第148話 3人の共同うふふ生活を要望する
古城の小部屋で顔を洗う。
ここに来て二日目の朝? だ。
太陽が無いので昼も夜もわからないんだけど、古城の中央に大きな時計がありそれを見ての判断。
「あっ師匠おはようございます」
「ん……にしても相変わらず時間管理が面倒な所じゃ……朝になった気分がしないのじゃ」
「そうですね……所で逃げて来たのはいいんですけど」
俺としては師匠とここに一生引きこもっていたい。
もしくはこの中で2年ぐらい引きこもって、現実世界では2日。
アリシアに『ほーら、俺と師匠の子供だよ』とサプライズしたいまでもある。
「暫くは出ない方がいいじゃろ、後でナイの奴に帝国領を抜けたら教えて貰うつもりなのじゃ」
「まぁそれが安心か……地下も気になりますけど師匠と一緒の方がいいですし」
俺と師匠がタオルで顔を拭いているとエプロン姿のナイが入ってくる。
手にはフライパンを持っていて料理をしていたのが丸わかりだ。
「2人とも朝ご飯だよ」
「え。お前が作ったの?」
「せめて名前で呼んで欲しいなクロウベル君。自分以外誰が作るんだ?」
食堂で待ってるよ。と、言うとナイはそのまま消えていく。
前にあった印象と全然違う。
「師匠の前だからですかね。張り切っちゃって……きっも」
「ドアホウがそれ言う資格は無いと思うのじゃ……まぁ1人立ちした所で寂しかったのじゃろ」
「俺も寂しいです!!」
「その……前から尋ねたかった話があるのなんじゃ」
師匠が使い終わったタオルをカゴに入れた。
在庫はまだまだあるらしく使い終わったら捨てるそうだ。
後で師匠の分だけ盗めないかな……流石にひかれるか?
「え? ああ、何でしょう」
一瞬考え事をして師匠の問いを遅れてしまった。
「食堂に行きながら話すのじゃ」
「はい」
古城の廊下を2人で歩く。
なんてロマンチックな光景だろう。
窓から見える景色はジャングルが広がっていて、カイザーアイやカイザーラビットなど気色悪い魔物が見えるが師匠と2人ならどんな景色もロマンチックだ。
「このワラワが死ぬ、もしくは何百年も前にワラワが死んでいたらドアホウ……クロウベルお主はどうしたんじゃ?」
「その場合師匠の存在を知らなかったって話ですよね。普通に貴族の世界に甘んじ引きこもっていたかと……まぁなってない話しても」
「という事はワラワの事は知っていたんじゃろ?」
「まぁ詳しくは言っても信じて貰えないと思いますし正夢みたいなものです。この世界の事が何となく頭に入ってその中で師匠に一目ぼれをですね」
それっぽい事を言う。
今まで誤魔化していたけど、これならもっと誤魔化しがきく。
「嘘っぽいがまぁ信じるのじゃ……マリンダも同じような事言っていたのじゃ」
マリンダ。
師匠の過去の知り合いで、俺が知ってる唯一の転生者らしき人。
その知識を生かして好きなように暮らして天寿を全うしてる。
「どうも、ってももう俺の知ってる事なんて殆どないんですけどね」
食堂が見えて来たので自然に会話が途切れる。
中に入ると大きなキッチンテーブル。
その上にパンや飲み物、焼いた肉や野菜などが食べきれないほど並んでいた。
「いやぁ久しぶりのお客様だからね。好きに食べて」
師匠がため息をつきながら席に着く。
それでもパンを手に取るとナイフで切り込みをいれ肉や野菜をはさんで食べて行った。
ちょっとだけ『お前の家の飯何てくえるか!』と反抗しようかと思ったけど食材に罪は無いので俺もナイの料理を食べる事にした。
「ってか本当に食べないんだな」
「ああ、自分かい? 食べても食べなくてもいい体質だからね。むしろ食べると体長不良が」
師匠が手早くサンドイッチを作ると、ナイに手渡した。
「食べなくてもいいがナイのは偏食なだけなのじゃ。ほれ」
「メルギナス。自分の話聞いていた? 聞いていたよね……師弟そろって人の話聞かないよね」
いやな顔をしつつもナイは師匠に渡されたパンを食べ、ワインで飲み込んだ。
「俺も欲しい」
「ワインかい?」
「ちげーよ! 師匠俺にもパン下さい」
師匠は食べている動作を一度止めて俺を見て来た。
「パンなら腐るほど残ってるなのじゃ。好きに食べればいいなのじゃ」
「違いますー! 俺は! 師匠の! 手作りの! パンが! 食べたい! の!!」
「手作りも何も、このパンにその辺に並んでるのを挟むだけじゃよ?」
俺の顔の前にサンドイッチされたパンが出された。
そのパンを持っているのはナイで俺を見てはにやりとしてくる。
「しょうがない。ほら自分が作ってあげたよ」
「ふう…………殺すぞ」
「あっはっはっは、本当面白いよ君は。冗談だよ……メルギナス。彼は君の愛情たっぷりのパンが食べたいっていうんだ、作ってあげるといい」
「はぁまったくどいつもこいつも、ナイよ嫌がらせのつもりで言ったなのじゃ……」
師匠は手早くサンドイッチを作る。
まじで!? え。俺にくれるの?
突然席を立ったので俺も椅子から立ち上がる。
師匠は窓の前に立つと外にパンを投げ捨てた。
「ほれ。手料理なのじゃ、流石のドアホウも外に投げては……!? 馬鹿っ!」
馬鹿と呼ばれてももう遅い。
窓の外にジャンプした俺はパンを握りしめ城から落ちているからだ。
「水竜!」
短時間なら寿命も大丈夫だろう。
真下に召喚した水竜をクッション代わりにして着地する。
意思があるのかないのか水竜をひと撫でし魔法を解除、その頃には俺の口の中にはパンが詰められている。
「美味い」
この世に一番美味い料理は好きな人の料理である。
例え焼いた石であろうが師匠が作った料理なら食える! 意気込みだけはある。
「さてと……」
マジックボックスからアンジュの剣を取り出し襲ってくるカイザーアイの目玉を貫く。
破壊光線があちこちに飛ぶと森が騒ぎ出した。
城の方を見ると師匠が俺の顔をみたのか城の中に戻っていく。
無事が確認出来たって顔だ。
襲ってくる別個体のカイザーアイ。さらにカイザービートルを剣で切り裂く。
「何ていうか……俺って本当お山の大将なんだよなぁ」
これで世界最強って言う訳じゃないし、剣も魔法も上には上がいる。
弱くはないが一番でもない。
「えーあの邪竜と特訓するのー? 面倒だしいやだよ」
独り言をつぶやき5体目の敵を倒す。
6体目の敵の前で俺は心底本音を言う。
「自堕落に生きたい……毎日師匠とイチャイチャの先をして暮らしたい……」
「人間って不思議でさ……そういうけど自堕落に生きた人見たこと無いよ?」
なんと6体目の敵がしゃべりかけてきた。
「よーし、邪竜を狩って師匠に褒めてもらうぞー!」
「君ねぇ……5階から飛び降りる普通? 一応心配で見に来たんだけど、メルギナスはほっとけって言っていたけどさ」
「師匠がそういうなら大丈夫なんでしょ」
俺が言うと敵認定のナイは小さく笑う。
「昔来た自称占い師みたいな……あれも魂の色がおかしかったけど、君のはよりひどい」
「ほめ言葉か?」
「もちろん。色が変な人ほど面白い人間が多いからね」




