第159話 裏ボス再び
集合場所に一番最初に来たのはアンジェリカで、次は俺だった。
そのアンジェリカに挨拶すると俺は直ぐに師匠の事を聞く。
「師匠は?」
「メル様ならまだ……そのメル様の事で少し聞いていいかな?」
「師匠の好きな食べ物? それともあの垂れそうなおっぱい?」
「私はいいけど、そのうち本気で殺されるよ? そうじゃなくてメルギナスって何? 聖都に保管されてる禁書に出てくる魔女と同じ名前なんだけど?」
うっ!
そりゃあのクソ邪竜が本名で連呼していれば気づくわな。なんだって聖騎士副隊長アンジェリカなんだし。
「まぁその……色々あってそういう事かもしれない」
「知れないって、しってたわよね。何時から知ってたの?」
ここで最初から知ってました。って素直に言うとややっこしくなるので。
「一緒の旅をして怪しいなぁって思ったらカミングアウトされました」
嘘は言っていない。
俺から聞いたわけじゃないし。
「そっか。うーん大魔法使いメル様は英雄として迎えろって命令されているんだけど……魔女の事に関しては口に出すな。って聖王様からお願いされてるのよ」
アンジェリカが腕を組みだし考えている。
「じゃぁ見なかった事にしたら?」
「聖騎士が見逃せっていいたいの?」
「別に師匠だって悪い事してないし、そりゃ過去はあったかもしれないけど、そんなの全員が悪い事1度もしてないってのはないよ」
割と強引だけど、こうするしかない。
アンジェリカは強いよ。そりゃ本当に強い。
でも今は妊婦だし仮に捕らえる。って言って来たら逃げる事は可能だ。
とはいえ、今の関係を壊したくもない。
手配書は少ない方がいいし。
現に今帝国に追われている最中だ、ここで王国からも狙われたくはない。
「わかった。聖王様に相談してから決める」
「そうしてくれ」
アンジェリカが決断すると、まるでタイミング図っていたかのように人間姿の邪竜が歩いてくる。
「やぁおはよう」
「おはようございますナイ様。それとメル様」
アンジェリカがナイの後ろから歩いてくる師匠にも声をかける。
「おはようなのじゃ」
「おはようございます、師匠。今日もいいアングルで!」
「意味が解らんのじゃ……昨夜の話通り、古代都市まではいけるのじゃな?」
「もちろん。私がギルドに行って手続きしますので」
アンジェリカが頷くと。ナイが突然に指をかみちぎる。
「ナイ様!?」
「え、巨人にでもなるの!?」
「…………1人心配所が、よくわからない事をいうんだけど、自分が外に出るための魔法みたいなものさ」
邪竜の血が床に落ちると霧が濃くなっていって周りが見えなくなる。
談話室にいたと思ったのに調度品も消え足元が砂に切り替わっていった。最後は霧が晴れ……砂漠には俺達しかいなくなってしまった。
「とまぁこんな所だね」
ちらっと邪竜の手を見ると左の親指がない。
「再生しないのか?」
「城に戻ったら再生するよ? 以前と違って少しだけ遠いだろ? 城に自分の血肉を置いていかないと城どこか行っちゃうから」
「え。じゃぁ薬届けるのも自分で?」
「そこまで遠いともう城の放棄になるなぁ……まぁまだ期間はあるし頼むよ」
返事の代わりに息を吐く。
少しでも同情はしたくない。
…………ナイだけにってか。
「3人ともまずはイフの街まで」
アンジェリカの提案に俺達は頷く。
日が暮れる前にはイフの街について宿に戻った。
部屋は4人で一部屋。
ひと先ずは休憩だ、その間にアンジェリカとナイが冒険者ギルドに向かう。
俺と師匠は良く言えば留守番組。悪く言えば放置勢。
4人で冒険者ギルド言っても意味がないからね。
「師匠、アーカスって人はどんな人だったんです?」
「んー顔はアンジェリカと同じじゃな。直系の子孫でもないのに不思議なものなのじゃ……性格はもう少しお転婆じゃったか……まぁ奥手に近い奴じゃったな、話の流れで聞いているとは思うがワラワとナイ、アーカスにステリア基本は3人と1匹でパーティーを組んでいたのじゃ」
ステリアか……ゲームの中で小話で出てくる英雄の1人。
で顔グラもなければ何をしたのかも不明な人。
ゆいつわかるのは英雄アーカスの恋人だった可能性が高いって事だけだ。
「まぁ中々に面白かったのじゃ。最後は冒険者を辞めて放浪の旅にでたのじゃがな、手紙は続いたのじゃ」
「思ったより普通ですね」
「思ったよりも普通じゃろ? 困っている人間を助けたらいつの間にか英雄とか言われていたのじゃが本人達は迷惑そうじゃったぞ」
まるでクウガみたいなやつだ。
この時代に生きていればいい友人になったかもしれない。
そんな事を考えているとアンジェリカ達が戻って来た。
「お待たせしました。明日から10日間、地下下水道は完全に立ち入り禁止にしてきました。私達の貸し切りです」
「……流石は聖騎士」
「いやー凄かった。2人にも見て欲しかったよ、アンジェリカ君の姿。ギルド職員がごねる物だから、聖騎士特権を使って黙らせていたよ」
「それはだって、ナイ様やクロウベル君の実力を図ってくる人がいたから……面倒じゃない」
それは面倒だ。
にしてもだからと言って10日の貸し切りはすごい。
「嫌な事は食べて忘れましょ、夕食の時間」
アンジェリカがそういうと宿の女将が料理を運んできた。
――
――――
何となく無駄な時間を過ごしたようなきもしないイフに来て2日目の朝。
イフの地下下水道前に俺達は来た。
妊婦でありながら剣を持つアンジェリカ。
邪竜で現在は転生前の一番嫌いな顔をしているナイ。
魔法使いの恰好をした胸の大きい師匠。
アンジュの剣を手に軽装の俺。
「ドアホウ道は覚えているなのじゃ?」
「一応は」
「私も一応知ってます」
「自分は知らないけど、アンジェリカ君は自分の後ろに」
簡単な並びが決まると地下下水道へと入っていく、以前に封印した螺旋階段。
そこの地下が大きな城門となっていたはずだ。
多少の雑魚敵はでるも雑魚敵だ。
適当に倒すと、本能的なのか雑魚敵も俺達を見ては逃げ出していく。
懐かしい螺旋階段を降りて目的地に着いた。
「帝国の地下と同じタイプなのじゃ?」
「多分そうだろうね……まるで最初から地下にあったような街……いや最初から人の住むことが決まっていない都市かな?」
「どういう意味だ?」
俺が訪ねると邪竜の方はにやりと笑う。
「そのままの意味だよ。考えた事はあるかい? なぜ、街の上に街を、都市の上に都市を」
「ナイ様それは埋まったから」
「俺もそうと思うよ」
アンジェリカと俺は同じ意見だ。
邪竜は首を振る。
「長年調べたんだけど災害で街が沈むのはよくある事だけど、こうも綺麗に残るのはまれみたいだよ。しかも普通沈んだ街の上に街たてる?」
確かに。
ゲームが元だからってのもあるけど全然気にしてなかった。
「それも含めて……君、あの人に聞いてくれないかい?」
邪竜が俺の視線を地下城門前にうながした。
2本の剣を持った裏ボス。裏アーカスが俺達を見ては静かに構えを取り始めた。




