第154話 別の手を考えておりますわ
皇女サンに願い事は? と聞かれたのでここはボケずに素直に行ったほうがいいだろう。
「飛空艇貸して。もしくは『コメットⅡ』」
「…………貴方に貸したのはどうされたんですか?」
「色々あって取りに行けない」
実は帝都にある冒険者ギルド。
そこの地下に転移の門があっていくつもの転移の門を使えば師匠の実家まではつく。
つくんだけど、まず最初に師匠の関係者である俺に尾行がついてる可能性があった。
ってか、酒場『竜の尻尾』で『尾行まではなくても手配書は回ってるだろ』と、店主のおやっさんが教えてくれた。
次に『転移の門』これはキーワード使えば魔力を流して使えるけど、師匠の家までの道がわからない。
転移の門の先に複数の転移の門があったり、仮に2択だったとしても次が2択とは限らない5択の時もあった。
全部調べる事は俺には無理だよ。
メモすればそのうちつくよ? でも外れ穴が安全とは限らない。
そんな事より楽をしたい。って帝都に戻ったら捕まったりした、人生は遠回りというけどさ。
「物思いにふけっている所申し訳ありませんが『デーメーデール』は現在固定砲台として半解体しておりますの」
「もったいな…………」
俺が素直な感想を言うとエーテルが「だよねだよねだよね」と俺に加勢してくれた。
「エーテルさんには申し訳ないですわ、でもああでもしないと」
「魔物が来るのか?」
「いえ、魔物は来ますけどそれよりも、その兄と父が襲ってきまして」
「サンさんの家族って皇帝さんでしょ? サンさんをこの街から奪い取ろうって来てね」
「散々放置した挙句、子が出来たと知ったら連れ戻そうとする父は知りませんわ。燃料である魔石などを差し止められましたの。で固定砲台として今は使っております」
なんていうか。
とても嫌な奴だったけど皇帝がちょっと気の毒になる。
「じゃぁ『コメットⅡ』は?」
「帝国にとられましたわ……どこかのだれかみたいに。もっとも取られる時に細工しましたので向こうで動かす事は出来ませんわ」
「なるほど……」
皇女サンに『わかりまして?』と説明された。
「まぁだったら仕方がないか……ちょっと王国に行きたくて、それも割と簡単に、馬車で行くと数ヶ月かかるだろ?」
危険だけど転移の門を使うか……ダメでしたって報告しに行くか。
でも一度受けた以上なぁ。
「メーリスさん」
「うんうん。あんたいい時に戻って来たね」
「…………え。何かあるの?」
「現在最悪の事を考えまして緊急脱出用の装置を作っている所ですの、それであれば王国ぐらいでしたら何とかいけそうですわ」
まじで。
「そうそう。だから数日まってよ。こっちもさいきなり来て、はいどうぞって言う訳に行かないし」
「それぐらいだったら待つよ。まじでありがとう」
俺は皇女サンとメーリスに感謝を伝える、2人ともとてもいい笑顔だ。
話が終わった所で背後の扉がノックされた、皇女サンが『どうぞ』というと車椅子に乗ったアリシアだ。
「あっクロウ君の邪魔しちゃったかな?」
「いや、今終わった所だ……ってアリシア、色々聞きたいけどクウガとサンやメーリスをくっつけたってマジで?」
「うーん、そういう事ここで聞くかなぁ……でもでも、聞いて! 私はクウガ君の幼馴染なの!」
そりゃそうでしょう。
「でも、クウガ君は苦しんでる……それを助けるのも幼馴染と思うんだ。これも聖女で私の務めだよ」
「…………お、おう?」
力説されて頷いてしまった。
クウガが1人モンモンとしていたから、浮気OKって事? なんで都合のいい女なんだ。
クウガの願いは最後はアリシアと結ばれる事なんだろうけど……アリシアは結ばれる事をしないで他の女性とくっつける。
いやちょっとまて、聖女じゃなくて悪女では……。
「クロウベルさん。貴方私達がいる前でもデリカシーの無い話をしないで貰いたいですわね」
「そうだよ。アリシアさんは悪くないんだし」
そうなんだろうけどさ。
「それよりもクロウ君、クロウベルハウスみた?」
「は? 何その壊滅的な名前」
はっ!?
俺は直ぐに皇女サンの方を見た。
「いい名前ですわね」
発案者はお前か。
「言いましたわよね。貴方の家を作ると。要塞の横に建設中ですわ、1階は工房。2階はお風呂、3階は開発室にしますの」
「まてまてまてまて! 全部お前達の要望の家だろ! 普通でいいよ普通で!」
「これが普通ですけど?」
あーそうだった。
皇女サンは城の一部を10才になる前から改造してる変態だ。
「メーリス! 何で止めないんだ」
「えー良い家じゃん。どうせあんただってめったに帰って来ないんだから来ない間は使わせてもらうつもりでいたけど」
「お前なぁ……人間畳一畳あればいいっていうだろ」
「東邦の規格ですわね縦1.5メートル横1メートル前後と聞いています。わかりました、それで作りますわ」
「それもまて」
皇女サンは絶対に一畳で家を作る。
「俺が言いたいのは普通の家でいいんだよ。市民の暮らし見たこと無い? 部屋数は5部屋ぐらいでも余る。それぐらいでいいから」
「…………仕方がありませんわね。では数日お待ちなさい、メーリス行きますわよ」
「はーい。じゃねぇ」
皇女サンとメーリスは部屋から出て行った。
残されたのは車椅子のアリシアと俺だけだ。
「で、数日いる事になったんだけど泊る宿などある?」
「無いよ? まだ復興中だし……私達の家に泊まればいいと思うな」
「…………本気で言ってる?」
「え、何か不味いかな? 女の子家だけどクロウ君が《《今さら襲ってくる》》とは思えないし……ミーティアちゃんやクィルさんもクロウ君なら大丈夫と思うよ」
聖女というかちょっと小悪魔みたいな性格だ。
あーそうだよ。
俺はアリシアを襲わないよ!? 例え裸でいてもな!
師匠の攻略に支障が出る。
師匠の支障ってかっ!
そもそも友人だしな。
「じゃぁ……頼むよ」
「りょうーかーいー!」
俺はアリシアの車椅子を押して部屋を出た。
――
――――
アリシアの好意でアリシア邸に泊まった翌日。
俺は欠伸をしながら顔を洗う。
ヒーローズの街の中、そこ少し外れにある家にはアリシア、ミーティア、クィルが3人で住んでいて、久々の再開に小さい宴会をしてもらった。
ちょっと涙が出そう。
だって俺こんな歓迎されたこと無いし。
「おはようード変態!」
「お前ねぇ……俺には名前が。で……お約束は終わった所でおはようミーティア」
「にへへ。少し訓練付き合ってほしいんだけどいいかな?」
「……俺が? ミーティアは武道家だろ? 俺の剣士タイプと違うけど」
「あっわざと負けるのも禁止、クウ兄ちゃんの時みたいにおかしな事するとメルさんに言いつけるよ」
「お前ねぇ……俺は一度も卑怯な事はしてない!」
ミーティアが「ふーん」って言うと「約束したからね」と帰って行った。
見事に滑った。
この世界の冒険者ってなんでこうも命を粗末にするんだ。
訓練だって死ぬんだよ?




