第155話 騙された男は必死に叫ぶ、へるぷみー
1日目。2日目と時間だけが過ぎていく。
皇女サンから待てと言われているので仕方がない。
俺としてはする事も無いのでアリシアの家で時間をつぶす毎日。
「ド変態。勝負しよう勝負!」
庭で日光浴してる俺におおいかぶさるように見てくるのは武道家ミーティアだ。
「…………昨日もしたでしょ?」
「今日は勝てるかもしれないじゃん!」
「なんだったら一昨日もしたでしょ……」
「今日は勝てるかもしれないじゃん!!」
全く同じセリフを聞く。
初日に練習試合をして俺が勝った。
2日目も挑まれてそれも勝った。
2日目の夕方も挑まれて、手を抜いて負けてみたらキレられた。
で。今回の3日目である。
「やだ」
「ええええええええええ! いーじゃん。減る物じゃないしー」
「減るんだよ! 俺の命が!」
「ほえ?」
ミーティアは決して弱くない。
一度でも攻撃を受けると俺の骨が複雑骨折だ。
攻防の末にミーティアの脇腹に0距離からの水竜を出して勝利する事が出来たのだ。
にもかかわらず、こいつは連戦を望んでくる。
もしかして俺が死ぬまで続くのか?
強制イベントみたいに、断っても断ってもしつこいし。
「仕方ない……」
「やった! 試合してくれるの?」
「いや、勝ったら俺とえっちしろ」
ミーティアが一瞬きょとんとする。
どうだ、この条件ならやらないだろう。
なんだってミーティアはクウガに惚れてるからな、俺とエッチとはしたくないだろう。
「うーん……まぁいいよ」
「そうだろう、だから……ふふぁ?」
「何変な声だして……ド変態らしい」
「いやちょっと待てお前! 話聞いてた? その俺が勝ったら……おま」
「だから別にいいって言ってるじゃん。どうせクウ兄ちゃんは見てくれないしさ、だったらそのド変態のほうがまだミーティアちゃんをよく見てくれるしー……」
「はいだめー!」
俺は慌てて両手でバツを作る。
頭の中はフル回転だ。
「俺がミーティアを試したんだ。ここで怒るのなら普通に勝負したが、そんな精神では勝てるのも勝てない」
「うわっインチキじゃん!!」
「インチキじゃない……ねぇアリシア!」
会話の途中でアリシアの顔が見えたので急いでアリシアを混ぜる。
「別にミーティアちゃんがそれで幸せになるなら……」
「駄目だろ。ミーティアもクィルもアリシアもクウガが好きでパーティーに入ったんだろ? そりゃあいつは浮気者だけど、だからと言ってヒロインが浮気していいとは思わないし」
俺が素直な意見を言うとミーティアもアリシアも驚いた顔をしている。
「案外真面目」
「うん。クロウ君は真面目だよ?」
まぁ俺の信条というか続きはあるけど、それでもヒロインが主人公を捨てるならそれも仕方がない。とは思ってる。
「それに解ってるかと思うけど俺は師匠が好きだからな」
「むぅ……」
子供の様にふくれるミーティアの頭を軽くたたく。
「さて散歩でもしてくる」
ゆっくりと歩きアリシアの家から離れた所でダッシュして物影に隠れた。
あっぶねええええええええええええええええええええええ!
「死亡フラグだよ死亡。ミーティアと関係もってみろ。俺はクウガとどんな顔して会えばいいんだ。しかもだ。別に俺はミーティアの事をそんなに好きじゃない」
肉体だけの関係を持った所で別に嬉しくも楽しくもない。
師匠からは『おめでとうなのじゃ』って言われて疎遠になりそうだし、アリシアも『幸せにしてあげてね』って言われるのがおちだ。
で、散々浮気してるクウガからは『殺してやる』って襲われるのだ。
あぶない。
本当にあぶない。
平常心を保つためにぶらっとヒーローズの街中を回る。
以前来た時より復興がされていて、仮の冒険者ギルドや飲食店まで出来始めてる。
串焼きがあるので1本買うと、周りの魔力が変化した。
俺は慌てて振り返ると、固定要塞とかしたデーメーデールが大きな砲弾を放つ。
「うお!」
放たれた球は遠くに飛び爆音を響かせた。
地面が揺れ一瞬地震かと思うぐらいだ。
「びっくしただろ兄ちゃん」
「…………そりゃ、え。皆驚かないの?」
周りを見ても驚いた人間の方が少なく、店を出してるおっちゃんなんて平気な顔だ。
「よくあるからな。この街は皇女様がいないと成り立たない。それを知ってる皇女様はああやって帝国本軍をけん制してくれてるのだ」
「へぇ……」
政治的問題は専門家に任せよう。
俺は師匠の願いだけ叶えれればそれでいいし。
「おやっさん。適当に串焼き包んでくれる?」
「おう!」
アリシア達にお土産として大量に買い、アリシア邸に戻った。
ちらっとミーティアと顔を会わせると俺を殴るポーズして挑発してるので、さっきの事はもう大丈夫だろう。
「ミーティア。これお土産だ……後で警備に回ってるクィルにも渡してくれ」
