第132話 それは映画のヒロインのようだった
飛空艇『デーメーデール』が墜落した。
ゲームではほぼ最終の乗り物で墜落なんて一切しない。
それが墜落したのだ。
大きな土埃がおさまると近くに見えるけど遠い『デーメーデール』から人が降りてきた。
手にしていた何かを地面に投げ捨て歩いてくる姿はまるで映画のワンシーンだ。
「スタッフロールなんか流れて、これから復讐劇が始まるって。自作に続く映画」
「何の話じゃ?」
「…………独り言ですにゃ」
「きもなのじゃ」
なのじゃ魔女に言われたくもないが、きもいのは俺もそう思ったのでこれ以上は反論しない。
人影が大きくなって……遠いな。
「おっそ」
「ざっと300メートルぐらいの距離あるなのじゃ」
「俺達はここで待っていたほうがいいんですかね?」
漫画などはシーンがカットされて、もしくは墜落場所が主要人物から数メートルのギリギリな距離。
抱き合うワンシーンなどあるんだろうけど……300メートルでもあぶないよ?
飛空艇『デーメーデール』大きいからね?
そんな大きい飛空艇がたった4人で動かせるんだから作った人は天才だ。
その作った天才が息を切らせながら俺達の前に立った。
「…………大丈夫か? 行ききれてるけど」
「思ったよりも遠かったですわね……それより貴方達こそ大丈夫でしたの? 突然の嵐……偶然とはいえ助かりましたけど」
「偶然?」
偶然もなにもあれは師匠の魔法だ。
説明しようと口を開きかけた所で背中をつねられた。
「いっ!?」
「どうなされましたの? それより隣のご婦人の紹介はまだですわ。今は無名の発明家。サンと申します」
「魔法使いメルなのじゃ」
「まぁ貴方がメルさんなのですね。隣の方が探しておられましたけど、いうほどお胸は無いんですね。いえ、大きいのですけれど、牛よりも大きいく胸と尻に手足が生えたような女性。とお聞きしましたので」
「ちょ!」
言ってない!
絶対に言ってない!!
そりゃギルドに頼むときに「胸と尻が大きくて比較対象で牛とはいったかもしれないが、GかFカップだよ師匠は。
「なるほどなのじゃ……ドアホウ、後で話があるのじゃ」
怖い。
普段なら直ぐに攻撃してくるくせに!
「いや、師匠!? これには渓谷よりも深い理由が……ってそうだ! 飛空艇は無事?」
「あれを見て無事と思うなら目の玉くりぬいたほうがいいですわね」
飛空艇から炎こそ消えたがまだ白煙が出ている。
何人も乗っているのだろう遠くに人影がちらちらと見えた。
「どこに行くかはしりませんが、お茶の一つぐらいは出しますわ」
「それはよかった。俺達もサンを探していたんだ」
「わたくしをですか? 詳しい話は中で、メルさんもそれでよろしいでしょうか?」
「いいのじゃ」
爆風から守った馬車に2人を乗せて俺が御者台に乗る。
かっぽかっぽと歩くと、馬車の中から皇女サンの声が聞こえきた。
「にしてもあの魔物……不意を突かれ反撃するはずだったのですけれど」
「噂の4蓮砲は?」
「周囲の魔力の乱れですわ。4蓮のうち1門しか魔力を集める事が出来ず……離脱。そこからの……でもいい事もありましての。追ってくる魔物は魔力の嵐に飲み込まれましたわ。もっとも、飛空艇『デーメーデール』の推進も狂わされて――」
「墜落か」
「不時着ですわ! 《《不時着》》!!」
ごめんって。
皇女サンがこれだけ元気って事はよかったのか?
