第145話 その男の笑顔にほれぼれする
砂時計の砂がどんどん減っていく。
この調子で砂が減ると残り10分って所か?
ちらっと薄目を見て周りを見るが師匠は微動だにしない。
クウガが祈るように手を組んでいるのはどっちの意味だろう。
耳を澄ませてみると「早く誰か来て! 早く誰が来て! クロウベルさんも鬼だ……」と祈ってる。
安心しろ実は俺もだ。
俺としては、かっこよくセリフを決めたけど大量殺人なんてしたくないからね?
どーしても師匠がこの街を破壊したいっていうならもうそれは仕方がないけど。
周りの兵士達が出たり入ったりして偉そうな兵士に耳打ちをしては外に出たりしてる。
砂時計が半分ほどなくなった。
薄目で周りを様子見していた俺は思わず兵士の偉い人と目があった。
助けてくれ。と目で訴えているが、俺も助けてほしい。
「いや待てよ」
俺が小さく言うとクウガの祈りも止まる。
偉そうな兵士も俺を見てゴクリと喉を鳴らした。
今だ!
部屋の奥から先ほどから入っては出ていく男。その男の足音が一番大きくなるタイミングで砂時計をクルっと逆さにした。
なんていう事でしょう。時間が戻りました!
砂時計の。
「クロッぶ!」
俺の名前を叫びそうになったクウガの肩を思いっきり叩く。
椅子に座っていたクウガが吹き飛ぶし、大きな音を立てるが師匠は微動だにしない。
ふう…………。
偉そうな兵士も胸をなでおろして、俺にこぶしを見せて『よくやった』と激励してくれた。
たのむよ。
こんな技何度も使えないし。
クウガが悲鳴を抑え椅子にもどる。
ドキドキの中俺も薄めを開けて黙っていると気配が動いた。
「ドアホウ」
俺は薄めを辞めて大きく目を開ける。
「なんですか師匠? あれーまだ砂時計は半分以上あるっすね」
師匠は砂時計を見ては俺の顔を見る。
「二度目はないのじゃ」
「…………はい」
かろうじて俺が返事をすると師匠はもう一度瞳を閉じて足を組みなおす。
この街の住民より先に殺されるかと思った。
きっと修羅場をくぐった事がありそうな兵士さえ震えている。
砂がどんどん下にたまっていく。
クウガガジェスチャーでひっくり返せ! と合図するけど無理だろ。
全力で首を振る。
上にある残りの砂が少しになり、兵士達が机の周りに集まっていく。
この砂が落ちたら目を閉じている師匠。
いや魔女メルギナスの怒りが飛ぶのだ。
先ほどから兵士がだんだんと減って行って半分ほどは帰ってこない。
逃げたかな?
帝都を滅ぼすって言っている師匠からは逃げれないだろう。
ああ、もう砂が肉眼で数えるほどしかない。
「馬鹿! クウガ机を揺らすな!」
「す、すみません! ああ……残り10粒!」
9。
8。
と砂が減っていき残り一粒だ。
その砂が上から下のに落ちた……。
師匠が立ち上がり杖を床に突き立てるように置いた。
周りの兵士が怯えるも一歩も動かない、玉砕覚悟の構えか。
「もっと早く来いなのじゃ。遅刻じゃよ」
師匠が少し柔らかい声でいうと奥の出入り口から杖をもった老人と1人の男が入って来た。
爺さんのほうは白髪で杖がないと倒れそうな雰囲気がある、その割に身なりは良さそうで気配が読みにくい。
男のほうは見た感じは30代から40代付近か? 金髪で若い時は中々のイケメンだったのだろう、今の顔もイケメンに入る。イケオジの類か? 中々に強そうな魔力を感じる…………いや、あれ? 俺何でこんなに魔力を感じられるんだ?
