第141話 クロウベルと街
洞窟からでると飛空艇『デーメーデール』が上空に浮いていた。
降りる事が出来ないのでそこから長いロープはしごが降りている。
「間に合いましたかしら?」
「サン!」
俺が答えると皇女サンは優雅に見えないスカートを託しほほ笑む。
そして俺を素通りしクウガの横に向かった。
クウガが力なく笑うと皇女サンはそのクウガに対して突然ビンタをする。
「うえっ!」
俺が驚いてみていると、なんとあの皇女サンが泣き出した。
泣いたといっても目から涙が落ちる程度で気品差は失われていない。
「貴方に何があったらわたくしとの約束はどうなるんですか!」
「そ、それは。緊急時だったし」
「いいえ。わたくしを支え未来の帝国を補う子供のために。とおっしゃったではありませんか」
ほう。
あれ皇女サンの手が自身のお腹をさすってる。
いや、え? まさかな……子供ってそういう事?
アリシアを見るとアリシアはなぜか得意げで頷いている。
「だからこそこの街は守らないと……それに僕達だけじゃない、他の皆だって残ってくれたんだ」
クウガが熱弁しだす。
まるで昼ドラをみているようだ。
その輪からゆっくり離れるのは終始笑顔のアリシアである。
俺と師匠の方へゆっくりと動いてくると、小さい声で「あっちにいこ?」と誘導しだす。
俺達が向かうのは着地している『コメットⅡ』のほうだ。
中に入るとアリシアがふらっと倒れる。
慌てて支えると息が荒いのだ。
「アリシア!? ええっと師匠!」
「こっちに連れてこいなのじゃ」
師匠は直ぐにベッドの方へ誘導する。
抱きかかえたアリシアをゆっくりと寝かすと師匠はアリシアの衣服をはぎ取った。
アリシアのお腹に大きな傷跡があり、治りきってないのがわかる。
「癒しの水!」
とっさに魔法をかけたが、俺の魔法で出来た水はアリシアの傷口をなぞるだけで消えていった。
「ありがとうクロウ君、少し良くなったよ」
「なわけあるかっ! 全く俺の魔法効いてないんだけど!?」
師匠のほうへ顔を向けると師匠はアリシアの傷口を丁寧に触っている。
そのさわり方が少しだけいやらしい。
さすがの俺もこの状況でボケる勇気はない。
コメットⅡの出入り口から誰かか入った気配がすると、まっすぐに俺達の方へ来た足音が聞こえた。
「クロウ兄さん!」
「あっノラ!」
「………………あっ。って何かな? もしかしてボクの事わすれてたとか言わないよね? 落とされた橋を調べたり怪我人の移動とか、仮の街にもどったらクロー兄さんが来てたっていうしさ……」
「もちろん覚えていたよ」
帝都出発する前は辛うじて。
そういえば居なかったのを完全忘れてた。
ほら、クウガのパーティーって基本4人だったしさ……。
「それより、どうした」
「この街の名前を皇女様が決めるって言いだして」
なんだ、そんな事か。
別に名前なんて勝手につければいいだろ。この大事な時に何考えてるんだあの皇女サンは。
と心の中だけにしまって笑顔になる。
「いいんじゃないの? それでノラが焦る必要ないと思うんだけどな。それよりもアリシアの事だ」
「…………ボクはいいんだよボクは。でもいいの? 名前……このまま行くとクロウベルランドになるよ」
「ぶっは!」
アリシアの小さい悲鳴と、師匠が「汚いのじゃ!」と同時に聞こえた。
「ご、ごめん。2人とも」
なのその名前が壊滅的に終わってる街の名前。
「ここはワラワとノラに任せておくのじゃ。アリシアだって何時までも下着姿見られたくないじゃろ……ついでにクウガを呼んでこいなのじゃ」
「あ、ごめん」
パンツ見えてるもんな。
ノラとハイタッチして俺は『コメットⅡ』から出るといつの間にか皇女サンが木の箱に立っている。
後ろには大きな板をもった騎士がいて大きな文字で『クロウベルランド』って書かれていた。
確か副司令官のルーバントという名前だったはず。
「うおおおおおお! 水槍!!」
俺は水槍を出すと、その看板を破壊する。
驚いた兵士達が剣を抜いて皇女サンを守るように隊列を組んで攻撃してきた俺を見る。
「あら。貴方でしたの?」
皇女サンが俺を見ると周りの兵士も警戒を解く。
「でしたの。じゃねええ! え。なにこれ、このクソみたいな名前」
