第139話 光の一撃
ギースに文句を言われつつ縦穴に入る。
ロープを離した所で暗闇に浮かぶギースの顔が映った。
軽いホラーだ。
「何がどうなってるわけ?」
「周りを見てみろ」
暗いので見えない。
ツッコミしたいけど、ギースの顔が蒼白なのでここはだまって魔水晶ランプを動かす。
白や赤などの水晶があちこち見えた。
「魔水晶か?」
「…………よくわかったな。天然の魔水晶などこう多くある事は無い」
つい最近見たけど黙っておこ。
「へぇ……で?」
「中央部分だ、少し歩くぞ」
ギースと一緒に歩くと冒険者なのか何人もの人間が倒れている、どれもこれも怪我をしたり苦悶の様子など。
人形のようでちらっとギースを見た。
「時を止めてる」
「やっぱりか……」
もうしばらく歩くと異様な空気を感じる。
簡単に言えば心霊スポットに行った時の嫌な予感というか。
「アリシア…………」
俺は固まっている女性を見る。
腹から血を流しているようだがその血も止まっている。
その前方にはかばうように立っているクウガがいる。
クウガの前には大きな魔水晶が迫っていて突き刺さる瞬間である。
「意思を持ってる?」
「黒い魔水晶は明らかにおかしい……その先を見てくれ」
クウガを刺そうとしている触手のような魔水晶。
その先をみていくと黒い魔水晶から延びているのが見えた。
アンジュの剣を素早く取り出すと、腰を瞬間的に落とす。
最も得意とする居合切り。
間合いに入った瞬間に攻撃を繰り出すが黒い魔水晶から同じように触手のような魔水晶が現れて俺の攻撃を打ち消した。
数歩下がり間合いを広げる。
「………………」
「………………」
俺もギースも無言で、黒い魔水晶もそれ以上攻撃はしてこない。
し、死ぬかと思った。
「馬鹿野郎!! このクソギース! あれが生きてるなら生きてるって先にいえ! めっちゃ怖かった。何あれ」
「いきなり攻撃する馬鹿がいるか! 俺の魔法では周りの時間は止めれてもアレは無理だ」
この長寿男は肝心な事は何一つ言わない。
本当もてないよ? 一生独身の呪いにでもかかれ!
「とまぁこんなかんじゲフ」
「は?」
ギースがよろめいたので、慌てて支えるとギースの背中に変な違和感がある。
硬いのが当たり背中から黒い魔水晶がちょっと伸び出ている。
「ギースお前……」
「見ての通りだ。どういう原理かは知らないがコレが刺さった事により魔力が増えた。1人の時止めですら寿命が何百年と縮むと言われているのに、この付近を全部止めれたのもそのおかけになる」
「………………解決方法は?」
ギースは黙って首を振った。
近くの壁に寄り掛かるとギースはさらに続ける。
「安心しろ。自分が死んでもこの魔法は続く。いや解き方がわからない……と言った方がいいな」
「どれぐらい持つ?」
「そう簡単に死ぬ事はない、背中に刺さっているコレのせいだ。痛みはあるがな」
自嘲気味に笑うギースは静かに息を吐く。
「ここから出て助けは?」
「当然試した。見えない壁によって前に進めないのだ」
ギースが首をくいっと動かす。
その先には俺が伝って降りたロープがあった。
「まぁ物は試しに」
「無理だというのが――」
「いいからいいから」
まず俺がロープを使って少し上がる。
痛みに顔を歪ませているギースの手を取って登ってみた。
ぐ!
まるで下から引っ張らているみたいに重たい。
これはもうギースの嫌がらせである。
「おい! 力を込めるな!」
「こ、こめてなどない!」
「本当ー?」
「…………降りてこい、一瞬でも助けが来たかと思った自分が馬鹿だった。殴る! そしてどこにでも行け!」
あー怖い。
手を離してロープを下がる。地面に足がついた所でギースのパンチが飛んで来たので片手でキャッチすると次の手考えた。
次のパターンは考えてある。
「縛るぞ」
予備のロープでギースを縛り上げる。
「おい」
「何?」
「この縛り方はなんだ」
「きっこう縛り……いやか?」
「………………」
俺は慌ててロープを解いた。
緊張感をやわらげるために、『ツッコミ』まちできっこう縛りをしたんだけど、ギースはそれを嫌がらなかったからだ。
俺だって男の股下にロープをぎゅって入れる時緊張したよ?
