第127話 汚部屋の改善は無理だよ……
この世界『マナ・ワールド』のスイーパーである俺の朝は早い。
世界は悪人で溢れてる、俺はスイーパー。
そう、掃除屋だ。
事務所『コメット』で軽い朝食をすまし、朝のシャワーを浴びて徒歩5分の今日の現場へ行く。
もう何年も家に帰っていない生活だ。
この世の中には悪人が多すぎる。
事務所から歩き数分、今回の仕事場に前に立った。
木製出来た数段の階段を上がりノックをすると扉が開いた。
依頼人である魔女メルギナス。
今は偽名を使ってメルという名で人の世に紛れ込んでいる、依頼人でありターゲット。
昨日は気づかなかったが、少し熟れた果物の匂いが俺の鼻をくすぐる。
「師匠おはようございまっ」
「ふぁ…………のじゃ」
無理に欠伸の後に『のじゃ』をつけなくても、欠伸をして俺を軽く見下ろすと入れ。というので現場に入る。
まるで殺人事件でもあったかのような場所。
スイーパーの目はごまかせない。
昨夜食べたのは何かのメン類だろう、新しいドンブリに残った汁が入ってる。
「ってか師匠飲んだ汁は捨てないと……」
街のスイーパーごっごを辞めて素に戻る。
割と疲れるのだ。
「後で飲もうかと……今朝になったらもういらないのじゃ」
「じゃぁ捨てますよ。まずはゴミを捨てるんですけど……俺じゃ全部すてるか、全部俺がコレクションにするかにするんだけどどうします?」
「さらっと変な事を言うなのじゃ。それは捨てていいのじゃ」
「じゃぁ……こっちのパンは固いですけど」
「スープにつけるとまだ柔らかく……捨ててくれなのじゃ」
本当駄目だこの女。
いや魔女。
「そんな目で見るのはいいのじゃが、何でも手元にあった方が楽なのじゃ」
「それはそうなんですけど……ここは俺も鬼になります。食品系で食べかけは全部捨てます。次に衣類……1ヶ月以上放置されてるのは全部洗濯してしまって、他はクローゼットですかね。小物や道具に関しては俺は専門外なので部屋の隅に一度置いて、開いたら布の上に並べて整理しましょう。これも衣類と同じです。1ヶ月以上使ってないのは箱や布などに来るんで名前を書いてしまいます」
俺が説明し終わると師匠がポカーンとしていた。
「初めてドアホウを尊敬するのじゃ……」
「一人暮らししてましたし」
「貴族じゃろ?」
っと、1人で暮らしていたのは前世だったわ。
「冗談です」
まずはウォータージャペリンで外に適当な穴を掘る。
《《師匠が残した食べかけのパンを加えながら》》ゴミをどんどん穴にいれ、くわえたパンは胃の中に入れる。
《《全然やましい気持ちじゃでパンを食べたわけじゃなくて》》。間接キスを狙ったわけでもない。
普通にお腹へっていただけだからね。
いや本当に、朝ご飯食べてないし。
師匠が残したと思われる飲み物のふたをあけ――。
「――バースト」
「うお!?」
殺気を感じて横に転がる、俺が歩いていた場所が黒焦げになっていた。
背後を見ると師匠が杖をもって俺に殺意ましましの魔法をかけてきたのがわかる。
「…………冗談ですって」
「手が滑ったのじゃ。さっさとゴミを穴にいれるのじゃ。魔法で火をつけるんじゃろ?」
小瓶を穴に放り込むと、師匠の『ライトニング』が離れたれた。
雷系の魔法なのにゴミはどんどん燃え出していく。
食べ物系は終わった。
衣類系の仕分けは師匠がしていたので、俺はそれを洗濯する係。
「師匠洗濯機ってあります?」
「外に置いてるのじゃ」
「では」
俺は師匠が来ていた服をもって外に向かうと、な《《ぜか師匠もついてくる》》。
「師匠?」
「ドアホウがワラワの衣類に変な事をしないようにとなのじゃ」
「やだなー俺ってそんなに信用ないです?」
「真顔でいえるドアホウが怖すぎるのじゃ!」
家の裏にあるとう洗濯機前まできた。
大きな木製の箱でハンドルが付いている、そのハンドルを回すと中のプロペラが回転し洗えるという日本で俺が生まれる前にあったとされる奴に近い。
「水がないですけどまぁ俺がいるとして……師匠ここに住んで何年です?」
「なんでじゃ?」
「一度も使ってないですよねこれ」
雨風をよける布でしばってあって、ほどくと新品のようにあるんだもん。
「…………つ、つかったなのじゃ数回は」
これで洗濯のめどはついた。
という所で日が暮れる。
そんな作業を5日ほど続けると、なんという事でしょう。
ゴミ屋敷が普通の屋敷に。
飛空艇『コメット』でシャワーを浴びて眠気を飛ばす。
着替えをして師匠の家にいきノックをすると、眠そうな師匠が出てきて部屋の中に入る。
最初の時と違って床が見えて衣類もキレイに整頓されてしまった。
食器も洗いなおして棚にしまったし家具や道具も全部拭きなおした。
