第114話 占い師フレンダ
小型飛空艇『コメット』直ぐに出発だ! と、言う事で俺が乗り込むとギースも後に続く。
続いて皇女サンと鍛冶師メーリスも一緒に乗り込んだ。
俺は足を止めて振り返る。
「え、乗るの?」
思わず聞くと皇女サンが思いっき眉を細めて無言になる。
後ろを歩いてきたメーリスが皇女サンの背中にぶつかるほどだ。
「作ったのに飛ばないと困りますわよね」
「え! 飛ばないの!?」
「実験機ですわよ。誰かが急がせるのでまだ試運転もできてませんの」
「それは大変でしたね」
何とかゴマをすろうと姿勢を下げる。
皇女サンが鼻から息を吹きだした。
「鼻の穴大きくして……」
「貴方、女性にはそういう事を言わない方がいいですわよ。正直なのは面白いですけど、たまにイラっときますわね。メーリスさんに案内させます。メーリスさん」
皇女サンが一歩引くとメーリスが前に出る。
「はいはいー! みてよこの内装。ってまだ入ってないか……入った入った」
俺とギースは『コメット』の中に押し込まれる。
二重扉があり日本の1DKみたいな感じだ。
「右手にある部屋がトイレとお風呂。まっすぐ行くと操縦室と住居が一緒。迷う事は無いと思うけどね」
うん、本当に家だった。
後は冷蔵庫や台所があれば住めるそうだ。
「で。こっちがキッチンに、一応冷却ボックス」
「あるのか」
「あるよ」
そのまま住居兼操縦室に入る。
壁に向かって椅子がある。
皇女サンが壁のスイッチを押すと全面モニターになった。
「かっこよ」
「そうですとも、クロウベル。そこに座りなさい」
命令された俺は操縦席に座る。
「足元のペダル。右手の上下のレバー。中央にある船の舵。貴方ならこれ以上説明しなくても大丈夫そうですわね」
「ああ、大丈夫」
車だな。
説明以外で座席前に赤いボタンがついてる。
車でいえば『ハザートランプ』というやつで、周囲の車や人に危険を知らせるボタン。俺は押そうと思って手をやると皇女サンに腕を掴まれた。
「ん?」
少しだけ焦った皇女サンの顔と俺が見つめ合う。
「周囲に危険を知らせるボタンじゃない?」
「ち、違いますわ。何でも知ってると思ってましたけど、知らない事もあるのですわね…………横にいてよかったですわ」
「万が一のための魔法砲。貴方にあげた電撃の銃あるじゃない、あれの改良版って考えて貰えばおーけー。この辺は大丈夫だけど魔物が来たら怖いからね」
たしかに。
「ちなみに今押すと?」
「地下が崩れて全員が生き埋めになりますわね」
「それは困る」
隣にたったギースが難しい顔をしてるので視線を向けると「まだ行かないのか?」と苦情が来た。
「ええっと……本当に2人とも降りなくていいの?」
「ええ」
「大丈夫大丈夫」
「じゃぁ」
『コメット』発進!
俺はレバーを倒すと窓から見える視線が上がって来た、部屋の中にいると気付かないが浮いてるらしい。
「そこの中間に外に出る穴がありますわ」
「了解」
その穴にぴったり入るように位置を調整して一気にペダルを押し込んだ。
背景が黒から白、白から水色に代わるとどこかの水中に出た。
そのままレバーを押し上げると一気に空の景色に変わった。
「おお…………」
「うわっ」
「飛びましたわね」
「飛んだな」
モニターから遠くにはグランパール。さらにその奥には宿場が見え、アッチの大きな山はナナの村だろうか。
大草原が見えるって事はたぶんそうだろう。
遠くには海が見えるって事はアッチが王国か? 脳内の地図思い出しながら軽く旋回する。
うん。あっちだろう。
「じゃっ」
自動操縦が欲しい。と思いつつ言ったら怒られそうなので自分で操縦した。
大きな海を渡るといくつもの船が見えいくつかの城や街を通り越す。
数ヶ月かかる旅がわずか数時間での移動。
ギースだけが暇そうで、皇女サンとメーリスは狭い室内を行ったり来たりして点検してるっぽい。
「何とか大丈夫そうですわね」
「あっ本当?」
「ええ……いくつかの修正する所があるのですが次のデーメーデールに生かせそうです」
「それはよかった……」
さて……どうしようかな。
俺がちょっと困っているとギースが声をかけてくる。
「その聖女は何所にいる」
「知らない」
「貴様っ!」
ギースが凄い怒った。