なのに顔を少し高揚させるんだもん。
「なんだ。普通に縛るのか」
「よく考えたら効率はそっちのほうがいいから……」
普通に手足を縛ってそのロープを俺の腰に付ける。
これであれば上まで持っていけるはずだ。
俺がロープの中腹にいくと体が下に引っ張られる。
クレーンゲームのように手足をだらーんとしたギース。空中に浮いているのに重すぎて手首1個分も上に上がる事が出来ない。
「まだまだああああああっ……」
目の前でロープが切れると俺とギースは地面に打ち付けられた。
いってええ。
受け身をとったけど痛いのは痛い。
「わかっただろ? だからお前1人で帰れ……この魔法を解ける人間が来るまで封印したほうがいいだろう」
「絶対に攻略できるから」
元々『マナ・ワールド』がメインとなっている世界だ。
攻略できないはずがない。と、言うかしたい。
「ちょっと背中見せてくれ」
「痛くするなよ」
黒い魔水晶に触ると俺の体の魔力が吸われていく感じがした。
「っ!?」
慌てて手を離すと小さい魔水晶が俺の手に引っ付いている。
本能的にやばいと思っても離れない。
アンジュの剣を引き抜いて指先の黒い魔水晶を柄を使って粉々にした。
「はぁはぁはぁ」
「大丈夫か……」
「何とか」
寄生する?
指先から一気に魔力が吸われたかと思うと爆発的に魔力が増えたきがする。
「何をしてるんだお前達は」
俺は振り向くとアレックスがロープを伝っておりてきた。
「え?」
「馬鹿な! 2人もこの魔法が効かないだと……いや、後方の守りを買って出た騎士団の指揮官」
「アレックス様だ。それよりも貴様……突然いなくなるとはそんなにた宝が欲しいのか?」
ギースの方が何の話だ? という顔なので軽く説明しないといけない。
「こいつは、このダンジョンに宝を求めにきたクソ野郎」
「何を! 英雄アレックスの侮辱するな! 帝国管理のダンジョンに危険はないか調べるのが義務だ」
「と、いいつつしっかり宝漁ってるよな」
「どんな物があるか調べないといけないだろ!」
物はいいようだ。
アレックスが喋るたびにギースの息が荒くなっていく。
「ギース?」
「俺の力が抜けていく……」
ギースが倒れ込むと逆にアレックスの体が光っていく。
「な、なんだこれは!」
「こっちが聞きたい」
アレックスはすぐにその正体を明かす。古びた杖を握っていてその上部の先端が光り続けてる。
壁の魔水晶が白色から透明になり砕けていくのか見えていく。
「魔封じの杖……」
「そ、そうか! この部屋は魔力があふれている。その杖が周りの魔力を奪っているのだろう」
「へえ…………」
結構厄介な杖だな。
やっぱりこいつにはもったいない。
「アリシアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
っ!?
突然男の叫び声が聞こえた。
ってかクウガの声だ。
声の方へ走ると、黒く意思をもった魔水晶がクウガを貫こうとしていた。
ちっ!
「水盾!!」
クウガの前に水盾が一瞬出たと思うと書き消えた。
「なっ!?」
後ろからギースが聞こえた気がする。
そうか、魔封じの杖で俺の魔法も消えたのか。
「クロウ君……?」
血を流し顔面蒼白のアリシアが俺を見ている。
「『癒しの水!』」
案の定俺の魔法はかき消える。
「アレックス! その杖を捨てろ!!」
俺は叫ぶが、アレックスは何でだ? という顔だ。
あのクソ馬鹿野郎が!
俺はアレックスの前まで走ってその杖を掴む。
手の先から力を吸い取られるようだ。
「離せ馬鹿! この宝は全部俺の物だ! みろ、この魔水晶……全部アレックス様の手柄だ!」
「魔水晶ぐらい全部やるから杖から手を離せ!」
「断ると言っているだろう。見た所……あの水晶の魔物か? この杖が怖いらしいな……みろ、アレックス様に近づけないでいる」
アレックスを中心に……・いや俺とアレックスを囲むように色の無かった魔水晶が黒くなっている。
ちらっと背後を見るとクウガを襲っていた部分の色が白くなっている。
原理なんてしらないが、仮説とするとだ。
魔水晶の中を動き回る魔物という感じか、その魔物が俺とアレックスを囲んでいるのだ。
「ちっ! 『水竜』!!!」
ここで使わないとどうせ死ぬ。
俺は水竜たんを出すとアレックスへ攻撃を仕掛けた。
「ふん」
ネッシー型の水竜たんがアレックスに触れる前に杖で砕かれる。
わかってたさ。
アンジェの剣を握りしめ腰を落としている俺は馬鹿を見る。
竜をも殺せると竜本人からお墨付きの一撃だ。
杖ぐらいいけるだろが……。
「ふん。貴様らの事なんて考えついてるわ!」
馬鹿は既に動いていて魔封じの杖先が光っている。
光線!?
であれば俺の攻撃は間に合わない。
案の定光線は俺の体の左側を吹き飛ばした。
そのまま流れるように動くと俺は馬鹿の持っている杖を切り落とした。




