第119話 守護する竜
自然とペダルを踏む力が強くなる。
小型飛空艇『コメット』から見える空は既に真っ暗で星しか見えない。
帝国領に入り2回の休憩後、山を切り取った場所が見えたのだ。
森の中にある山、それが切りカブの様に平地になっており、小さい灯りが点々とみる。
その光は崖の上まで見えているのは祭りだからだろう。
「メーリス。距離と時間」
「はいはいー灯りから見てざっと2000メートル」
「では時間はわたくしが、2分ぐらいでしょう」
流石技術屋、おおよその距離を説明してくれる。
「崖の上みるタヌ!」
「ん」
短く返事を返して崖の上を凝視する。
たいまつをかかげた2つの人影が見えた、1人はおっさん。爬虫類型? もう1つは縄で縛られたアリシアだ。
2人とも『コメット』を見ると驚いたような顔でこっちを見ている、その中でアリシアと視線があったようなきがした。
「間に合ったああ……」
膝から崩れそうになるのを我慢、だって男のコだもん。
「冗談はさておいて」
「どうするんですの? 主砲で打てるのは2発、威力は事前に説明した通りあの里を燃やし尽くすぐらいですわね」
「タヌ!? 燃やすタヌ!?」
2人の人影を確認し一度距離をとる。
間に合ったのはいいがココからどうしていいか、こまったさんであるからだ。
「それもいいか」
「だめタヌ!」
冗談だ。
俺としても大量殺人者の犯人になりたくない。
「俺の信条は不幸は極力避ける!」
「当然です、わたくし達の『コメット』に汚名をつけないでほしいですわね」
「…………いや、もう俺のだし」
「当然です。わたくし達が作り上げた『コメット』に汚名をつけないでほしいですわね」
言い直した。
「はいはい」
「人間が落とされるタヌ!」
「動きが速いな、貴様どうするきだ」
あーもう。
「あっちもこっちも、俺に頼り過ぎじゃない?」
思わず小さく文句を言うと近くにいた皇女サンが冷たい声を出す。
「操縦席にいるのは貴方クロウベルさんですし、この状況でわたくし達が何か出来るとも? それに力ある物は責任が付きまといます」
「…………実践されてます?」
痛いほどの正論を返されて思わず変な敬語の返事になった。
「当然です。第一皇女ですから」
でも。俺は別に関係ないよね。とは今この状況では言えない。
モニターではアリシアが大きな影から落とされそうだ。
背後の犬型の亜人はアリシアに大きな剣を構えているところ。
崖から飛び降りろと言う事なんだろう。
きもちアリシアの顔が笑顔に見えるのは気のせいか。
「全員何かにつかまって」
俺は自分のベルトを取ると操縦席に縛る、とうぜんズボンが落ちてパンツが見えるが仕方がない。
「貴様なにを!」
「うわ。えっちだなー」
「大きいタヌ……」
それぞれの感想に突っ込むのは今は後にしよう。
「ギースちょっとこっちに」
「なんだ」
ギースが近くによると、俺は提案を頼み込む。
目を見開くが静かにわかった。とだけ言う。
「じゃ、そういう事で」
ペダル。舵。レバーを同時に操作する。
緊急上層し船体を真上に向ける、 操縦席からずれないようにベルトで固定してるわけで、他の4人は壁などにつかまり必死の状態だ。
垂直からの今度は船体を真下に向けて一気に急降下する。
手元の赤いボタンに指を置き、タイミングを計った。
「計ったも何もないか、初めてなんだし。ぽちっとな」
かちっと赤いボタンを押すと照明が全部消えた。
青い光が真下、すなわち崖下へと落ちるとあたり一面が真っ白になった。
地面をえぐっり土や石が飛び散る。
『コメット』もその風圧を受け、あちこちが赤色に光りだした。
モニターではふっとぶ爬虫類型の亜人と、同じく崖のほうにふっとぶアリシアが見えた。
「じゃ、ギース。これ運転の鍵ってか魔石」
「わ。わかった」
ギースに『コメット』を任せて俺は地上数千メートル? からパラシュートなしで飛び降りる。
「うあああああああああああああああああああああああああああ……」
垂直落下。
飛んでくる石1つでもあたったら致命傷。
すぐに空中で魔法を使うアリシアの所まで落ちて来た。
「ああああああああああアリシア!」
「ヒール。ヒール。あっクロウ君久しぶり、変なの飛んでるなぁって思ったらやっぱりクロウ君なんだね、でもなんでパンツなの?」
風圧で髪をなびかせながら落ちるアリシアはすごく冷静だ。
「凄い魔法……所で下で網引いてくれてる3人大丈夫かなー」
「はい?」
「だから、私が落ちる《《ふり》》して助けてくれる3人……怪我してないといいけど。ヒール!」
飛んで来た石が俺にあたると、それを回復してくれた。
ふり? は?