「なのに、なんで暖炉の前には脱ぎ散らかした衣服があるのでしょうか、汚部屋への第一歩です。まじで」
「…………わるかったのじゃ。着替えが面倒で……ほ、ほら洗濯しなくてもまた着れるのじゃ」
俺は思わず四つん這いになる。
「悪かったって言ってるじゃろ!」
「凄い逆キレをみた……まぁいいですけどね……師匠の家ですけど、それでも!」
俺は四つん這いから立ち上がる。
「駄目な所も好きですし」
「……………………い、今いう事かなのじゃ?」
師匠が少し赤くなったので、さっさと朝ご飯の支度をする。
暖炉の鍋に水を入れて俺が持って来た食材をぶち込んでの鍋、柔らかいパンなどを並べて食べ始める。
「ドアホウ」
「ん。なんでしょう」
師匠の言うドアホウは何パターンもあって、このドアホウは俺に用事があるときのドアホウだ。
「これじゃろ。古竜の血」
「おお……クウガが割ったのと同じだ」
手のひらサイズの酒瓶ににた小瓶には青い透き通る液体が入ってる。
光にかざすと青から赤、カラフルに色が変わっていく。
「中身はあのクソ邪竜の?」
「知らんがそうじゃろうな、あ奴から受け取った奴だし。この数日で家が綺麗になった謝礼じゃ」
「謝礼にしてはケチというか……パンツの1回ぐらい見せてくれても。冗談です」
物凄いにらまれた。
「何度も見てるのじゃろ……そもそも何度も尻を触ってくるし何がわらわみたいのが良いんじゃ」
「1人でひっそりと幸せもないような可哀そうじゃないっすか」
「じゃぁ何か? わらわに相手がいて幸せそうだったらドアホウは見向きもしないのじゃ?」
「そうですよ?」
当たり前の事を聞いて来たので俺が答えると師匠が黙ってしまった。
「えっと、無言は怖いんですけど……その俺は好きな人の幸せを壊してまで横から出る気はないですし、そのてん師匠は浮いた話もない。おっぱいは大きいしお尻も大きい最高じゃないっすか」
「………………言いたい事はわかったのじゃ。まっワラワのガードは高いのじゃ」
高いけど素材はもろいのでは? と思う。
そもそも師匠だって本気で嫌だったら俺の事をどんな事しても殺すだろうし。
攻略本では冷酷な魔女だったよ? 何このポンコツ魔女。
と、心の中にしまっておく。
「で、質問何ですけど。忘れられた島ってどこにあるか知ってます?」
世界地図は軽く頭に入っても正確な場所はわからない。
だってゲーム中にそんなイベントなかったもん。
これは俺が悪いんじゃなくて、前世でも世界地図見せられて小さい島の名前を言われるのと同じだ。
「ワラワが行った時はレイアランドじゃったな」
「…………旧時代の大陸……今は海に飲まれて遺跡と迷宮型のダンジョンがある諸島になってる場所でしたっけ」
「ほう、知っておるのじゃ?」
「知識だけっすけどね」
となると飛空艇じゃないと無理か。
だからあのクソ邪竜は俺に頼んだのか?
「なに、あの空飛ぶ船ならすぐじゃろ」
「…………本当にそう思います?」
「違うのじゃ?」
いづれ言わないとと思っていた事を言う。
「誰かさんがの攻撃で全く動かないんですけど」
モニターはなんとかつくようになったが、いまだ船体は斜めのまま。
中は水平機能でもあるのか暮らすには問題ないんだけど、とべない船はただの船である。
いや、普通は飛ばないし山の中に船だから本当に役に立たない。
「治せんのじゃ?」
「俺じゃ無理っすね……ってか師匠はどうやって山降りてるんです? この場所に来る道が無いんですけど」
師匠は首だけでクイっと俺の視線を動かす。
床下収納がある場所を俺に見せた。
「地下に転移の門を組んでおるのじゃ」
「うわずっる」
「何もかもインチキしてくるドアホウがそれを言うのじゃ?」
「努力ですけど!」
インチキだなんてチートじゃないんだし、俺だってチート欲しいよ。
レベルカンストオーバーとか、ステータス9999とかさ。
あるのは攻略本の知識だけだよ、後はもう努力でカバーしかない。
ヒロイン達だってクウガが好きな子ばっかりで俺に残されたのは師匠しかない。
いや師匠が残ったからってわけでもないんだけど、設定からキャラ絵なども好みだし。
「とにかく俺が5年! 5年ですよ! やっとそこそこ戦えるかな? って思ったら。1年会わなかったクウガとの差があんまりなかったんですけど!? あれこそインチキだ。補正上がり過ぎだろ! 周りはチョロインぽいしさ。クウガはもうマナ・ワールドの種馬だよ300年後にはクウガの子孫しかいないんじゃないの!?」
「そ、そのすまんのじゃ。落ち着くのじゃ……」
「…………落ち着くのでおっぱい揉ませてください」
「…………」
「…………」
俺と師匠は無言のまま、ひたすらに時間が過ぎて行った。




