒なのじゃ」
「どうする? 自分がいっその事竜に戻って破壊するかい?」
「俺達が生き埋めになるけど!?」
「それ以前に結界が壊れない場合、ナイよ型に収まったヨウカンみたいになるなのじゃ」
あー……それは見てみたい。
「あの。ヨウカンとは?」
アンジェリカがヨウカンの事を知りたがっていたので説明する。
「あんこと寒天。砂糖を煮詰めて型に入れたお菓子。甘くて美味しいよ。イメージがつかなかったらソーセージの方がわかりやすいか、ようは邪竜が竜に戻った所で部屋の方が強かったら潰されるって事」
「流石元貴族! 物知り」
「それを言うならアンジェリカも貴族だろ……ねぇ師匠って」
師匠が俺を見ては目を細めてる。
「久々にドアホウの変な知識を聞いたのじゃ」
「自分はそんな食べ物知らなかったよ、今度作ってもらうかな」
っと、変な事を言ってしまった。
「それよりも、こう迷宮だとトラップとか気をつけてくださいよ。師匠って思ったよりもどんくさいんですから」
「ドアホウお主、ワラワの事を馬鹿にし過ぎじゃろ」
師匠が呆れた声を出したので、壁をさわりながら「いえ。そういう所も含めて好きだって言ってるんですよ」と、つい言ってしまった。
ふた呼吸ほど誰も喋らない。
突然に恥ずかしくなる。
「師匠、黙ったら俺が恥ずかしいんですけど! ………………ど?」
振り返ると誰もいない。
邪竜はいなくてもいいとして、妊婦のアンジェリカや師匠がいないのは困る。
「師匠どこに行ったんですかー? トイレですかー? 手伝いましょうかー?」
全く反応がない。
俺はふとカベをみた。
俺が手をついていた部分が青く光っていたからだ。
わーお……罠って奴!? え、もしかして俺が罠踏んで師匠達消えた!? と言うか俺がはぐれたのか。




