第140話 トカゲ
俺の目の前で杖を失ったアレックスが固まっている。
「貴様ああああ! アレックス様の宝を!! お?」
アレックスが叫んだのはそこまでだった。
黒くなった魔水晶型の魔物がアレックスの全身を貫き、昆虫のさなぎの様に包み込んだからだ。
「離れろ! 何かやばそうだ」
ギースが叫ぶ。
後ろに下がるもふらつくとギースが支えてくれた。
俺の左側が欠損したほうがやばい。
「クロウ君!! ヒール!!!」
俺の足元から光が現れると電池切れのように消え、ギースの後ろから2人組が俺の目の前に立った。
「アリシア……とクウガ!」
「クロウベルさん……」
お腹の傷も治ってないのだろう、アリシアは苦しそうにクウガに肩を借りている。
そのクウガもぼろぼろだ。
「クロウ君! しんじゃだめ! い、いまリザレクションかけるから!」
「…………無理なんでしょ」
「っ!? だ、大丈夫。もう少し待てば! ねっ」
大丈夫だったら先にヒールじゃなくてハイ・ヒールぐらいかけているだろう。
ようは魔力がきれているのだ。
時が止まった空間でも倒れている冒険者達、そのどれもが傷を負っている。
「じゃぁ……待とうかな」
「クロウベルさん!! 死なないでください」
うるせえ。
俺だって死にたくない。
前回は意味もなく死んだけど、俺だって行きたいわボケ!
「クウガ……そのあんまりアリシアを泣かせるなよ……ってか、お前に殺されてなかったら今の俺も無いんだし」
「ドアホウ!」
一瞬師匠の声が聞こえた。
「あっいよいよ走馬灯か……」
「そうまとう?」
「東の国でいう死ぬ前に見る思いでの事……師匠の心配する声が聞こえてきたから」
「ちっアリシア! マジックポーションなのじゃ!」
目の前の師匠は俺を抱きかかえるとアリシアにマジックポーションをの渡した。
「あれ……本物……ってか。そんな便利な物があるなら」
最初から出してほしい。
「サンが飛空艇で届けに戻ったのじゃ。それよりおい! 死ぬなのじゃ! ワラワの弟子というのなら」
「無茶苦茶いいますよね」
左半身が無く俺は師匠の胸に顔をうずめている。
右腕も力がなく倒れないようにギースにつかまっているのがやっとだ。
死ぬ前に左腕があれば師匠のおっぱいをもめるのに。
「なんだと……?」
「クロウ君?」
「クロウベルさん?」
ギース。アリシアそれにクウガが驚いた声を出した。
「いよいよ駄目だと思う」
「代表して僕が言うよ、クロウベルさんその左半身……」
「無いよ?」
痛みは全くない。
痛みの代わりに柔らかい弾力の感触が手のひらを包む。
「ドアホウ……少し目線を下げろなのじゃ」
「はぁ……死ぬ前までこき使って……うえっ!?」
無かったはずの左腕が師匠の右胸を揉んでいた。
夢で見てるのか左胸も揉んでみる。
どちらも大きい弾力で……じゃなくて……師匠の鉄拳が飛んでこないうちに離れた。
師匠の驚いてそれ所じゃないのだろう。
「腕、ありますね……アリシアが間に合った?」
アリシアを見ると、首を横に振った。
「まだ魔力が回復しないしかけてないよ……その生えてきたよう見えたんだけど」
「僕からも言うとメルさんに抱きかかえられたクロウベルさんの無くなった左側の肉体が再生しました」
「いやいや……そんなトカゲの尻尾じゃないんだし」
俺が冷や汗をかくと3人は離れる。
顔を上げると師匠でさえ引きつった顔だ。
「本当は魔物と思っていたのじゃが」
「師匠!」
「冗談なのじゃ……が……本当どうなってるのじゃ」
俺が知りたい。
