第149話 暇人起ちの入浴事情
風呂。
それは人生において楽園の場所だ。
森の中で雑魚敵と戦闘多かったし、返り血というか返り液体など汚れも酷いので作っと入る。
脱衣所を抜けた先には何て言うか……ちょっと唖然とする。
風呂は古城の隅にあって、ホテルの大浴場ぐらいに大きい。
大きいが浴槽の半分以上が霧で見えなくて、さらに見えない場所からお湯が永遠と流れて来てる。
試しに霧の向こうに行こうとすると何所までもお湯が続いて……。
あっだめだこれ、本当に遭難する。
「師匠に『気をつけるのじゃ』って言っていたのはこの事か」
風呂で遭難とかどんだけ大きい風呂だよ。って思ったけど納得だ。
さくっと入ると師匠のいるはずの部屋に行く。
ノックせずに入ると師匠がティーカップを置いて俺をちらっと見た。
「ノックぐらいするのじゃ」
「うっかり……師匠の秘密を見てしまってのイベントを期待したんですけど。普通に読書してるとは」
「やる事もないしなのじゃ」
「俺と子作りでもします?」
軽いトークだ。
セクハラという言葉はあっても訴えられるという概念がないのだ、この世界。
でも上位の殺される。という事はあるけど。
「ふむ……暇だからそれにするかの」
師匠は本を閉じると立ち上がり衣服に手をかける。
「ちょ! 冗談ですって……え、いや」
「そうじゃろうな。ワラワも冗談じゃ。それでなドアホウ……女性を口説くなら性交渉でOKを貰った後に冗談は一番嫌われるなのじゃ」
そりゃ俺だって知ってるよ!?
で、でも。突然いいよって来るとは思ってないじゃん……。
「もし俺がそのままだったら?」
「…………万が一にも無いとは思ったのじゃが、乗り気ならワラワも覚悟したのじゃ」
え。俺今とんでもない選択ミスした?
「も、もしかして俺の信用ポイント下がりました?」
「元から信用などないから大丈夫なのじゃ。まぁ信頼はしてるなのじゃ……そんなに暇ならナイと稽古でもしたらどうじゃ?」
「俺がアイツ嫌いなの知っていて提案しますよね?」
俺は師匠の座っているソファーの前に腰を掛ける。
本を再び読み始めた師匠は視線をこっちに一度向けページを開く。
「そんなに悪い奴じゃないんだがのう……ちょっと大きな砦を焼き滅ぼしたぐらいで」
考えているよりめっちゃ悪い奴だった。
「あれじゃぞ? 罪なき者を殺す悪人しかいなかったからなのじゃ。その砦」
「そ、そうなんですか? ならいいか……」
絶対に改心できそうな奴もいただろうけど、まぁしゃーない。
警察などないし、邪竜が動かなかったら最終的には国が同じことするだろうし。
こう時間が余ると、暇をもてあそぶ。
外で邪竜が言っていたが、暇が欲しい癖に暇になると仕事したい。みたいな衝動が。
「師匠は暇で気が狂わないんです?」
「狂うじゃろな、本を読んでいるが飽きる。ドアホウをからかっても反応悪かったしなのじゃ」
飽きると言いながら目線は本だしページをゆっくりとめくっている。
冗談は先ほどの奴か。
「反応悪い弟子ですみませんねぇ」
「まったくじゃ」
会話が止まってしまった。
「アリシア達は大丈夫ですかね? 皇帝とかあのクソ皇子とかさらったりしませんかね?」
「んー大丈夫なのじゃ? 皇女もいるし、アリシアで封印が解けるなら最初からアリシアに頼んでる、そういうやつらじゃ」
師匠がまた1ページをめくっては続きを読みだした。
…………これっていけるか?
何がいけるかって、師匠は本から目線を動かさない。
えっちな冗談も許される。
よし!