剣を抜きそうになるのを皇女サンが手で押さえた。
実力はまったくないのに無手で制するのはさすが皇女様。
「あら、貴方でも知らない事ありますの?」
「一応言うけど俺は何も知らないからね……とりあえず、知ってる人の所に行く」
「早く言え」
四方八方から怒られる。
なんてかわいそうなんだ……と、言う事で思いっきり舵をきって砂漠へと向かう。
物の数十分で見おぼえるピラミットが見えて来た。
「このまま乗り付けると危ないよね……ええっと」
「馬はいませんが地上でも動けますわよ」
「あっ本当?」
砂漠の街スータン。
ここに来たのはもう結構前だ、俺の中では1年近く。実際は2年近く前になるのだろう。
あの頃は師匠もノラもいていいパーティーだったなぁ。
みてよ、今のパーティー。
すぐ切れる長寿族のギース。
俺にだけ毒を吐く世捨て人の皇女。
武器を作れればなんでもって思ってる贅沢三昧のメーリス。
「貴方変な事考えてませんの事?」
「何も」
慌てて砂漠に降りると船はワンバントして地上をすーっと動く。
ホバークラフト……? 原理がわからんが多分そんな感じだろう。
スータンの街近くに止めて俺達は『コメット』を出た。
街を守る兵に金貨を払い街の中へ。
向かう先はただ一つ、フレンダの屋敷へと向かった。
前回よりも屋敷が綺麗になって止められていた噴水も綺麗に動いてる。
俺がドアノッカーを叩くと、扉が開き顔の下半分を隠したフレンダがひょっこり顔をだした。
エナメル系の髪色で以前あった時と……あれ、以前からこんな髪だっけ? まぁいいか。
「やっほ」
「お久しぶりですクロウベルさん……お待ちしておりました」
「ん? まってた?」
「はい。皆様もどうぞ、今お茶をいれますね」
フレンダが引っ込むと残ったのは俺達4人だ。
「うっわ。何あの子可愛い……小さくて、え。なに愛人?」
「あらあら、ご婦人を探してると聞きましたけど結局若い子にいくんですね」
メーリスと皇女サンの攻撃が飛んでくる。
「違うからね……占い師の子。聖女アリシアの居場所を占ってもらおうと、もしくは占い師紹介してもらおうかなって。だめだったら次は聖都にいくんだけどさ」
勝手知ったる屋敷というか、以前よりキレイになった屋敷の中を歩く。
いつもの客間に入るとティーカップが5個置いてある。
「フレンダええっと」
「大丈夫です……クウガさんの事ですよね。大きな黒い星がクウガさんを飲み込んで青い彗星がそれを助けるの」
意味が解らん。
皇女サンがティーカップからお茶を一口飲みフレンダに向き直る。
「面白い子ですわね。大きな黒い星はクロウベルさんでしょうか……青い彗星。まさしく『コメット』……いえ聖女アリシアという方でしょうか」
「なんで俺が悪者扱いなんだよ」
あっ悪者か。
「あなた人相悪いもんねー黒髪だしぴったりじゃん」
「メーリス」
「冗談冗談」
メーリスが笑ってごまかすと俺はフレンダに向き直る。
「ええっと……占い出来るようになったんだな」
「うん。皆と別れた後フランシーヌと特訓したんだ」
フランシーヌ……フランシーヌ……? はて。
「幼馴染の子」
「ああ。あのおもらし娘か」
「本人に聞こえたら殺されるよ……? もらしてないからね。今の私ならマリンダの事が少しわかるよ私が占う事で小さい道が大きくなる時があるんだ……ある時、クウガさんが訪ねてきて私の占いを聞いて……黒い影があるのは見えていたのに……私のせいだ」
「ストップ」
俺は小さくなるフレンダの言葉をさえぎった。
「クウガは自業自得だから……本当あっちこち女性に手を出して子供まで作って」
「うえ!?」
「ん? どうしたフレンダ」
「クロウベルさん。もう一度聞いていいですか、クウガさんって子供が……結婚してるんですか?」
「いや。子供いるだけだよ。育ててる方は別にクウガと結婚は迫ってないし」
「そう。良かった……」
フレンダが一人納得した顔になった。
よくわからんがフレンダがよかった。と言えばよかったのかな?
「じゃぁ聖女アリシアはどこに」
「占いは正確な位置まではでないんだ……海を渡った先で黒い竜に襲われる」
なんのこ……黒竜か。
「「邪竜の山」」「ですわね」「だな」
俺と皇女サンの声がかぶった。




