第151話 舞い降りた元貴族
やっぱ人間って目標があるといいねぇ。
自堕落に生きたい。と、思っても中々に暇で……だって食う、寝る、イチャイチャしかないんだよ?
しかも3番目は師匠がさせてくれない。
実質食う、寝る、だけだもん。
最初の目標はクラック王国に戻り、温泉の街イフに行く事。
帝国領から遠いがまぁ何とかしましょう。
なんとかって、英雄の街にいって皇女サンに理由を伝えた後『コメットⅡ』に乗せてもらうか借りるだけだけど。
「と、言う事でいいっすかね師匠」
「無難な所じゃな……まぁ本当にいいのじゃ? ワラワのために」
「師匠のためだから行くんですって」
後はまぁ、知り合いから頼まれても行くけどそれは黙っておく。
「恩にきるのじゃ」
「恩にきせます……って事で、そこでいつの間にか体洗ってる邪竜。明日にでも何所か現世につけてくれる?」
「んー君がいいならいいけど」
頭を洗っている姿を見ると、本当過去の俺がそのままいるみたいでめっちゃ気持ち悪い。
「さて……話は決まったので師匠、おっぱい洗いましょうか?」
「………………ワラワなので冗談で済ますが、本当嫌われるなのじゃ」
「うい」
今度こそ師匠が『いいのじゃ』って言ったら覚悟を決めて触ろうかと思っていたのに次回に期待するか……あーー。
「ドアホウ……顔が赤いな」
「流石に1日に2回ですからね……師匠が上がるまで俺はここに……」
「さっさと上がれなのじゃ。倒られても面倒じゃ」
もう少し師匠と同じ風呂に入りたいかったけど上がるか……。
「ではお先に……」
「うわっ! 君、自分はまだ洗っているんだけど!?」
「うるせっ、いくぞ『水竜』」
水竜を呼び出して、人間姿の邪竜を飲み込み泡をとる。
そのまま水竜から出すと泡が消えたのを確認する。
脱衣所にそのまま手をフルスイングして吹っ飛ばして俺も脱衣所に戻った。
ふらふらのまま軽く服を着て休憩室に倒れ込む。
のぼせたー……。
ソファーが柔らかくて気持ちい。
「強いのか弱いのか……」
「うるへー」
文句いうのもやっとだ。
仰向けになり天井を見てぼーっとする、連れてきた邪竜が俺に冷たい水を持ってくる。
これで前世の俺の顔で無ければいい奴なんだけど、めっちゃ嫌い。
「偽善者め」
「自分の事かい?」
「そうだ」
「んー君は自分の顔が嫌いみたいなんだけど……まぁこれはいいか。ゆっくり休むといいよ」
さっさといけ。と手で追い払うと邪竜も部屋から消えていった。
暫くすると師匠が部屋に入ってくる。
石鹸のいい匂いだ。
「ドアホウ大丈夫か」
「もう少し横になっていれば大丈夫と思うんですけどね」
「ナイからマジックアイテムを貰って来た。奴の血と魔力が込められた液体が入っている、使い方は見て知ってるなのじゃ?」
「中身開けて床にまけば」
「そうじゃ。現世と幻が交差しこの古城が現れるじゃろうと」
暫く師匠は俺の近くにいて様子を見てくれていたらしい。
らしいってのはいつの間にか俺が寝ていたから。
夕飯で起こされてその事を知った。
――
――――
翌日。
朝一番で起こされた俺は4階の窓にいる。
「あの師匠」
「なんじゃ?」
「俺が現世に戻るのはいいんですけど、4階から飛び降りろと? 普通死にますけど」
「ワラワの作ったパンを取りに飛んだドアホウなら大丈夫なのじゃ」
しまった。悪い前例を見せてしまった。
近くにいた邪竜が欠伸をしながら「と、いうか」と話し出した。