膝枕大作戦だ。
師匠の横に座ると師匠はまだ本を読んでいる。
素早く寝転がり本を読んでいる師匠の膝の上に頭を滑らせた。
うわーすっご。
師匠の顔が見えない。
そう目の前に大きな山が2つあって胸圧で顔が潰されそうである。
むしろ潰して欲しい。
師匠は俺にツッコミを入れる事もなくページをめくっていく。
手が届く位置に胸があるが、俺は触らない。
だって師匠が無反応だったら怖いもん。
「今の俺には膝枕ぐらいが丁度いい、師匠ちょっと匂うし」
「っ!?」
「しまった! 心の声が!?」
俺が防御をとる暇もなく、眉間に本の角が当てられた。
あまりの衝撃に耳から脳が出るかと思ってゴロゴロと床をのたうち回る。
「いっ! 痛いです。師匠!?」
「ドアホウ。黙って聞いていれば……色々あって入れてないだけじゃ! 風呂入ってくるのじゃ!」
師匠は本を置くと部屋から出て行ってしまった。
うう……別にいい匂いなんだけどなぁ。
頭に『癒しの水』を唱えるも打撲系なのであまり効いた感じはしない。
廊下を歩く音が聞こえると、部屋の外から邪竜が顔を出す。
「やぁメルギナスが怒りながらお風呂に行ったけど何かいったのかい?」
「何も……所で風呂覗ける場所ない?」
「…………君のそういう所も嫌いじゃないよ。昔いた友人を思い出すよ」
「いや。そういう答えを求めるんじゃなくて俺は覗ける場所を聞いてるわけ、そういう所も含めて嫌いなんだけど」
有るのか無いのかさっさと教えて欲しい。
「無いよ」
「無いのか……」
「自分に言わせれば雄も雌も別に一緒に入っていいだろうに。ついてるかついてないかの問題でしかないよね?」
「ふむ」
確かにそうだ。
動物も雄雌関係なく水浴びはしてる。
魔物もそうだ。
「初めてお前を好きになれそうかもしれない。行ってくる」
「逝ってらっしゃい」
俺は廊下歩き風呂を目指す。
大浴場と書かれた扉の先は脱衣所だ。
脱衣所の扉に手をかけて引っ張るとタオルを巻いただけの師匠がいた。
「はぁ……死ぬのと死ぬのどっちがいいのじゃ?」
「生きる選択肢くれませんか?」
「じゃぁ自分が与えるよ!」
邪竜の声に振り替えると、見たくもない顔で全身素っ裸のナイが仁王立ちしている。
股間のそれも転生前にあったそれに似ていて隠す事も無く堂々としたしたものだ。
「クソ邪竜! 変なのを見せるな!」
「変なの? 生殖器の事かい? 凄いだろ人間姿に変身するのに細部までこだわったんだ」
「こだわり過ぎだ!」
俺の目の前でぶらぶらさせている。
緊張すれば縮むのに、長いままってなんて自然体だ。
「お主ら……ライトニングフル――」
「待ったメルギナス! 別に昔の戦友として入るならいいじゃないか。この彼だって生殖器大きくしてるわけじゃないんだろ?」
「するかボケ!! 俺は日常的に発情してるように見えるか?」
俺が叫ぶと一瞬沈黙が支配した。
「え? 師匠。あれ邪竜? なんで何も言わない?」
「そ、そうじゃな。ドアホウも暇なんじゃろう」
「そうだよ。彼だって暇なんだ」
「いやあの、否定してほ――」
否定して欲しい。って言おうとすると師匠が手のひらを見せて来た。
「わかったのじゃ……エロい目で見たら2匹とも追い出すのじゃ」
「本当!? やったー人間姿で、それも皆で入るの久しぶりなんだよね。ほら君も早く脱ぎなよ」
「馬鹿、引っ張るな!」
なぜか2匹のくぐりにされてしまった。
師匠と風呂入れるならそれでいいか。いやいいのか?
全裸になり股間にタオルを巻く。
師匠は諦めたように最低限のタオルを持つと先に行ってしまった。
「君も往生際が悪いねぇ、ほらタオル取っ手取って」
「やーめーろー! 師匠だって最低限隠してるだろ!」
「隠されてないけどね。だめだよ? 変な目でみたら殺されるんだから、感謝して欲しいぐらいだ」
感謝はする。
感謝はするが……1つ言いたい。
「俺に便乗してお前も暇だからだろ?」
「そうだよ? 何百年も一匹で暮らすんだ、たまにはいいじゃないか」
さらっと重い事を言われると俺も何も言えなくなる。
「さ、ほらほら。メルギナスの背中を流してあげようよ。あれれー前屈みになってどうしたんだい?」
邪竜は見たくもない顔で俺をおちょくりだす。
「このクソ邪竜……先に行ってろ……」
「君が落ち着くのが先かメルギナスが出るのか先なのか」
邪竜はさっさと風呂場に入ってしまった。
俺も息を整えてもう一度風呂に行く。




