第128話 魂のジャンケン勝者
転移の門をくぐって何所かの地下室に出る。
俺が先に出ると、次に師匠が転移の門から出て来た、師匠は軽く門をたたくと魔力が消え額縁へと戻った。
近くに置いてある額縁を叩くと新しい転移の門が現れる。
「たく……何でワラワも」
「引きこもりは体に悪いし、おっぱい揉む代わりについて行くってなったじゃないですか」
「最後はジャンケン勝負じゃったのじゃ。あそこでグーを出しておけば……」
先ほどの交渉、俺だっていきなりおっぱいを揉めるとは思っていない。
当然断る師匠。
じゃぁ代わりに尻を触らせてほしいから断れ。
何とか、つけている下着を欲しい。まで行ってそれも断れ《《本命である。せめて一緒に行きましょう。》》まで持っていったのだ。
師匠もそれは薄々感じていたらしく、勝負に勝ったらなのじゃ。と、俺との心理戦。
リバーシ。トランプ。一勝一敗で最後はじゃんけんで決着がついた。
あそこで負けていたら今頃俺は1人で行かないといけない。という地獄が待っていた。
リバーシは勝ったんだよ。
それなのに師匠が3本勝負って突然付け加えるからじゃんけんになっただけで。
…………まぁ負けたら負けたで何か考えるけど。
とにかくパーを出してよかった。
「ほれ。さっさと行くのじゃ」
「へい」
「返事ぐらいちゃんとするのじゃ」
「いや、普段から『のじゃ』つけてる師匠に言われても」
師匠の動き止まって俺を見る。俺も当然師匠を見て数秒固まった。
「ちっ」
「酷い……」
「うるさいっのじゃ。ええっと先ずは飛空艇やらを治す事じゃな?」
「そうですね。俺じゃ無理ですし、帝都グランパールっすね」
皇女でありながら飛空艇を開発したサンと、鍛冶師メーリスの2人がいれば治るんじゃないですかね。と、師匠には伝えてある。
「ドアホウは知らないかもしれないのじゃが、ワラワは基本引きこもりじゃぞ」
「魔女なのに」
「魔女だからじゃ……」
ノラでもいれば「それどっちも関係ないよね?」って突っ込み入りそうな内容だ。
「場所によってはバレたら殺されますもんね」
「さすがのワラワも黙って死にたくはないのじゃ、さてここからは幾つかの転移の門を連続でくぐるのじゃ」
「うい……はーい」
一応弟子らしく言い直した。
にしてもだ、この師匠こと魔女メルギナス。
絵本の中で魔物と並べられるぐらいに凶悪なのだ。
噂だけだけど。
師匠いわく、本人は多少心当たりあるが何もしてないって言うし。
何個目かの転移門を抜ける。どれもこれも同じような部屋なんだけど気温が寒かったり熱かったりと確実にワープしてるのはわかる。
師匠の手順が早くて1人では帰れそうにもない。
「にしても早いっすね」
「帝都への転移の門はまだ生きておるからなのじゃ」
最初からこれ知っていれば師匠の住んでる隠れ家まで飛空艇で行く必要なくない?
邪竜の里によってから一週間ぐらいかかったよ?
今度全部の転移の門の相互の道をMAP作るか? 攻略ページにもあったと思うけど飛空艇手に入れてから使わないから誰も興味なく更新されてなかったんだよね。
「ほれ着いたのじゃ」
「9回目の転移の門ですね。疲れた……」
「魔力消費激しいからなのじゃ。まさか本当についてこれるとは思ってなかったのじゃ」
「そうなんですか?」
別に1つの転移の門くぐるだけなら疲れないらしいが連続して使うと体内の魔力が無くなり疲労、最悪は死ぬらしい。
「そういう事は早く言ってもらえません!?」
「ドアホウなら死なないじゃろと思ってなのじゃ」
「死ぬからね俺だって!?」
師匠が「そんな事も無いじゃろな」といっては地下室から延びる階段を上る。天井のふたを師匠が開けると俺が見おぼえある場所に出た。
「あれ、ギルドの地下室かここ」
「なんじゃ、来た事あるのじゃ?」
「ええ、まぁクウガを保管してもらった場所ですし。さらに地下があったのかここ」
出て来た板を床に戻すと、表面からじゃまったくわからなくなった。
思わずさわるも他の床と一切かわらない。というか開かない。
師匠を見上げると、にやっと笑った。
「さすがのドアホウも驚いたのじゃ? ここの転移の門は特別な解除魔法がいるからのうじゃ。代々のギルドマスターしか知らんはずじゃ」
思ったよりも知ってた。
例えば3人のギルドマスターがいたらそれを確認する秘書もいるだろうし絶対喋る奴だっているだろう。
2人で地下室を抜けると懐かしの帝都の風が俺を包む。
