第113話 小型飛空艇『コメット』
約束の《《4日》》後。
俺は呼び出したギースを連れてグランバール城へと入った。
いつものように顔パスで入ると、後ろにいたギースが怪訝な顔をする。
「ここは城だろ? 勝手に入っていいのか?」
もっともな話だ。
さっきから隊長みたいな人や他の兵士が俺の事をちらっと見ては業務に戻っていく。
あまりの自然さで怖い。
このままツボとか割ったり部屋のタンスを物色しても怒られなさそうなぐらい無視されている。
「たぶん……いいんじゃないかな。あっでもギース1人で来ると捕まるかもしれん」
「城になぞ来る用事はない」
「普通はそうだよね、普通は」
本来なら俺もない。
こういうのは全部クウガの仕事だったんだけどなぁ。
いつものように客間にいると、どうやって連絡されたのかしらないが作業着姿の皇女サンが出迎えてくれた。
「あなた……なぜ昨日来なかったのです?」
「……寝てた」
そう本当は昨日来る予定だったんだけど、本気で寝過ごして夕方になっていた。
考えた結果ギースも連れて行けば怒られないだろう。と思っての翌日だ。
「ほ。ほら手土産。ケーキもあるから! それにギースだっている」
「男が1人増えた所でわたくしが許す理由などありませんが、まぁいいでしょう。こちらです……ケーキはそこに後で美味しく頂きますわ」
俺はケーキを置いて急いで立ち上がるとギースが俺の肩を掴む。
「な、なに!?」
「どういう事だ! 自分には1日遅れた。と言ったはずだぞ! 完成が1日遅れたわけじゃないのか!?」
「うん。だから俺が1日遅れた」
「………………貴様、いつかその口で地獄に落ちるぞ」
別に嘘は言ってない!
真実しか言ってないのに地獄に落ちる事も無い。
いくつかの角を曲がる。
その途中で何度も皇女サンが魔石みたいのを扉の前にかざすと自動ドアの様に開いて、俺達が通ると背後で閉まる。
「魔石によるロックか……古い技法のはずだが」
「あら。銀髪の男さん……名前はギースさんといいましたね。良くお分かりで」
「はっ! …………古代遺跡で見た事があったので」
「緊張しなくてもいいですわ。気休め程度ですし、隣にいる人なんて驚いてもいませんもの」
「え、俺?」
「亡霊でなければ貴方しかいませんわね。貴方ならこの扉をどう攻略します?」
刺がある口調だけど皇女サンが言うと褒美みたいに聞こえるから凄いと言うか。
師匠がいなかったら落ちていたかもしれん。
最近『のじゃ』成分足りてないし。
「ああ、だって扉だけでしょ。壁壊すけど」
「貴様っ!」
「…………その通りですわね。ですから気休め程度ですわ。こちらです」
いやだってさ。
館から脱出せよ系謎解きゲームで鍵探すより、窓や壁壊したほうが早いでしょ。って何度も見てるし。
迷宮型のような壁さえも壊せないダンジョンと違って普通の城であれば壁を壊すよ。
円形の階段をひたすら降りると大きな……大きすぎる空間にでた。
「うっわっ……」
俺が声を出し、隣のギークは声すら出てない。
全長15メートルぐらいのミサイルみたいのが縦に直立してる。
本来であればその横に本来の飛行船みたいにガスを入れる部分があるはずだが今はついて無く、その本体だけが見える感じだ。
この世界の事だからガスじゃなくて魔力。
もしくは魔法だろうけど。
窓が付いておりその横には4連砲門も……あれついてない。
目立つ初の4連砲門がない!
