第121話 皇女チーム脱退! 普通の女の子にもど――
5日間にわたる祭りも終わりやっと解放された俺は飛空艇『コメット』に乗り込む。
乗り込むさいにトカゲ……じゃないか、竜の血をひいているという族長さんと和解の握手を交わしての事。
操縦かんを握ると思わず「せまい」思わずつぶやく俺の言葉に、近くにいたアリシアが「ごめんね」と伝えて来た。
「いや、別に誰のせいでもない」
定員が4から5人ほどの場所に8人がいるんだ。
そりゃ狭くもなる。
「重すぎて浮き上がるかな、はっはっは」
これは冗談だ。
冗談だったのにアリシアが「クロウ君?」と低い声を出してくる。
「な、なにかな?」
「これだけ女の子が沢山いるのに、その言葉は駄目だよ。お説教足りなかったのかな? クロウ君から飛空艇の鍵を渡してもらってサンさんが操縦して……クロウ君走る?」
「…………十分足りたから勘弁して」
「もう、少しカリカリし過ぎだよ?」
「ごめんって」
モニターに映る霧の中にある古城を見ながら俺は《《赤いボタン》》を押した。
部屋全体が赤く点滅し、飛空艇『コメット』に備えられてる砲門が魔力のレーザーを飛ばす。
ライトニングフルバーストに匹敵する魔力が古城を貫こうとしたが、霧の中に消え見えないバリアに塞がれた。
「ちっこわれなっ。いったあああああああ」
後頭部に痛みが走ると、鬼。いや般若のような顔のアリシアと皇女サンが立っている。
「お説教だね」
「申し訳ございませんが操縦キー返してもらいましょうか」
「ま、まって。ほらあんな場所に古城あったら景色が損なわれるでしょ。だからほら消そうと」
「それよりも反撃が来ないとも限りません、各自注意を」
皇女サンの言葉で緊張が走る。
なに、反撃来たら逃げるよ。って言おうとしたけど場の空気が怖いで辞めた。
暫く待っても反撃は来なく、霧の古城の霧の部分がカラフルに色が変わり始めてる。
「な。なんでしょう」
「うわぁ綺麗」
「…………イルミネーションかな」
クリスマスが近いとお金持ちの家はああやってカラフルな電気で家を装飾する。
季節に合わせたお祭りみたいなもので、一般家庭に育った俺には無縁だ。
ただ。そういう家こそ外見を気にして営業しや……いやこの思い出は今はいいな。
「ま、ほら……アイツも怒ってないみたいだし。一応旋回して帰ろう」
「いっぺん死んだ方がよさそうですのに」
俺が通ると霧の色も通った場所から色が変わっていく。
反撃は本当に来ないらしいな。
ナイ曰く『自分は人間が好きだからね』って言っていたけど本当かどうか怪しい。
蜃気楼の古城に迷い込んだ人間はバッタバタ死んでるし。
ここから帝都までは休憩を入れて2日ぐらいで着く。
第一チェックポイントまでは俺は直立不動でひたすらまっすぐだ。
狭い部屋なので皆の顔が見え、俺以外楽しそうにしてモニターからの景色を眺めていた。
邪竜の里からしばらく直線で走ると目の前にタオルが出て来た。
視線を横に向けると大人っぽいノラの顔が見える。
「はい。クー兄さんタオルいる?」
「あっ欲しい。ノラさんきゅ」
一番弟子というか、ほとんど教えてないけど勝手に強くなったノラは普通に接してくれる。嬉しいもんだ。
ちらっとミーティアとクィルを見ると目を背けられた。
タヌにいたってはクィルに顔をうずめ……って。
「なんでタヌがいるんだたぬ!?」
タヌ語が移ったたぬ。
「タヌは怒られたタヌ。行く所がないタヌからクィルについてくタヌ」
「そうなの?」
俺がアリシアに向くとアリシアは頷いた。
「タヌさんにキツさんを探してねって……お願いしたんだけど、連れて来たのはクロウ君でしょ。その族長は許してくれたんだけど他の人がクロウ君をよく思ってない人もいて……でも私達の旅は危険だから」
「タヌ。じゃまらしいたぬっぽいぞ」
「クロウ君!」
怒られた。
アリシアの気持ちを代弁してあげただけなのに。
「地形を変えるほど穴をあけるんですもの、当然ですわね……いいでしょうタヌさんは引き取りますわ」
