第123話 ひとりぼっちでクロウベル
病院のベッドで俺はゆったりとした時間を過ごす。
病院という事は何所か病気になったのか? というとそうではない。
しいて言うなら心の病。
「そう! これは恋の病なのだ! 師匠……いったいどこに」
「クー兄さん。メル姉さんの場所知ってるんでしょ? 傷が再発したら困るからあまり動かないでね」
冷静な突っ込みをするのはベッドの横でリンゴを向いてくれるノラ。
「ああ、うん……知ってるよ。そんな冷静に言わなくても」
「突っ込み慣れだから気にしないで。それよりも痛みは」
「癒えてるよ。俺の回復魔法もそうだしアリシアにも治してもらったからな……だから別に入院するほどでは」
アドレナリンと言うのは怖い物で、クウガを退けた俺は癒えたはずの喉から血がドバドバ出ていた。
回復魔法効いていたはずなんだけどなぁ。
と、おもったら放置されていた剣はなんと呪いの剣。
俺の回復魔法よりも強い属性だったのだ。
そんな危ない剣を中庭に置いておくな! と思ったがクウガを地下に安置するために入れ替わりで出した。と後から地味顔冒険者ギルド員のアンナから聞いたので何も文句は言えない。
急いでアリシアにさらに回復魔法をかけてもらうも、なんとアリシアの魔力切れ。
直前にハイ・リザレクションを唱えたからだろう。
そこで緊急入院となったのだ。
アリシアが必死でマジックポーション飲みながら回復魔法をかけてくれて感謝しなければならない。
中々回復しなく飲んだ先から俺に回復魔法をかけるし、途中もう吐きそうになってた。
…………いやちょっと口から吐いてたし。
ゲロを吐きながら回復魔法を唱えてくれるアリシアは絵的にやばかった。
と、言う事で大事を取っての入院である。
部屋がノックされる。
直ぐにノラが「どうぞ」と俺の代わりに返事をした。
がちゃりと扉が開くと、真っ青なクウガが立っている。
「こ、今回はまことにすみませんでした!!」
「声でっか! 少し静かにしてくれないか、個室でも廊下に響く」
「も、申し訳ございません!」
だからでかいって。
クウガなぜか白装束の姿でクウガの背後にはアリシアとギースが一緒についてきてる。
「入るぞ」
「お邪魔しまーす。調子はどうかなクロウ君」
2人が入るとやっとクウガも入って来た。
ノラが人数分の椅子をだして先ほどと反対側に座る。
アリシアも座りギースも座るがクウガだけは座らずに床に正座していた。
「いや、座ってよ」
「僕はこのままで……本当に今回は――」
「いやいいって……誰も死んでないし」
「クロー兄さんは甘いです。運よく死ななかっただけで危なかったです。あれで死んでいたらメル姉さんに何て言えば……」
「案外喜ぶかもしれん」
なんせ俺が行方不明の間に墓まで作ったほどだ。
「悲しむよ。メル姉さんはあれで……いや、言わないで置くね」
ノラは気になるフリで止めた。
あれで……なんだ。泣いたのか、笑ったのか。
「で、本当になんなの?」
「親友がどうしても貴様に謝りたい。と……」
ギースがクウガの代わりに代弁してくれる。
「それはいいんだけど……なんでギースとアリシアまで。ってか1昨日謝って貰ったけど」
「あの時は僕の記憶も混乱していて」
「誰にでもあるし」
ノラが何も言わずに少しにらんでいる。
ほら、誰も死んでないしいいんじゃないの? 今回は……そんな怒らないでほしい。
「東の国では究極の謝罪方法があると聞いて」
ああ、土下座か。
《《俺もよくやる》》。
大抵の事はこれで乗り切れる、いや、乗り切ったらだめなんだろうけど乗り切れる。
クウガの土下座みてもなぁ、この世界写真はないし写真さえあれば未来永劫クウガを脅すネタに使えそうなんだけど。
「し、失礼します」
クウガは白装束をばっと上半身を脱いだ。
心臓の部分に大きな傷跡があるが今は塞がっている、中々にいい筋肉だ。
