第125話 最終手段の提案
「マスター! この店で一番強い酒!」
「どうしたいきなり」
「早く!!」
俺が叫ぶとマスターより早く、マスターの妻である女将さんが酒瓶を何個もカウンターに出してくれる。
ビンを開けて一気に飲み込み。
「クロウ君!?」
「クロウベルさん!?」
過程はもうどうでもいい。
とにかく俺はクソ邪竜の自称、竜の血を飲んでしまった。
何が落ち着けだ。
指を突っ込んでも吐きそうにないなら薄めるしかない。
「クロー兄さん!?」
「薄めるんだよ。1本飲んだら100本も飲めば問題ない!」
1本。2本――5本……10本目を飲み切った所でお腹がいっぱいになった。
「もう無理……」
「クロー兄さんそんな一気に飲むから……100本は無理だよ」
「本当に申し訳け――」
正座したクウガが大声を上げたので目線を向ける。
また切腹しそうなぐらい青い顔なので手で制す。
「いや、割るのは不可抗力だけど飲んだのは俺の責任だから……きにするな……それより手の傷は……」
ちらっと見ると傷がない、アリシアが治してくれたんだろう。
「クロー兄さん指入れて胃の中の出したほうが早かったんじゃ」
「そうおもうだろ? 飲んだ瞬間胃から消えた感じあったんだげっふ」
だからこそ酒を飲んで薄めようとした。
薄めたらほら、おしっこで出るから。
「実はもう一つ手はあるんだ」
そのう方法は正直やりたくない。
「飲んでしまった液体を出す方法? 無理だよクロウ君」
「ミーティアちゃんもそうおもいますーお馬鹿さんなんだから」
アリシアがわからなければ、思いついたのは俺だけか。
馬鹿なミーティアはわからなくて当たり前って言えば当たり前、これぐらいで怒る俺ではない。
「ギースとクウガ。アリシアがいれば出来る」
「私?」
「僕でしたら何でもやります!」
「自分は断る。貴様の提案はいつも回りくどい」
よし、言うだけ言うか。
「俺が腹をきるから内臓取り出して瀕死になったらハイリザレクションかけてくれる? それを複数回やればほら内臓もすっきり」
「…………貴様マジで言ってるのか?」
「マジで言ってるけど?」
アリシアを見てると半開きの口がきゅっとしまった。
「聖女の回復は命大事にする人だよ? それに魔力もそんなに持ちません」
怒られてしまった。
「ちょいちょいちょいちょい、私達の店で物騒な話しないでもらえるかい? やだよいくら回復するからって、ここは処刑場じゃないんだしさ」
女将にも怒られた。
「ごめん」
「そんな大事な物なら。また貰いに行けばいいなじゃないの? 依頼主は怒られるかもしれないけど依頼品なんでしょ?」
女将さんがごく普通のまともな事をいう。
「そうだね、クロウ君……」
「嫌なんだけど」
「やっぱり……何でそんなに嫌いなのかな……」
率直な意見だ。
なんで、嫌いな顔と性格の奴に頭下げて同じ奴を貰わないといけないんだ。
そもそも発注した仕事でもない。
押し付けられていた仕事である、逆に俺に迷惑料を貰いたいぐらいだ。
お前の命でな!
「クロー兄さん。クロー兄さん!」
「え。なに?」
ノラが俺の事を呼んでいたらしい。
一生懸命に服を引っ張っていた。
「やっと考え事から戻って来た。退院パーティーお開きにしようかって?」
周りを見るとクウガもアリシアもパーティーをするような感じの顔じゃない。
もしかして俺が悪いのか? ギースにいたっては既に1人でカウンターで飲んでいる。
「いや……飲む!」
「こ。この状態で?」
「万が一俺の体に異変があってもこまるからな、様子見もかねてアリシアともう少し付き合ってほしいし。いやな事は飲んで忘れる、クウガ酒代は」
「はい! 大丈夫です!」
「って事で女将さん。酒と料理」
俺が宣言すると、空気の読めないミーティアが大変喜んでいる。
こういう時はいいよな馬鹿は……と。
運ばれてきた料理を口にしながら場を明るくさせる。
「まっ怪我がなくて良かったんじゃないか、なにアイテムはまったくアテが無いわけじゃないし。クウガも気にするな」
「も、申し訳ありません……僕にできる事であれば」
「じゃぁあのアンジェリカとフレイとどうやってにゃんにゃんしたのを聞かせてくれ」
「クウガ君!?」
一瞬でクウガの表情が固まった。
「いや、師匠と2人っきりになったときに参考にしようかと」
「私も気になるなクウガ君」
「クィルも……」
「うわ、クロー兄さんえげつない……絶対に怒ってる……」
全然怒ってない。
怒ってない。
怒ってないが、このやるせない気持ちをどう持っていこうかとおもったら、もういいってのに謝ってくるクウガいるからだ。
飲んだのは俺の責任だけど、だけどさああああ!
――
――――――
朝の光が酒場に入るころ、俺は空になったグラスをカウンターに置いた。
凄い静かだ。
ミーティア、クィルの成人はしてるかお子様組はそうそうに酒に潰れた。
ノラとギースは朝からクエストがあるからと先ほど帰った。
残ったのはアリシア、クウガの主人公&正ヒロイン酔いつぶれないようにアリシアがこっそり魔法を唱えていたのを見ないふりして2人に飲ませまくった。
アリシアの魔力が尽きる頃2人も同時にノックダウン。
いまは座席のすみでテーブルに顔をつけて寝ている所だ。
「さて。マスター、ごちそうさま」
「…………なんだ。黙っていくのか?」
「基本このパーティーに俺はいらないからね」
俺が近くにいればいるほどクウガが不幸になり、結果的にアリシアが不幸になっていくようで、それは俺の望んでいる事ではない。
ヒロインは主人公とくっつく事で幸せになるのだ。
俺はそんな甲斐性ないしな、だからこそいきおくれ可哀そうな師匠を……。
朝焼けのまま帝都をでて飛空艇『コメット』へと乗り込む。
洗面台で顔を洗ってシャワーを浴びてすっきりだ。
「………………ここ。本当に異世界だよな」
あまりにも日本にいた頃と行動が変わらないので一瞬錯覚をおこしたが、ちゃんと『コメット』の船内である。
操縦席に立ち、ペダルとレバーでまずは邪竜の里を目指す。
あそこの族長は『竜の血』を引いているらしい。
って事はだ。
一見トカゲ男に見えたけど、もしかしたら『竜の血』って全部同じかもしれないじゃん。
代用が効くならそれを持っていく。
成分が同じならメーカーにこだわらない。それと同じだ。




