第126話 師匠おおおおおおおおおおお(何度目かの)
小型飛空艇『コメット』の操縦桿を握りモニターを見る。
大きな山々が見え半分以上が雪が積もっていた。
「まるでエベレストだな」
前世の記憶にある世界一高い山の事だ。
毎年かなりの人数が死んでる場所……そんな思いも懐かしく俺は『フェーン山脈』を眺める。
「ふう…………長かった……」
師匠と別れて数ヶ月。
飛空艇を手に入れていつでも来れる。
と思ったが俺が不老不死のきっかけをつかむまで来ない方がいいだろうな。と思っていた場所。
じゃぁ不老不死になれたのか? というと実感は全然ないし知識もない。
わんちゃん俺は前世の記憶があるんだし不老不死になってもおかしくないだろ。と未だなる予定は何もない。
ここに来た理由は一つ!
「もう俺一人の力じゃ竜の血むりだから……」
邪竜の里にいった。
クソ邪竜を刺した。という事で俺の評判がめちゃくちゃ悪い里にいって族長のトカゲ亜人に会い、嫌な顔をされても何とか血を手にいれたが青ではなかく赤い血。
クソ邪竜のいる蜃気楼の古城は既に蜃気楼のように消えていて、いまでは俺が開けた穴は湖になっていた。
お手上げである。
それに蜃気楼の古城を探して、クソ邪竜に会いたくない。
会ったら素直に言うよ? 『てめえの血は何色だああ!』って小瓶壊した事を謝罪するつもりだ。
で、依頼は当然キャンセル。
後は勝手にしてねって帰るつもりだけどさ、一応は依頼を受けたんだ。
依頼主ではなくこちらのミス、出来る限りはこっちで何とかするのが一応の筋だろう。
フェーン山脈のふもとには集落が見える。
師匠のいる場所はさらにその先、飛空艇から行ける場所……。
山の中腹に突然小屋がポツンとみえた、近くには飛空艇が止めれるちょっと大きな広場。
不自然すぎる場所で、その広場の中央に三角帽子をかぶった人影が見えた。
「お。師匠だ。相変わらず胸とケツが大きい……」
師匠との距離はおよそ500メートルという所か。
俺はゆっくりと旋回すると師匠が杖を上空に掲げ手を降って……俺の目の前が真っ白になった。
「まぶし!」
両目を抑えて床をのたうち回る。
うっすらと目を開けると部屋全体が赤く光ってる、絶対にやばいやつだ。
ってか墜落するってばよ!?
舵を握って水平にもどすと、もう一度目の前が真っ白になった。
今度は直前に目を閉じたので何とか回避したがやばい。
警報が早くなり、あちこちからエラー音がなっている。
必死に舵を握ると……なんと取れた。
モニターがチカチカと点滅し、殺意マシマシの師匠の顔がアップになったと思うと3度目の魔法が飛んで来た。
墜落確定である。
「『水竜』!!!」
室内で水竜を呼び、俺はその中に入る。
これで衝撃は防げるけど、師匠ってばやりすぎじゃない!?
いつもふんわりしてる師匠だけど本気はやばい。
360度視界がぐるぐる回ると動きが止まった。
部屋の赤い警報がスン。と止まると当たりが静寂になる、水竜たんから這い出ると大きく息を吸う。
モニターは黒いままで動きがない。
斜めになった床に転びそうになりながらハッチを開ける。
出た瞬間頭打ち抜かれては困るのでハッチを開け暫く待ってみた、何も飛んでこないのを確認して頭を出してみた。
「――フルバースト」
「っ!?」
師匠俺が頭を出すのを狙っていた。
「水盾! 水盾! 水盾・連!! みず――」
唱えられるだけの防御魔法を唱える。
俺の魔法がどんどん破られて俺の体に残った魔法が飛んで来た。
「あばばばばばばばばばば」
「………………なんじゃ。ドアホウか」
「あばばばば…………はぁはぁ『癒しの水』うう」
なんじゃ。じゃない!