周りの冒険者も魔法が解けたのだろううめき声を出しながら体を動かし始めた。
問題は水晶に覆われたアレックスだ。
こいつをどうするか、死んでいるのかすらわからない。
師匠も腕を組んで考え込んでいる。
「何かわかりそうです?」
「呪いではなさそうじゃな……とりあえずワラワで見張る。怪我人は先に脱出なのじゃ」
それが一番いいだろう。
動ける者から竪穴のロープを上がっていく、途中に大蛇がいるから気をつけて。と伝えると、どうやら違う道があるらしい。
生き残った冒険者は俺やクウガ、師匠になどに礼を伝えては帰っていく。
それはいいんだけど、俺に挨拶くるのは男ばっかりでクウガに挨拶しにいくのは女性ばかりなのは何なんだ。
これが主人公との差……べ、別につらくないもん。
「入って直ぐに横道あったじゃろうに」
「え。何それ知らない」
「まぁ後はこいつじゃなっ!? 散れ」
師匠がそう言うと、俺は水盾を唱えた。
五角形の盾が俺やアリシア達を守る。
表面の黒い魔水晶が砕け散ったのだ。
その破片が壁に突き刺さると、他の魔水晶と共鳴しだす。
「ウアアアア…………アア……あ?」
アレックスは俺達を見てはにやりと笑う。
何とも邪悪な笑みだ。
「ライトニングフルバースト」
師匠の声が聞こえたかと思うと、アレックスの死角から0距離で魔法を唱えた。
周りの魔水晶と共に光り、目を開けれないほどの白い世界になる。
「ってか失明する!」
「アリシア。クウガ目を閉じるのじゃ!」
「おっそ! 遅いからね師匠。あと俺の名前いれてない!」
目が慣れると先ほどと同じ洞窟になる、一つ違うのはアレックスがいた所に黒い魔水晶の固まりがあるぐらい。
それも人型の。
「先生……これは?」
「死なないか……まぁそれでもしばらくは平気なのじゃ」
「いや、何が?」
アレックスだった物を触ってみる。
「クロウ君!?」
「危ないですよ……僕が確認します」
「いやいいよ、俺の方が近いし」
見事に黒い魔水晶だ。
目を凝らすと黒焦げになったアレックスが内部にいてその目が俺を見ていた。
「眼があったっ!?」
「生きてるからそうじゃろうな」
「これで?」
「生かされているといったほうがいいじゃろな……迷宮ボスじゃよ」
「はい?」
迷宮ボス。
倒しても倒しても復活するアレである、俺も以前ヴァンパイアのボスを倒したが即復活した。
幸い迷宮から出れないので逃げた。
「理屈はしらんのじゃが迷宮は飲み込んたのを自由に組み替えるのじゃ逃げるなのじゃ」
「そ、そうですね」
俺達が縦穴から出ると地下から魔力の溢れる感覚を感じた。
師匠もアリシアも感じたのだろう必死で出口に向かうと、大蛇の部屋へとついた。
大蛇がちろちろと舌を出しては俺達を見ている。
「ちっ! ここはワラワがひきつけるのじゃ!」
「俺も残ります。アリシア、クウガ、ギースは先に」
「で、でも!」
議論してる暇はない。
背後からアレックスの魔力。前から大蛇だ。
「貴様ら……ま……て……こ……ろ……」
半分とけたアレックスが近寄って来た。
「師匠! こっちの蛇も来ます」
「何とか持たせるのじゃ!」
「水盾!!」
俺が水盾を唱えると大蛇のほうは俺に向かう事も無くアレックスへと攻撃し始めた。
目の前でアレックスが食われると大蛇の体がぐるぐると動き卵を守る。
「………………食われましたね」
「食ったのじゃ」
うん。よくわからないが今のうちに逃げたほうがよさそうだ。
俺も師匠も顔を見合わせ、直ぐにクウガ達とダンジョンの外へと向かった。




