第156話 イフの街での妊婦さん
周りが暗くなっていく、弾となった俺の体が斜めになっていき発射までの時間が迫っているのがわかる。
「だせえええ!! この貧乳高飛車皇女! ふざけんな!!」
斜めになった動作がピタっと止まった。
狭い人間弾丸となった俺の耳に突然ノイズが走る。
『貴方がわめく声を聞こうと思って、こっそりそちらの声が聞こえるようにしてますの』
『うっわ。サンさんめっちゃキレてるよ?』
おーまいがっ!
「うるせえ! 確かに俺は移動したいって言ったよ? でも人間弾丸になるって聞いてない!」
ここは逆切れで乗り切る。
人間片方が切れてると押しに負けるか冷静になるかのどちらかだ。
押し負けてくれると助かる。
メーリス情報ではめっちゃキレてるらしいし。
「じゃぁ辞めますわ。徒歩でも泳いででも勝手に王国に行って下さいまし」
斜めになった体がまっすぐに戻ると目の前が明るくなった。
プシューっと音がすると弾丸の扉が開き目の前に皇女サンとメーリスが俺を見ている。
「………………あの」
「なんでしょう? どこぞにでもどうぞ」
「飛ばしてください……」
だってこれしか手が無いんだもん。
短すぎる時間で考えられる俺の手はこれだけなんだもん。
「聞こえませんわ……もっと大きな声で」
「飛ばしてください!」
「もっと!」
「飛ばしてください!!」
「ゾクゾクしますわ! さぁもう少しです!」
「どばじ――」
「あのさ、2人で何やってるの?」
以外にメーリスのツッコミで俺と皇女サンの言葉が止まる。
「サンさん。どうせこれに乗ってくれる人もいないだしデーター欲しいんだけど、あんたも芝居に乗らなくていいし、ちゃっちゃっといってくれる?」
「……メーリスさんに怒られてしまいましたわ。では最終確認しますけど」
「やってくれ」
しゅんと気持ち小さくなった皇女サンに確認されて、俺も頷く。
再び弾丸の中に閉じ込められると周りが暗くなった。
体が斜めになると足元がガクンと大きな振動を受けた、その後はエレベーターに乗った感じがし視界が一気に広がった。
ヒーローズの街、帝都、はるか先には海が見える。
心配していた重力の負荷は今の所ない。
行った事のない雪国エリアや、たぶん向こうの海を渡ると東方か?
世界地図を思い浮かべながら飛んでいると空中で体の向きが反転した。
つま先の方から落ちていく感覚がわかる。
景色が一気に切り替わって行って叫び声を上げる前に地面に突き刺さった。
声にならない声が終わると目の前の壁が音を立てて開く。
「………………こええええええええええ!!」
いや怖いけど凄い、落下した時なんて新雪に足を突っ込んだ柔らかい感じだ、目的地場所は教えた通りぴったりイフの街前である。
街兵が俺を見ては武器を持って走って来た。
「止まれ!」
「まって怪しい奴じゃない」
「………………本気で言ってるのか? 何の魔法だ……イフの街前に隕石で乗り付ける奴」
「あー……ええっと」
何て説明しよう。
帝国の姫さんに送って貰った。絶対無理だし帝国が攻めてきた。ってなるだろう。
偶然隕石に乗って来た。
だめだな。
「悪いね。私の知り合いだ……通してあげて」
「アンジェリカ様!?」
「あっアンジェリカ」
驚く街兵。
うん、俺も驚いた。
「アンジェリカ様と知り合い……さらに呼び捨てとは……これは大変失礼いたしました」
街兵が頭を下げてくる。
いやいやいや。
「頭を上げて……俺より年上の上に人に頭を下げられてもイジメてるみたいだし本当にただの知り合いなだけだし、俺に権力は何もない……でアンジェリカはなんでここに」
「色々あるけど、まず町の近くに隕石が降って来たら魔法と思って見に来るのが仕事よ。たとえ《《非番》》でも、ええ《《非番でも》》仕事をしないと!! わかったかしらクロウベル君」
「何かごめん」
絶対俺のせいだろう。
俺が飛んで来たのでその調査に非番のアンジェリカは駆り出されたに違いない。
「他の皆は? 聖女様とか、愛しのパパは? 貴方の大事なメル様は一緒じゃないの? 振られた?」
「ぶっはっ。パパってその……」
俺はアンジェリカの大きくなったお腹を見る。
話には聞いていたが妊娠してるし、やっぱりクウガの子がその中に詰まってるのだろう。
「アリシア達は帝国で逗留中。愛しのパパと呼ばれてる男は帝国の第一皇子に捕まって、下手したら牢獄。俺の一番師匠はとある場所でこれまた待機中」
「色々ありそうね。そっちも……宿決まってないんでしょ? 来る?」
一応俺としては手ごろな場所で師匠がいる霧の古城を呼びだせばいいだけだ。
「あのさ」
「なに?」
手招きしてアンジェリカを近くに呼び寄せる。
耳元で『蜃気楼の古城あったろ? あれを呼び寄せたいんだけどここに召喚したら駄目?』
俺から離れたアンジェリカはスーッと息を吸った。
あっ止まった。
「駄目に決まってる。あんな魔物だらけの場所をここに出したら崩壊するわよ」
「あー魔物がいたか……多分大丈夫じゃないかな……いやでもどうなんだろう」
「絶対ダメ! って言うか私非番なの。わかるわよね?」
「は、はい……」
絶対に揉め事は起こすな。っていう圧だ。
俺にだって予定はあるんだよ? 無許可で城呼べばよかった。
変に確認した結果、ダメっていわれたのだ。
「まっ、少し飲もうよ」
「…………妊婦だよね? 酒は控えたほうが」
「心配性は変わらずだねぇ、大丈夫大丈夫。ここには妊婦が飲む酒もあるからさ」
俺の手を引っ張る。
先ほど頭を下げていた街兵が俺とアンジェリカを見ては『自分は何も見てません』という感じで手で口を押え、片方の手は親指を立てる。
違う。
違うから、後あんた1人が大丈夫って言っても背後で見ている他の街兵が喋るだろう。
「アンジェリカよせ。変な噂がっ」
「噂1つで負けるような私じゃない。あっもしかしてメル様との関係にひびが入るとか?」
「馬鹿言わないでほしい、ひびが入ったら治せばいいだけだ。そもそも鉄よりも固いから俺と師匠の絆は」
「愛の絆は無いのにね」
うぐ……中々いたい所をついてくる。
「冗談よ。そんな落ち込まないで……ほら私でも子供出来たし」
「それも言おうとしたんだ。よくアリシアがいるのにお前達姉妹は……」
「え、でも彼女公認よ?」
「…………は?」
歩きながらアンジェリカと話を続ける。
「貴方の子供が無理だってわかって、聖女様達と子孫困ったねぇって話をしたらさ。あの子いいお話があるんですって……他の仲間を抑えておくから、まぁ成功率は低いって言っていたけど何とかなるものね」
なっちゃダメだろ。
アリシア何考えているんだ……色々聞きたいが聞きたくない気もする。