最近特にそうなんだよね。
っと、爺さんの方がしゃべりだした。
「なに。間に合ったようだなふぉっふぉ」
爺さんが部屋に入ると兵士全員が驚いた後膝を立て頭を下げる。
誰一人顔を上げないのだ。
ええっと誰だ。
「クロウベルさん……あれって」
「誰だっていいたいんだろ? 俺も知らん……けど、周りを見る限り」
とても偉そうな人だ。
「ふぉっふぉっふぉ。呼ばれたからのワシがグランパール皇帝ヴァルハラン・パール」
「同じくアレキ・パールだ第一皇子と言った所だろうな……」
へぇ…………これが噂の。
ゲームとしては顔ぐらもないし他国にいるはずの第一皇子、初めてみた。
一方爺さんのほうもゲーム内で特にイベントがない爺さんだ。
西の大地の作戦で顔を合わす事になるが別にそこだけだしな。
その後も『良く来たな』とかしかいわないし。
「だって。クウガ……あれ? クウガ」
俺の横にいたはずのクウガを見ると頭を下げている。
周りと違っているのはその姿勢で『土下座』スタイル。
「こ。この度は大変な事を! あれはサンからの誘いで一杯の酒を。その朝起きたら裸でっ!」
何の謝罪をしてるんだこいつは。
「ああ、そっか……サンと肉体関係持ったって奴を誤ってる?」
「ク、クウガさん! そんな具体的に言わないでください!」
「事実だろなんだろ……?」
「いや、まぁ……関係はしました」
ゴホンと咳払いがする。
見ると苦い顔の第一皇子のほうだ。
「妹の性事情をこういう形で聞きたくはない。黙れ」
「っ!? は、はい」
「おーこわ……」
アレキのほうが俺を見た。
「ではこちらが……貴殿が魔女の狗か」
「ワォーン」
いぬ。いや狗か? 名指しされたので鳴き声を真似してみた。
自分でも何で挑発的になっているのかわからないが。態度が気に入らない。
女性の権力には逆らいたくないけど、こうも敵意むき出してくると反抗したくなっちゃう。だって師匠の狗だもん。
「ふ…………」
あれ。笑った。
「許せ。挑発するつもりはなかった、魔女に従う……魔女と一緒の男と聞いて興味がわいたのだ。それとそっちの男は死刑だ」
アレキがクウガにそう言うと俺に手を差し出す。握手の合図。
俺は握手をしようと手をさしだすとクウガが俺の手を奪い取る。
「撤回! 撤回してください。クロウベルさんも何進めようとしてるんですが。僕が死刑なんですよ!?」
「…………いやだって皇女って知って手をだしたんだろ? 周りにばれる前に逃げないと……のこのこ帝都に戻る? 普通」
「だ、大丈夫と思ったんです」
クウガが必死に言い訳をする。
まぁ俺としてもクウガを死刑にするにはちょっとな……アリシア達との関係にひびも入るし。
「師匠。いい案を」
「この小僧の事は許してやってくれなのじゃ。どうも脳より下半身で考える奴らしいからの……逆に小僧を死刑よりも庇護したほうが良いなのじゃ」
「と、言うと? メルギナス。聞かせて貰おう」
「何、こいつは聖都バルチタンの上層部ともつながっておる」
アレキが顎に手をあてると考え込んでいる。
この辺は政治屋の話だ。
師匠の言い分は、クウガを殺すと聖都が黙っていない。という話。
「わかった死刑は保留にしよう」
アレキが下がると皇帝ヴァルハランが大きく息を吸う。
「まとまったようか、では客人を城に案内せよ!」
ニカっと笑うとさっきまでの緊張が一気に吹き飛んだきがする。
ペースを全部持っていかれた。
偉そうな兵士や伝令係ぽかった人まで一斉に動き出した。
あっという間に俺達の前にレットカーペットが引かれ、兵士はその横に座りなおす。
頭を下げて一切俺達を見ない。
「父上、あまり大きな声を出しては」
「なに、こんな楽しい事は久しぶりじゃふぉっふぉ。なんせワシの行動1つで帝都が吹き飛ぶん話だったぞふぉっふぉ」
師匠を見ると不敵に笑う。
どいつもこいつも狂ってやがるというか。
「何でもいいですけど……豪華なご飯ぐらいはでますよね? これだけ待たされたんですし」
「クロウベルさん! そ、そのあまり挑発しないでくださいって」
「あ……クウガにしては最後の晩餐か」
クウガは笑えない冗談は辞めてください。と俺に泣きついて来た。




