第142話 わたくしは宣言します『町の名を――』
クロウベルラン……『名もなき街』に戻るとかなりの人間がいるのが見えた。
ちらっと皇女サンを見ると『見くびらないで欲しいですわね』というオーラを放っている。
「こちらの顔をみていますが何か?」
「いや、モニターから見える街だった場所、俺達が出る前よりも人が多いなって」
「馬鹿ですか?」
答えを聞く前に馬鹿扱いされてしまった。
車椅子に座っているアリシアは顔を下げて小さく笑う。
クウガも顔をそむけた。
ここは下手にでよう。
「教えて頂けますですでしょうか皇女様」
「サンと呼んでくださる? 何でも知っていますくせに……飛空艇『デーメーデール』。帝都に戻り物資と人材を運んできたに決まってます。貴方達が洞窟に向かったのも一度ここで情報を聞いてからの行動です」
ああ、そうか。
直接来たにしては場所知ってるわけないもんな。
師匠がため息交じりに「当たり前の事なのじゃ」とダメ出しをする。
ごめんって。
「適当な所に降りるよ」
適当といってもミーティアが手を降ってるのが見えたので前と同じ場所につける。
エンジンをきりマスターキーの魔石をとると皇女サンが手を出して来た。
なんだ?
ハイタッチ?
俺は上から手をパシーンと叩く。
「キーですわ、キー! 『コメットⅡ』の鍵を返してくださいまし」
「えええ。くれるんじゃ」
「貴方……一度裁判にかけられます? いつ、どこで、この『コメットⅡ』まで貴方にあげるといいました? ねぇ」
めっちゃ怒ってる。
この流れで言ったら普通は俺の物なきがするじゃん。
裁判にかけられたくないので皇女サンに『コメットⅡ』の鍵を返した。
皆よりも遅れて外にでるとアリシアやクウガの周りにはいつものメンバーが集まって再会を喜んでいる。
周りを見ると冒険者ギルドで見たような顔が何人も見られた。
その一人を捕まえる。
体付きはよく筋肉もある大男だ。
上半身はタンクトップで男の中の男という感じ、現在の街の様子や発展を聞きたい。
「よう!」
「お、でたな美女とヒモ男」
「どういう意味!?」
「冒険者ギルド前で暴れていただろ、そこでついたんだよ。美人でこわーい魔法使いと、そのヒモ」
なるほど。
「ヒモも大変なんだよ? あの師匠のご機嫌取りで毎日夜も寝かせて貰えないんだし」
「へぇ……そいつあぁ大変だ………………おっとガレキの撤去作業しないと。じゃぁな! い、生きていたらまた会おう」
俺から逃げるように去っていく。
「あれ。何も逃げなくても」
「…………そうなのじゃな」
「っ!? 水盾」
俺は水盾を唱え頭をガードする。
師匠の杖が俺の腹を思いっきりえぐった。
「ぐっぼ……」
オロロロロロロロロロ。
口から胃液と共に血が出た。
死ぬ、本気で死ぬ。
のたうち回りながら自分自身に『癒しの水』をかけると少しだけよくなった。
これ俺もそのうち回復魔法効かなくなるんじゃね?
俺がゆっくりと立ち上がると師匠に向き直る。
「いつから」
「毎日夜がの当たりじゃボケ。何がヒモじゃ、本当はドアホウの股間を貫こうとしたのじゃ……感謝して欲しいぐらいなのじゃ」
「使い物にならなくなったら困りますもんね……《《師匠が》》」
師匠の目が細くなる。
「杖が汚くて捨てないと行けなくなるからなのじゃ」
「ええ、こんなに綺麗なのに!」
「脱ごうとするな! 変な噂が出回るなのじゃ!」
何人かの冒険者が俺達をみては見返すと顔をそらしむける。
「他の奴に見せても仕方がないですし、いいですけど。何の用事ですか?」
「暫くあのクウガを引き取るなのじゃ」
一瞬何を言っているかわからなくて師匠の顔を見る。
「え、いまなんて?」
「だからあのクウガを引き取る。と言ったのじゃ」
「断ります! なんなんですが。俺が数年かけてやああっと師匠とイチャラブしようとしたら、またクウガとか。夜でしたら俺1人でも――ぶっ」
いってえええ。
頭を杖で殴れた。
あまりの痛さにしゃがみだす。
「落ち着け、アリシアと少し引き離すだけなのじゃ」
「だったらアリシアを連れて行きましょうよ」
頭を押さえ続けていると師匠もしゃがんでくれた。
子供に諭すときに目線を合わせるって聞いた事があるけどそれに近い。
え、俺子ども扱いなの?