「貴方……いいましたわよね? 第二次制空権争いは勝てる。と」
「言った覚えはないよ!? ってかあの飛んでた黒い奴を倒してなかったのか、たぶん第一次にいたと思うんだけど」
「そういう情報は早めにお伝えしてくれますか? 第一次は直ぐにかえりましたの。どこかのだれかさんが勝てないって教えてくれましたので」
「俺だって別に全部を知ってるわけじゃないし……勝てないとも勝ったとも言ってないから、勘違いは勘弁して……」
少しだけ強くいうと皇女さんの圧が少し弱まった。
「…………そうでしたわね。申し訳ありませんわ……所でお2人で何を、貴方に譲った『コメット』はどこいったんです?」
「…………墜落した」
「だからデーメーデールは不時着です! 何度言わせるんですの」
皇女サンはデーメーデールと勘違いしてる。
壊した師匠は何も言わず空気とかしている。
「だから『コメット』が故障して落ちた」
「ありえませんわ! 小さいながらも耐久性抜群に作っておりますし、エンジンだって自動魔力吸収型。大気中の魔力をエネルギーに変えその回路はわたくしとメーリスさんで作った不動の回路、たとえ魔女の一撃でも壊れないと自信を持って言えますわ!」
その魔女の一撃で壊れた。
「サンとやら、その先ほどの魔力の嵐。アレに巻き込まれたようなのじゃ。大きい方もうそれで操縦不能になったのじゃろ。小さいほうも同じなのじゃ」
「…………そうなんですの?」
「え。ああ、そうなんですよ」
「そうなんですか……」
皇女サンの言葉が小さくなっていく。
ブツブツと言っており『取り込んだ魔力の省エネ化』など聞こえてきた。
流石に馬車だけあって目的の飛空艇までつくのが早い。
人も多く鎧を身に着けた集団が俺達を出迎えてくれた。
鎧に統一性があり騎士団に見える。
その中で少しおっさん顔の奴が俺と師匠の前に立ちふさがった。
「姫様! 不用意に降りられては……それにこの怪しい奴は!? 貴様冒険者か? こんな所で何を。戦力の増援を送ったはずだが貴様達2人か? 他の物はどうした?」
質問が多い。
だから頭の固い奴って嫌なんだよ。
俺が答える前に師匠を見ると思いっきり不機嫌な顔だ。
「答える義務は無いのじゃ」
ほら。
「何を! 帝国騎士隊と知っての狼藉か!」
「ほう、雑魚の竜もどきにすら負ける帝国騎士隊。何ともかわいらしい事なのじゃ」
魔力きれの師匠がふん、と鼻を鳴らすと言いたい放題である。
「なんだとおお! 空中戦だから仕方が無いだろ!」
「アレックス。少しお下がりなさい」
「いけません姫様! こういう態度のなっていない奴はろくなやつがいません」
皇女サンが権力をたてに命令しても、このアレックスって男は敵意むき出しだ。
涼しい顔の師匠は欠伸をしだす。
「ドアホウ。帰るなのじゃ」
「え? いや師匠!?」
「大方勝てない敵が出たので冒険者に甘い汁を見せて置いていき、その間に逃げるなどの捨て駒にしようとしたんじゃろ」
え、そうなの?
俺は皇女サンを見ると首を横に振る。
「ち、違いますわ」
「貴様、女だからといってふざけるな!」
おっさんが剣を抜いて師匠の胸ぐらをつかもうとしたので、俺もそれに応える。
アンジュの剣を抜き、おっさんの剣を弾きとばした。
「ぬお……貴様ら! 第二部隊。こいつらを捕まえろ!」
「第二部隊。動かないでくださいまし」
「姫様!?」
命令が二つ同時に出た場合はより上の命令が優先される。
この場合は皇女サンの方が上なのだろう。
最初のおっさんの命令で剣をもった兵士たちが皇女サンの命令で一斉に剣を収めた。
「そう言われても仕方がないですわね……この方は大事な客人ですわ。さてデーメーデールの自動修復機能で治るまでお茶をふるまいますわ」
一切弁明もしなければ言い訳もしない皇女サンに師匠もそれ以上は何も言わない。
おっさん1人の殺気の中、俺と師匠はデーメーデールの中に入る事になった。