「いやだって、回収係いないんだよね!?」
「相変わらずどこから情報持ってくるのかしらないけど、代わりに3人がしてるよ? とりあえず、もうすぐ落ちるけどクロウ君」
「話は後で。捕まって」
「はいはい」
アリシアは俺の足にしがみ付く。
上を見ないでほしい。だってパンツ……トランクスの隙間から見えたら困るから。
「水盾・連!」
足元に水盾を連続でだすと簡易的パラシュートというか空気抵抗もあって落ちる速度が弱まっていく。
俺とアリシアは何十もの水盾の中を落ちて最後は『水竜』を出して落ちる衝撃をほぼゼロにした。
水竜たんから滑り落ち地面につくと、凄い土埃で顔が茶色になった女性たち3人が俺を取り囲む。
「…………元気?」
「クロー兄さん」
国籍変えた? って言いたいぐらいの肌色のノラは俺に裏目がましい目で名前を呟く。
「じゃぁ、こっちの土人がミーティアとクーか……元気?」
「どこをどう見て!」
「亜人の里……こわしタ……どうスル……」
ええっと。
上空から『コメット』が旋回して降りてくる。
船体は少しボロになったが大丈夫そうだ。
そのためにギースに船を渡したのだ、アレだったら最悪時を止めて致命傷をさけれるだろうし。
「クー兄さん……また変な事してるみたいだけど、空飛ぶ船。あれなに? メル姉さん乗ってるの?」
「飛空艇……乗ってない」
「本当に何してるの?」
ノラの辛辣な言葉が胸をえぐる。
本当に何してるんだろう俺。
そうこうしてるうちに『コメット』からギースが降りて来た。
俺の横にいるアリシアを見つけると慌てて止まる。
「クウガを治療してくれ死にそうなんだ!」
「え。クウガ君見つけたの!? どこ!?」
「帝都の地下でほぼ死んでる」
持ってくればよかった。
「本当にどういう事?」
「げっほげほげほげほ……クーよ……これは何事じゃ……」
俺が困っていると爬虫類型の亜人が『コメット』から降りて来た。
あれ先ほどアリシアを脅していた奴だ。
「空中に飛んでいたので回収しておいた」
「なるほど」
「クー何もわからなイ。犯人こいツ」
「………………新しい観光スポットが出来たとして、駄目?」
ゲームじゃこういう時は黒背景に白文字で『あれから一晩』ティティレテッテーって街の中の不思議と平和になるんだけど、んまぁならないよね。
ゲームのように辺りに霧が立ち込めて来た。
「あれ。強制スキップイベントって本気であるの?」
俺が一言そう言った瞬間。
いやな気配を感じ取る。
アンジェの剣をマジックボックスから取り出すと背後の気配に斬りかかる。
「君ねぇ……また斬りかかるとか人間としてどうなってるの? そもそもなんで下はパンツ1枚。もしかして人間の交尾みれる?」
片腕を落としたこの世で一番会いたくない顔の《《邪竜》》ナイの人間の姿だ。
…………《《邪竜》》? は?
もしかしてこの里ってこいつの街なのか。
「クロー兄さん離れて! アリシアさん敵です! 全く気配がなかった……」
さすがノラ。
状況判断に適してる。
ノラの一声で周りの数人が戦闘態勢に入るも、腕を落とされたナイは小さく笑っている。
ナイは俺と同じくどこからか剣を取り出すと地面に突き刺した。
その瞬間暴風が襲ってきた。
周りから悲鳴が聞こえ、俺はそれでも斬りかかる。
「うわ。君……世界の外に生きてる感じ? 降参。降参、おかしいなぁ自分は何かしたかな? …………本気だすよ?」
「クロウ君ストップ!!」
アリシアの声で俺は剣を止めた。
舌打ちするとアリシアの方を向く。
「吹き飛んだ皆を探さないと! もう。先生に嫌われるよ!」
「うぐ」
「はっはっはっは。黒き水竜も怒られるんだね」
「そこの君も腕を治すから……ええっと探すの手伝ってくれる?」
アリシアがナイに詰めよると落ちた腕をナイにつなげた。
「自分の腕は自分で生やせるから」
「でも、痛いのは痛いよね。ごめんね、クロウ君がちょっとお馬鹿さんで」
まて、俺は馬鹿じゃない。
ちょっと変態なだけだ。吹き飛んだミーティアを引っ張りながら2人の会話を聞く。
騒ぎをききつけようやく亜人達が沢山よって来た。