「どうです」
「これが飛空艇、デーメーデールかでも、目玉の4連砲門がまだないけど、あっ試作だからか。いやぁ悪いね貰っちゃ……」
なんだろ。
皇女サンが唇を細めて笑みを浮かべてる。
近くによると白い手袋が俺の目の前のくるとそのままこめかみを握りつぶそうとする。
「いっ! 痛い痛い痛い痛い痛い!! 握力つよ!」
「このマジックグローブ、鉄ぐらいなら飴細工のように潰せますの。痛がると言う事は人間のようですわね」
慌てて皇女サンの手を振り切ってしゃがむ。
頭に穴が開いたかと思って痛い部分を手で押さえる。
「ギース! この辺穴空いてない!? 血出てるよね!?」
「あ、開いてはいない」
「いくら皇女でも、突然痛いんだけど!?」
「こちらのセリフですわ。そもそもあげませんし。なぜ教えていない名前や付けてもない4連砲門の事を貴方が知ってるのです? クロウベルさんに化けた魔物かと思いましたわ」
あっ。
ええっと……そうか。そうだよね。
これはまだ未完成品で俺が完成品を知ってるだけだし。
「ええっと……4連砲門着いたらかっこよさそうだなって……名前はそのフィーリング!」
「…………物凄い苦しい言い訳ですがまぁいいでしょう。どうせ教えてくれないでしょうし、貴方がいないとデーメーデールだって完成しなかったのでしょうし。ですが……いえ、もういいです」
本来はクウガが来て手伝いするもんな。
そのクウガは今は絶賛瀕死の遺体とかわらんし。
「メーリスさん!」
皇女サンがメーリスを呼ぶと俺がしゃがみ込んでいた近くの床がパカンと開いた。
「はいはーい。サンさん呼んだ? あれ、昨日来なかったクロウベルと……誰? そもそもそんな所でしゃがんでどうしたの?」
「どうしたのって、そこの床開くの?」
「こっちが貴方達にあげる本題の道よ。1日余裕あって準備万端よ」
俺は皇女サンを見ると目が合った。
「え、このデーメーデールくれるんじゃいの?」
「わたくし1人で普通に開発して後2年以上。メーリスさんを入れて頑張っても数ヶ月かかりますし大討伐が始まる時期に、念のためにと作った大事な戦力をあげる馬鹿な人がいるのですか?」
うおっと。
毒がない言い方でこれは怒ってそうだ。
俺の横でギースが一歩前に出た。
「皇女様。自分の事を知っているようだったが自分はギース。何も持ってない男ですが自分は友を助けたい……そのためには何でもやるし、コイツの非礼を詫びる」
「まぁ調べてありますわよ。ご安心なさい、要は王国領まで馬や船よりも早く往復出来ればいいですのよね。こちらですわ」
メーリスが「こっちだよー」って軽く言うとその竪穴に皇女サンが入っていく。次にギースが入って最後が俺だ。
長い縦はしごを降りると数メートルの小舟が見えた。
大きさはちょっと大きな馬車が2つ分ぐらい。
名前は確かミニ飛空艇。『コメット』
4連から砲門を1つに。
全体的に小型がして乗車人数は基本6人。
本来であればデーメーデールの中に入る予定のミニ飛空艇だ。
脱出用として作られていたが、ゲーム内では設定だけで使われる事がなかった小型飛空艇。
「へぇ……」
俺はとりあえず唾をのみ込んだ。
ここで『コメット』や『出来ていたんだ』とか、一言でもいったら皇女サンのアイアンクローが飛んできそうだから。
先に降りた皇女サンが俺を細めでじっと見てる。
「な。何かな?」
「この小舟。まだ名前が無いのです、どうしましょうか?」
「俺に聞かれても……」
助けてギース君!
長寿族のギークを探すといつの間にかいない。
メーリスに小型飛空艇『コメット』の性能をレクチャーされてる。
「どうしました? 『助けて』みたいなお顔をして。お名前! どうしましょうか?」
二度目の圧が飛んでくる。
「こ、皇女サンの好きな名前でいいんじゃないかなぁ……」
「では……『コメット』で」
絶対決まっていただろ。
名前の判断が早すぎる。
「い、いい名前ですね」
「ええ、とても星が落ちる。という意味合いもあり、そのスピードを目指した。とでもいうのでしょうか本来は上にある『デーメーデール』の緊急脱出用に取り付け予定でしたが、アレには別の型をいれましょう…………どうなされました?」
「持ち運びどうしようかなってマジックボックスに入る?」
「入りません。特殊な鍵ぐらいは作ってありますわ、使用者は限定されます。作った私達2人と貴方だけですわね」
なら安心だ。
いやだって世界に1個しかないのを行った先で盗まれたって言ったら終わりだし。
皇女サンにそれがしられたらギロチンにかけられそう。
あれ……?
最近なにか師匠とイチャイチャしたいだけなのに俺の死亡フラグが増えたような。