「要はアリシアに魔法を抑える事が目的じゃ、クウガの代わりにアリシアを連れて行って戻ってきてみろ、この街はクウガの子供ばっかりなるのじゃ」
師匠が淡々というので遠くにいるクウガを見ると、女性冒険者からちやほやされてるのが見えた。
アレも断ればいいのに女性に良いようにされてにやけ顔である。
数ヶ月、数年先にこの街に来たらクウガランドになっているのか。それはそれで見てみたいが、アリシアの事が好きなクウガと、幼馴染の立ち位置だけのアリシア。
また色々面倒そうな事が起きそうである。
「なに数ヶ月ぐらいで済むじゃろ。もう一つあって聖女をあちこち移動させるのもなのじゃ」
あー……なるほど。
アリシアは聖女だったわ、連れまわすと色々注目度が上がる。
「クウガ達にはこの話は?」
「すでに話しておるのじゃ。アリシアなど『今度は逃げないでね』って言っておったのじゃ」
それは怖い。
俺は屈伸しながら起き上がる。
「了解しました」
あれ?
今普通に返事したけど、師匠はまだまだ俺に付き合ってくれるらしい。
貰った飛空艇『コメット』一号が壊れて誘った旅だったけど、いやぁ良かった。
いくら3本勝負で負けたからと言って最後まで付き合う必要ない話なのに付き合ってくれるって事は俺の事が好きなんだろう。
「なんじゃ?」
「何でもないです」
「変な顔になっておるのじゃが、アレと一緒に住むぐらいならドアホウも巻き込んだほうが楽だからなのじゃ。ドアホウだってワラワとアレが一緒に住むと知ったら暴れるじゃろ……」
「子供じゃないんだし俺だってそんな事の一つや二つで暴れます」
師匠の杖が力なく俺の肩をつついて来た。
ツッコミの代わりだ。
「暴れるんかいなのじゃ」
本当に、本当に師匠が好きな人がいて俺が邪魔だったら消えるけど、今の所そんな話もないし。
なんだかんだで付き合ってくれる師匠に感謝しないと。
小さいながらも特殊な気配が来るのがわかった。
俺はとっさに身構え師匠の横に立つと、歩いて来た男のほうが驚いた顔で俺達を見た。
「ギースか」
長身で細身の槍使い。
魔法で長い耳を隠しているらしいが俺にはだぶついて見えたりも完璧じゃないらしい。
使えるのは時を止める魔法。
めっちゃほしい。男のロマンしかない魔法を使える彼であるが、貧乏な子。
「先ほどは挨拶もできなかったからな。貴女が……同胞……いえメルギウス様だったとは――」
「なんじゃ。懐かしい魔力と思ったら見ない顔じゃの魔力の色から希少属性持ちなのじゃ? もしかしてシーラの家系なのじゃ?」
「はっシーラは祖母です」
俺は指を折って数える。
祖母て事はギースの親の親。
ギースが100歳としたら場合、その祖父となると300歳ぐらい?
それを知っているという事は師匠は500歳ぐらいだろうか?
俺の腹めがけて杖の攻撃が飛んで来た。
慌ててキャッチする。
「…………まだ何も言ってませんけど!?」
「腹立ちそうな事を言いそうじゃったからなのじゃ」
「…………話に聞いてた通りよりお美しい」
ギースが師匠を口説きだした。
「褒めても何もなのじゃ」
俺は師匠の前に立って唸る。
「ガルルルルルルル」
「みっともないから辞めるのじゃ……シーラは?」
ギースは黙って首を振った。
死んだのかな……長寿ってだけでやっぱり死ぬのかな。
「師匠頼むから死なないでくださいね」
「縁起の悪い事を言うなのじゃ……さて、皇女様が少なからず祝勝会をするらしい。あのダンジョンも含め情報を共有するのじゃ」
「ですかね」
師匠が歩くので俺も一緒に歩く。
臨時であるけど教会の一部を冒険者ギルドが出張してきて色々事務処理に追われているそうだ。
俺のほうも大蛇に食われたアレックスの事も気になるし、誰も口に出さないけど俺の腕が生えてきたのも気になる。
アドレナインが出まくって痛くなかったけど、秘められたチート能力の発動かもしれない。
『再生』とでも名付けようか。
でも発動条件がまったくわからない、試しに腕を斬りたくないしアリシアだって魔法禁止になってる。
やる事が多すぎて色々つらいんだけど。