「いい名前じゃありませんか。街を救ったのですよ? 貴方……帝国グランパール。その名前も初代皇帝パールの名前が使われているのです。王国もそうですわよね? 街の名前になるのにこれほど名誉な事はありませんわ。それにこの街に貴方の家を作るのですもの丁度いいではありませんか?」
当然のようにいう皇女サンの言葉は、かなりの正論だ。
「だが! やなの! 他の所でも俺の名前使おうとされたけどこの村で犯罪が起こるたびにクロウベルの街で犯罪って言われるのが嫌なの!! クウガも拍手しないで反対しろよ!? 中で師匠が読んでる」
逆らえないのかクウガは俺の軽く「すみません逆らえなくて」というと『コメットⅡ』の中に入っていった。
クウガが消えたのを確認したのか、皇女サンが俺に文句を言ってくる。
「…………わがままな。これほど名誉な事が」
「だったら、洞窟内で死んだアレックスにでもしておいてくれ」
「あら。見ないと思えばやっと死んでくれたのですか?」
そういえば皇女サンに何も言ってなかった。
いない事すら気にされてないアレックスは本当に人気ないんだな。
「その事もちょっと後で話がある……とにかく一度街に戻った方がいいと思う」
「仕方がないですわね……わかりました。ルーバント船の方を頼みますわ」
副司令官ルーバントは敬礼をすると皇女サンはお立ち台から降りて『コメットⅡ』のほうへ歩いてくる。
再び『コメットⅡ』の中に戻ると着替えをしたアリシアが車椅子でノラに押されていた。
「アリシア!?」
「別に歩けるよ?」
そう言うとアリシアは車椅子から立ち上がる。師匠がゴホンと咳をすると、アリシアは不満顔で車椅子に戻る。
「なんじゃ。皇女様も来たのじゃ」
「呼ばれましたので、大丈夫そうですかアリシア」
「ごめんねサンさん。私は大丈夫なんだけど……先生が」
師匠がまたゴホンと空咳をする。
思ったよりだめかもしれない。
「ドアホウ。操縦を頼む」
「うい」
操縦席に座ってペダルを操作する。
『デーメーデール』ではまだ負傷者の収容を行っていて俺達の方が先に発進する事になった。
ゆっくりと旋回してスピードを落としながらの運転に心かける。
何あるかわからないけど、よくよく考えるとこの飛空艇、シートベルトないし。
出前ありのラーメン屋みたいにある程度斜めになっても中は水平だ。でも急降下とかの時はちゃんと縦になったしな。
「まずアリシアの事じゃな。この馬鹿は回復魔法を使い過ぎじゃ……何度も自分にかけたのじゃろ、耐性が付き傷が治らないのじゃ」
事実だけを言う師匠に場の空気が思いっきり悪くなる。
昔アリシアが言っていた気がする回復魔法をかけられ続けるといずれは効果が無くなっていく。と。
「クウガ」
「僕のせいです…………」
「別にクウガ君は悪くないよ? 私の方こそ未熟でごめん、逆に皆に耐性がついて無くて良かったと思ってるよ」
2人が謝りだす。
「どっちも悪いのじゃ。アリシアよそもそも、そうならないために訓練したのじゃ。それを――」
「まぁまぁ師匠。《《年寄り》》の説教はそれぐら――――」
俺の腹部に痛みがはしってうずくまった。
「いてぇ……」
師匠が杖で俺を思いっきりついたらしい……そのとたん体がふわっと浮いた。
手は離していても俺の足はペダルを思いっきり踏んでいたのだ。
「ば、馬鹿! 操縦かんを離すなのじゃ!」
「うおおおおおお!」
皇女サンやクウガの悲鳴が聞こえる。
ノラは必死にアリシアを抑えアリシアも車椅子にしがみ付いている。
慌ててレバーを掴み急上昇させた。
体は斜めになったりしたが直ぐに平行に戻す。
「師匠攻撃するのはいいですけど時と場合をですね……本気で危ない」
「ドアホウが離すからなのじゃ、こう手を離しても飛んでられないのじゃ?」
「こ、コメットⅡは自動操縦ユニットがつけれませんの……離さないでくださいますか?」
気をつける。とだけいって椅子に座りなおした。
「で……なんだっけ……あーアレックスの事だ」
俺はアレックスが迷宮に捕らえられて迷宮のボスになった事を伝える。
「あの人らしいですわね。いいじゃありませんか皇帝になりたいと申してましたし、少し違いますが王になったのです。感謝されても文句は無いないですわ」
こわ。
流石皇女、一般人と違う考えにこわ。