「りょうかーい。それは良いんだけど皇女様呼んでたよ?」
「え。まじで」
ミーティアが頷く。
と、言う事は俺が王国に行く準備が整ったのだろう。
「明日の朝来てくれってさ」
「そっか……いや、ありがとう」
「べ、別に。クィルに半分渡してくるから!!」
ミーティアがなぜか怒って外に行ってしまった。
エプロン姿のアリシアが部屋の奥から出てくる。
「あれ、何かあったの?」
「わからん……ああ、そうだ明日の朝出ていくよ。サンの準備が終わったって」
「じゃぁ今日は宴会だね!」
別に普通の料理でいい。
宴会は湿っぽくなるし。とはチキンな俺はアリシアには言えない。
――
――――
「本当にクロウベル殿でござるか?」
「うっぷ……はい、本人です……うっ」
「クロウ君。バケツ、バケツあるから待って!!」
アリシアが急いでバケツを探す、俺としては気合何とか胃の中の戻す。
それを見ていた迎えに来た兵士が、とても迷惑そうな顔をしているのが見えた。
俺だってこんなに飲む必要なかったって思っていたよ? でもアリシアがどんどん俺のグラスに酒を入れるから。
入れて貰ったら飲まぬが作法。
で、空になったら今度はミーティアが酒を入れてくる。
それが朝まで続けばそりゃこうなる。
「で、あれば……皇女様よりお迎えに行けと命令されている……馬車に乗れそうで?」
「の、乗るよ……でもバケツ来るまでまっ…………」
「ひっ」
俺が口を開くとマーライオンになる。
その下には銀色のバケツが設置されていた。
「クロウ君セーフ!」
バケツの中に俺の胃の中にあったのが入っていく。
兵士が『アウトでは?』と呟くが、アリシアがセーフというのでセーフだろう。
「じゃ、じゃぁ行ってくる。このバケツはお土産で貰って行くよ」
「うん。大丈夫と思うけど死なないでね」
「極力気を付ける」
出来ない約束はなるべくしない。
死なないと約束するだけで死なないなら、今頃世界は冒険者で溢れてる。そんな世界だし。
迎えに来た兵士と馬車に乗って、数日前に来た要塞に入った。
いつもの部屋に案内され俺一人が入ると皇女サンと鍛冶師メーテルが目の下にクマを作って出迎えてくれる。
「うわっ! お酒臭い!!」
「いいじゃありませんか、こちらは徹夜して作ってましたのに、浴びるほど飲めるだなんて幸せな方ですわ」
う。空気がやばい。
間接的に酒飲んでいた事を怒られている。
「いや。その……ごめん」
ここでアリシアに誘われたからって、人のせいにしてもな。
「ふふ……旧友と酒を飲む。別に怒ってはいませんわ……今度はぜひわたくし達とも飲んでくださいまし」
「そりゃもう」
「ねーねー。そのバケツになに? お土産?」
ミーティアが俺のそばによってバケツを触る。
「馬鹿っ!」
「馬鹿って何よ、大事そうに何をも………………」
「ミーティアさん?」
「サンさん来ちゃダメ!!」
来ちゃダメ! って言われているのに皇女サンも俺のそばに寄って銀色のバケツの中身を見た。
「本来であれば皇女にこのような物を見せるとは………………死罪と言われても文句は出ませんわね」
「か。勝手に見たくせに……それよりも移動手段!」
このまま喋っていると本当に死刑になりそう。
本題に持っていかなくては。
「そうでしたね」
「こら! そんな所にバケツ置いていかないで!」
じゃぁどこに。
「こちらですわ。ついて来なさい」
皇女サンが部屋からでる。
途中ですれ違った兵士を呼び止め俺は銀色のバケツを押し付けた。
凄い嫌な顔をしていたけど、皇女サンが呆れた声で「処分お願いしますわ」とお願いしたのでなんとかなった。
心すっきり身もすっきりで着いて行くと大きな水晶並ぶ部屋に通される。
「魔水晶…………か? 大きい。人が入れるぐらいな大きさ」
「っ!?」
「貴方……」
メーテルと皇女サンが驚いた顔をする。
「いえ、メーテルさん、まだ大丈夫ですわ」
「だよね。だよねサンさん」
何の話だ。
「あながち貴方の考えは間違えてませんわ、この疑似魔水晶に手を中に入れます。入ってから説明しますわ」
という事は転移の門の派生か?
俺は言われるままに手をつける。するっと中に吸い込まれてしまった。
水の中にいるような感覚で中から開かない。
「っおい!」
「残念ですが、貴方の声は聞こえませんの……大丈夫ですわ。ちゃんと王国まで飛ばします。飛距離も魔力も計算されてますの」
「いやぁ有人の実験者いなくてさ、生きていたら感想きかせてね。理論上は大丈夫!」
おい。
いやな予感がする。
何て言った? 飛ばす……飛空艇、いや今は砲門着き要塞……。
「察しがいいですわね。長距離砲ですわ。では約束通り王国へ」
ばっ!
俺が叫ぶ前に、皇女サンの後ろにいたミーティアがレバーを思いっきり下した。