「君さ。湖もないのに湖から出れるわけないじゃん。永久に水面を迷って死ぬなら止めはしないけど。この辺だったらここが一番出入り口に近いんだよ、何……直ぐに足がつくから大丈夫。それとさ……もし自分の知り合いにあったら薬を頼むよ? 絶対に無理だろうけど」
馬鹿にした言い方だ。
ちくちくと嫌味と共に挑発をしてくる。
「俺がそんな挑発に乗るとでも」
「いや、挑発じゃなくて諦めたお願いなんだけど。君とメルギナスぐらいだよ、そんな態度。君は自分の事を邪竜って呼び捨てにするけど、竜の化身を捕まえてその願い事を足蹴にするとかさ。君達は面白いからいいんだけど悪人だったら殺してるよ?」
「めっちゃ悪人だけど、今からでも戦うか?」
「それは面白い」
邪竜ナイの魔力の質が変わった気がした。
殺気がこもり思わす顔がにやけ……師匠が俺の手を握ってくれた。
「はい? あっ師匠ってもしかして別れがつらいとか」
この照れ屋さんである。
「……ん。そうじゃな。ナイお主もワラワと手を」
「え? 何々……握手はいいけど自分はクロウベルと握手はしないからね?」
いいからいいからなのじゃ。と師匠は俺と手をつなぎ、反対側は邪竜ナイと手をつなぐ。
「ライトニングフルバースト」
「っ!?」
「!!」
師匠の詠唱が始まった。
逃げようにも手を抑えられて逃げれなくて全身が痛いくのたうち回るほどの痛みがはしる。
「うごぐあああああああああああぐががああああ」
「うがあああああああああああああああああああ」
邪竜ナイも一緒だったのだろう、体のあちこちから尻尾や手が人間の手になったり竜の手に戻ったり大きさまでもコロコロ変わる。
俺と邪竜ナイはしばらく床をのたうち回るとやっと息を整えられた。
「お主ら死闘は別に止めはしないのじゃ。じゃが時を場所を選ぶなのじゃ」
「あい」
「わ、わかったよメルギナス」
ヨロヨロと立ち上がった邪竜ナイはボロボロになりながらも人間の姿に戻った。
壁に手をつけて小さい声で「繋げるね」と俺に確認しだした。
俺の方も窓枠に手をついて小さく頷く。
「ドアホウ。返事ぐらいなのじゃ、ライト――」
「う、こちらクロウベル了解しました…………」
「まぁ下界はここより安全と思うよ……いってらっしゃい」
「うるへえ」
霧が濃くなると明らかに外の音が流れ込んできた、沢山の人がいる音が聞こえ始める。
背後から師匠が「飛ぶのじゃ」というので力なく4階から飛び降りた。
直ぐに体に痛みがはしる。
床に転んだらしくゴロゴロゴロと転がると、俺の腹が突然にけられた。
「うっ!?」
「賊の1人は逃げたままだ! 残念だったら置いていかれたのか、弾かれたか……」
霧が消えていくと俺の腹をけった男の顔が見えた。
第一皇子アレキだ。
「てめぇ……何でここに」
「…………頭を強く打ったらしいらしいな、ここは謁見の間だ。お前と魔女メルギナスが逃げようとしてまだ数分も立ってない。霧の中の消えたお前だけがはじかれて戻って来た」
は?
んなわけない。あれから結構な日数立って……あっ。
蜃気楼の古城の中と現実のタイム差だ。
前は蜃気楼の古城の中で数日凄し、外では一年。
今回は逆って言っていたのを思いだした。
周りを見るとクウガが捕らえられて縛られている。
俺の顔を見ると凄い嬉しそうだ。
「クロウベルさん! 僕は信じてました!! 助けに戻ってくれるって」
あっごめん。
普通に見捨てたよ? 死なないって聞いてたし。
「浮気者の男には黙っていてもらおう。なぜ妹を泣かすような奴が」
「いやぁ……皇女サンもクウガで喜んでいたんじゃない?」
「下衆が!」
俺の腹が再び蹴られた。
いっ!!
軽い冗談だって軽い。