「で、その皇女様とやらは城なんじゃろうな?」
「と。思いますけど?」
アリシア達に挨拶でもしたいが、別に特に用事があるわけじゃないので今回はギルドに寄らない。
そのまま城にいき、少しドキドキしながら皇女サンが暮らしている城内へと行く。
前回までは顔パスであったが、今回も顔パスだ。
と、いうか人がいない。
あるのは崩れた城と片付けられた瓦礫の山。
瓦礫の山には布がかぶせられていて城のあった場所は大きな空洞が出来ている。
「この城半分ほど崩壊しとるのじゃ」
「どうみてもそうですよね」
どう考えても飛空艇『デーメーデール』の飛び去った後。
それも何日もたった予感がする。
「こらそこ一般人の方は危険だから立ち入りは禁止の紙をみな……貴方は」
一瞬皇女サンに呼び止められたかとおもったが男の声で俺は立ち止まる。
振り返ると、いつも俺の事をみては城の中に通る事を許していた隊長らしき男性。
「ど、どうも」
「お久しぶりですな。クロウベル様」
「…………名乗った事ないよね?」
「皇女様から依頼を受けてクロウベル様を調べたのはこのラルですからな」
「余計な事を」
「何か言いましたか? クロウベル様」
慌てて首を振る。
「話の最中すまんのじゃ。こやつの飛空艇を作った人間はどこじゃ?」
「こちらの女性は?」
「ああ、俺の師匠でちょっと年行ってるけどまだまだ現役なっ!?」 水盾ええええ!」
真上からライトニングバーストが降って来た。
何とか水盾で相殺させ前を向く。
「危険はない師匠です。はい」
「…………魔法の威力が凄い城の対魔の結界が解除され?……ああ、いえ。独り言です。残念ながら皇女様とそのご友人であるメーリス様も現在は城にいません」
「どこに?」
「どこって…………はるか西の盆地ですけれども。第一次制空権争いは故意に負けたのです。そして先日姫様が満を期して発表された飛空艇『デーメーデール』その実験機である小型飛空艇『コメット』そのデモンストレーションは無事成功した。と何も聞いてないですか?」
もうそんな時期か。
ってか、何乗って行っちゃってるの!? そこはクウガの帰りを待つシーンだろうが!
「あっもしかして。クウガって冒険者も一緒に」
「はい。なんでも誰かの代わりとかなんとか……しばらくは帰ってこないでしょうな。もしかして誰かとはクロウベルさんの事だったのかもしれません」
「そんな事はない」
城のええっとだれだっけ。
帰ったら連絡を入れますか? と聞かれたので断りいつもの『竜の尻尾』の酒場に行く。
店内に入ると客は少なく店主に「久々だな」と言われた。
個室を用意してもらって酒と料理を胃の中にいれる。
「師匠、この小瓶の届け先って普通のルートは? もしくは転移の門」
マジックボックスから師匠から貰った小瓶をテーブルに置いてくるくると回す。
「あの辺は多少なりとも転移の門はあったのじゃが、ほとんどが水没してる……もしかしたらワラワが知らない門もあるかもしれないのじゃが、一番近い街から行くとしても半年以上なのじゃ」
「特に行く用事無い場所ですし」
となると。
クウガ達を待つか、迎えに行くか、依頼破棄。
「依頼破棄にするのじゃ?」
「凄くいい提案なんですけど、それが出来るなら俺はもう破棄してるんすよね、期限こそ決まってないですけど」
いや。
師匠はこのクエストやったんだよな。
情報が欲しい。
「この血液を待ってる少女って誰なんですか?」
「呪われた少女なのじゃ、あ奴が古城から離れられないように、少女のほうも迷宮に捕らわれている。あ奴の血で少しの間外の世界に出れるようになるのじゃ」
へえ。
なんとも悲しく愛の物語だ。
何かひっかかる。
「であれば、やっぱり届けたいかな」
「何でも知ってる癖に常識を知らないドアホウであるが、そういう所はワラワは感心するのじゃ」
「師匠の弟子ですからねぇ……俺も師匠と会うまでは師匠は、冷徹で行き遅れた怖い怖い魔女と思っていたけど、案外優しいし――」
俺が褒めまくると師匠は「ちょっと待つのじゃ」と俺の言葉をさえぎった。
「何でしょう?」
「ドアホウ……その冷徹でいきおくれた怖い怖い魔女だとわかって、押し倒して胸を揉んできたのじゃ? ワラワはてっきり修行中に気づいたのかと思ってなのじゃ」
「…………今日は俺のおごりです」
師匠は思いっきり聞こえるようにため息をつくと酒を頼みだした。