細マッチョ? っていうやつか。
ギースはクウガに短い剣を渡し始めた。
「え?」
「ええっと、次は確か……ご、ごめんこうむる!」
クウガはその剣で自分の腹をかっさばいた。
ざ、切腹。
切腹とは死をもって謝罪、もしくは異議を申し立てる《《究極の大迷惑》》である。
局中法度みたいな気まりも無いんだし、うっかりな事で命捨てられたら困る。
「こ、ごふ……これで……これで何とか許して……」
「許す! 許すわ! え。死ぬの!?」
「ハイ・ヒール!」
アリシアが短く唱えるとクウガの顔色がよくなっていく、腹から出ていた内臓を必死にかき集めクウガとジークはその傷口に戻していく。
数秒後、個室の部屋には大量の血だまりだけが残る。
「よかったねクロウ君が許してくれて」
「あ、ありがとうございます……あの時はなぜかクロウベルさんが敵に見え……街を牛耳るボスに、全然そんな事ないのに」
「え、いや……あー」
普通に会話が進むけどこれ、俺が許さなかったらどうなったんだ。
ちらっとアリシアを見ると「なぁに?」とほほ笑むだけだ。
「いや、なんでもない。とにかく……俺もちょっと思う所もないわけじゃないし今回のは水にながそ」
俺はウォーターボールを出して空中でくるくる回転させる。
そのまま床の血だまりを文字通り水に流す。
隅にいった汚れをノラが余ったシーツで拭きとってくれた、なんで出来る女の子だ。
「さんきゅノラ。で……話が終わったのならもう終わりでいいよね?」
暗に出て行ったら? という意味。
「私達はクウガ君と一緒に北に向かおうと思うの」
「ああ、呪いを解きに?」
忘れがちだけどクウガはハーレムの呪いがかかってる、そのせいですでに俺が知ってるだけで2人ほど色んな意味で手をつけてる状態だ。
最近思うんだけどこの呪いのおかけでクウガが何股しても許されてるんじゃないか? と思い始めて来た。
「そ、そうですね。はい」
「クウガ君の事だからどうなろうが《《私にはあまり関係ないんだけど》》幼馴染として困ってるなら助けたいし」
「う、そ、そうだね」
あまり関係ない。という所で血だらけの白装束を着たクウガがうなだれる。
「でも、あれだよ。俺に斬りかかって来た時クウガはアリシアの事思っていたよ」
「クロウ君、私浮気性な人は好きじゃないかな……」
「うっ」
ハーレムの呪いもアリシアには効かないか。
今じゃ聖女だしな。
呪いに対して抵抗もあるんだろう……。
がんばれクウガ!
「じゃ凍った大地の洞窟前まで飛空艇で送る?」
「…………全滅するね」
「全滅するかぁ……確かに弱いもんな」
「だからもう少しこの街で力つけるつもり、ギースさんも手伝ってくれるって」
「親友であり戦友だ、当たり前。俺達に足りなかったのはヒーラーだ」
でしょうね。
前衛2人でポーション飲みながら強敵と戦うとかもう普通に考えたら自殺行為以外ないよ。
「ま、なるようになってよかったよ。結局俺は何のためにクウガを助けたのか分からなくなったけど……乗り物も手に入れたし結果オーライかな」
「クロウ君らしいね」
俺らしいってなんだか照れる。
「じゃぁそろそろいこっか」
「じゃぁなもう会う事も無いだろう」
「クロー兄さん、私もいくね……本当に1人で大丈夫かな」
ノラが心配してくるが、ノラは今はアリシアのパーティーだ。そう簡単に抜けたり入ったりは出来ないだろう。
俺の看病中に抜けて一緒に行こうか? と提案してきたが流石にそうもいかない。
3人が出ていくと俺は1人になる。
少し寂しい……が、これが本当の俺だ。
病院の退院は明後日まで予約してるのでゆっくりと休養する。
カバンの中にはクソったれな邪竜から預かった青色の小瓶が三つ。
「忘れられ小島か」
でもこれ期限決められてないし100年後でもいいんだよね。
いやー行こうと思って死んじゃったパターンで……なわけにもいかないか。