「こ、殺す気ですか!」
俺が叫ぶと杖を閉まった師匠が眉を八の字にする。
「殺すきじゃが?」
「………………そうなん?」
えせ関西弁になるほど素で返事をしてしまった。
俺が『コメット』からでると体を屈伸させた、背後をみると少し黒くなった『コメット』が斜めに止まっていた。
ホバー機能も今は機能してない。
「師匠これすっごい高いんですけど……」
「……ワラワが悪いって言いたいのじゃ? 空飛ぶ船なんぞ、突然来たら撃つのじゃ」
「そうですよね、はい」
俺は師匠に近づいて膝を落とす。
目の前には師匠の尻があり、俺はその尻に顔をつけた。
「ほほろでひほう!」
「なぁ本気で殺していいのじゃ?」
「嫌っすね」
俺は師匠の尻から離れて膝を戻す。
「色々話があるんですけど、竜の血余ってません?」
ダメ元で聞いてみる。
当然持ってないと思うので手に入れる経路を教えて貰うんだ。
こういうのは長く生きてる人間に聞くのが一番である。
ほら『お婆ちゃんの知恵――』っと、なぜか殺気が飛んで来た。
細い目をして考え事をしていた師匠が俺の目を見て来た。
「あるのじゃ」
「あるんかい!」
冗談で言ったら本気であった。
師匠の眉間にしわがよる。
「本当に騒々しいのじゃ……死ぬまで来ないじゃろ。と思っていたのじゃが割と早く来たのじゃのう」
「居場所は知ってましたけどね」
歩きながら師匠と話す。
とりあえず、師匠に【蹴られて飛ばされた後】を強調し、帝国にいって飛空艇『コメット』を手に入れた事。
クウガやアリシアと会ったこと。
最後にクソ邪竜から依頼を押し付けれたけど、うっかり商品を壊してしまった事を簡単に話す。
「師匠は?」
「ドアホウの事じゃから死なないとは思うのじゃが、一応フレンダの占いを聞いて、生きてるって知ったのからじゃ。まぁもういいのじゃと普通に家に帰るのじゃ」
「そうですか、本当に引きこもりで……やる事無いんですか?」
無言でフルスイングされた杖が飛んでくるので片手でキャッチした。
師匠の顔が少し驚いている。
「ドアホウ……」
「なんです?」
「いや。割と素早く振ったのじゃが……まぁいいのじゃ、こっちじゃ」
これがゲームでも入る事が出来なかった師匠の家か。
冬生活をするためにミニ階段付きのログハウスみたいな作りだ。
煙突もありその先からは白い煙が出ている。
師匠が扉を開けると汚部屋が見えた。
「どこじゃったかのう……」
「師匠」
「少し待っているのじゃ」
「いや。ゴミ屋敷ですよね」
まず着るものが散らかってる。
同じような服があちこちに散らばっていて、下着なども散乱してる。
後で1個貰って帰ろう。
暖炉の前だけ床が見えて大きなソファーが1個。近くには空の酒瓶が大量に並んでおり何てきれいなんでしょう……。
マジックボックスを持ってるくせにこの荷物の量はなんなんだ。
その汚部屋と対照的に奥の部屋がみえ、棚に並べられたぬいぐるみが見えた。
へぇ本当に好きなんだ。
食べ物系はないのかな匂って来ないのはここが寒いからなのか、虫がいるようには見えない。
「割とキレイになってるのじゃ」
「これがキレイだったら匂いの無い下水道の方がまだキレイですけど」「むぅ……突然訪ねてきてグチグチうるさいドアホウなのじゃ」
師匠がぶつぶつと俺に文句を言うが、見た目が30代前半でこの生活力の無さ。
俺以外には見せられない。
俺自身は綺麗好きってわけでもないが、ちょっとだらしない女性は好きである。
「別に師匠は綺麗な場所で暮らせないわけじゃないですもんね」
「わらわを汚い所でしか生きられない魔物と勘違いしてないのじゃ?」
師匠はあちこちの棚を開けては閉めてを繰り返す。
クローゼットの前にも衣服や箱が積まれており開かないのを後ろから見守る。
やっと空いたクローゼットの中もひどいもんで空き箱や謎の石などを出てくるのを見守っていく。
「ふう……すまん。わからんのじゃ」
「でしょうね」
「古竜にまたもらいに行けばよかろうなのじゃ」
「嫌なんですけど」
「な――」
「嫌なんですけど」
「だ――」
「嫌なんですけど!」
3度目の返事で師匠が思いっきり息を吐いた。
俺と邪竜を会わせる事を諦めてくれたか。
「師匠さえよければ片付けるの手伝いますけど」
「ほう……それはいい考えなのじゃ。とりあえずドアホウの予定はどうなってるのじゃ?」
「俺の予定はそのクソ邪竜に頼まれた依頼だけっすね。期限は聞いてませんけど」
「暇で結構なのじゃ」
暇なのかねぇ。
俺としてはめちゃくちゃ忙しい。
ってか、これって師匠と同棲生活の始まりでは?
「ドアホウこれを使えなのじゃ」
何か飛んで来たので俺は素早くキャッチすると厚手の布だ。
ぐるぐると筒になっていて広げれば大きそうである。
「これは?」
「テントなのじゃ寝泊まりに使うじゃろ」
「外で暮らせと? 雪積もってますし普通に凍死するんですけど」
「ドアホウ、まさかワラワと同じ家で寝泊まりする気なのじゃ? ドアホウなら平気じゃろ」
「俺を魔物か何かと勘違いしてますよね?」
師匠が「そうなのじゃ」と言うのでいつかギャフンと言わせたい。