皇女サンがそういうけど、タヌの方は顔を伏せたままだ。
いい条件なんだけど皇女サン、顔がきついからなぁあれで可愛い物好きなんだからギャップ萌えというやつか。
そのタヌは行きたくないらしいけど。
少し恩を返しておくか。
「タヌ。皇女サンの所にいけば贅沢し放題だぞ」
「タヌ!?」
「3食昼寝付き」
「昼寝はまぁ毎回はつきませんが、労働すればおやつはだしますわ」
「いくタヌ!」
現金な奴だ。
「さて。チェックポイントが見えたから休憩するけど、勝手に遠くいかないように」
「クロウ君じゃないんだしないよ?」
「…………ごもっともで」
――
――――
2回ほど休憩し、帝都グランバールへと戻って来た。
しかしまぁ、アリシア達の足早かったな……まさか帝国領まで着てるとは思わなかった。
街の外で止め、船を降りると皇女サンが俺によってくる。
「貴方」
「なに?」
「…………色々と面白い体験でしたわ。わたくしとメーリス。タヌはここでお別れです」
「え、そうなの?」
「貴方のご友人の復活を見ても面白くありませんもの、それよりも『コメット』で得た情報を『デーメーデール』に組み込むほうが先ですわ……」
なんだ。皇女サンが突然言葉を区切った。
「少しこちらに」
『コメット』の裏側へと俺の手を引っ張っていく。
明らかに怪しい行動なのに誰も注意せず、ミーティアと目が合うと「キスするの!?」とお前は中学生が。
「…………余人には聞かれたくない話なので、そうですわね。返答次第ではキスぐらいしますけど、ミーティアさん近くで見ますか? キスよりすごい物が見れる可能性がありますわよ」
「うわ。ええっとその、ご、ごゆっくり!?」
「そこ! 俺はしないから。変な事いわないで。ちょっと待ってて」
残ったメンツにそういうとそのまま飛空艇の影に連れ込まれる。
「直で訪ねますわ。第一次制空権争い、貴方は勝つと思いますか?」
「………………何で俺に?」
「どこぞの占い師より貴方に聞いた方が早いと思いまして」
さすが帝国の第一皇女様である。
変人の変人と言われようが帝国の事を思い飛空艇を完成させるだけある。
俺がこの先の事を知ってる。という事での質問だ。
しかも、その理由を一切問わない。
結果だけ教えなさい。という圧が凄い。
散々未来を変えて来た俺が言う事でもないけど、未来は変えない方がいいんだよねぇ……。
俺が元気な分、クウガにしわ寄せが行ってるような気もするし。
「その反応だけで充分ですわ」
「まだ何も言ってないけど?」
「勝つなら勝つ。と言いますでしょ。そもそも『そんな作戦しらない』と答えれば良いでしょうし、最小限に抑える事をお伝えしますわ」
「はぁ……一枚上手」
「貴方みたいに何も考えず、主砲を撃つような人ではありませんので」
皇女サンが表に戻っていくので俺もその後を続く。
ミーティアと目が合った。
「うわ……げっそりしてる」
「それはもう貴重なのを沢山いただきましたので」
「え、いや……そんな早く出るものなの!?」
ミーティアの顔が赤くなるとクィルが鼻を鳴らし始める。
「何もない何も! まったくクウガじゃないんだし」
「そ、そうだよねクウ兄ちゃん、本当パーティーメンバー以外見境ないみたいだし」
貴族が乗る馬車が近づく。
いつの間に、というか本当に何時連絡したのか謎であるが皇女サン達が乗る馬車が街門のほうがから走って来た。
その馬車に皇女サン。鍛冶師ミーティア。タヌの3人が乗り込むと優雅に消えていく。
残った俺と4人の女性。それとずっと無言のギースは……。
「やっとおおおおおおおおおおおお仕事が終わる」
「でもクロウ君、ナイさんから仕事頼まれていたよね?」
「………………あのナイの血なら捨てた」
「うん。クロウ君お説教の後探しに戻るよ」
「まったまった! 冗談、冗談だからほらあるって」
マジックボックスからナイから受け取った小瓶を見せるとアリシアは許して――。
「うん、お説教だね」
くれなかった。




