第111話 技師姫と禁忌の技師
グランバール城、南西側。
皇女サンのプライベートエリア。
そこに俺はいる、もちろん皇女サンの飛空艇作りのためなんだけど……。
俺の服を引っ張ってくる鍛冶師メーリス。
言いたいことはわかるよ? 皇女サンと意気投合して『わたくしの工房を見せますわ』で連れてこられた先がグランバール城だ。
しかも裏口というか何十人も兵士がいる中、挨拶もせずに歩くんだ。
俺はまぁ……貴族の世界で多少なりともそういう練習をさせられた事はあるがメーリスは一般人だからな。
「ど、どういうこと!? 私、店主にぼったくりっていっただけで殺されるの?」
「殺されはしないと思うよ」
たぶん。
小さい声で追加で言うとメーリスが震えだした。
「何をしてるのです?」
「いや、規模がでかいなって思って」
「…………クロウベル=スタン。あなたこのメーリスに何も説明してないのかしら?」
「うん」
「…………うん、じゃありません事ですのよ」
と、いっても。
俺の説明する時間を一切与えなかったくせに。
「工房の前に同意が必要ですわね。そこの客間に入って頂戴」
「イエッサー」
「…………本当に面白い人ですわね。紅茶の用意をしてきますわ、それまでごゆるりと」
あちこちツギハギはしてある作業着姿の皇女サンはそれでも気品にあふれると言うか、さすがは姫だ。
俺とメーリスが言われた通り客間に入る。
俺は近くのソファーに座るんだけどメーリスが立ったままだ。
「座らないの?」
「座りたいわよ!? でもその、あの人なに? なんでグランバール城に顔パスで入れるの!? こっちはそのあちこち汚れた格好でそんな豪華なソファーに座れるわけないじゃない!」
「俺は座ってるけどな」
あっちこっち馬で走ってきた分、俺の衣服は正直汚い。
出もまぁ、座っていい。って言われてるんだし座らないと損だ。
「よく座れるわね……高そうなソファーよ。あっもしかしてあなたって超大金持ち!?」
「貴族だった事はあるけど追放されてるよ。その日ぐらしの愛の伝道師って言わなかったっけ?」
「うーん、覚えてない」
そりゃそうだろうな。
俺が改めていうと、作業着姿のサンがカートをコロコロと押して来た。
場違いというか、高価そうな台車に高そうなティーポットとカップ。それにケーキがおいてある。
「どうぞお食べになって」
「どうも」
「うわ、高そう」
「値段を聞いた事はありませんけど、甘いですわね……すわりませんの?」
まぁ聞かれるよな。
「ソファーが汚くなるのがもったいない。って話らしい」
「別に気にしません事、では……」
サンはティーポットを掴むとソファーに紅茶をじょろろろとかけた。
「どうです? これでソファーも汚くなりましたけど、貴方が座らないのであれば他のソファーも同じようにしたほうがいいでしょう」
「す。すわります!」
強引というか、その方法は嫌いじゃない。
皇女サンに思わず見とれるとメーリスは慌てて濡れてないソファーに座った。
「よろしい。では……鍛冶師メーリス。貴方わたくしと一緒に飛空艇を作りなさい。もちろん嫌であれば帰りなさい」
「ひくうて……い?」
メーリスが片言だ。
まぁ普通はそういうだろうな。
困ったメーリスは俺を見てくる。
「飛空艇ってのは空飛ぶ乗り物だな。空飛ぶ船みたいなもんだ」
「え、でも開発は禁止されてるわよね」
「逆にそうなの?」
そんな話は一切知らない。
注意はあっても禁止はされてないような。
「制空権の問題で危ないからって理由であれば、あってる?」
「大体は。問題はその質量なのよ……人間の複数人であれば魔法使いが魔法で飛ぶじゃない? 船って事は運搬よね。それだけ大きい船を作るとなると出力が安定しないはず。馬車でさえ自動走行を作るのに現行の5倍の大きさになるのよ、それを――」
話が長い。
「メーリス話がなが――」
「クロウベル黙りなさい。いいわ……メーリスさん続けて」
「え。はぁ……でね。仮に小舟となると――」
今日のご飯はなににしよう。
魚がいいなぁ。
師匠はちゃんと食べてるかなぁ。
と現実逃避をする。
俺の発言は今一切禁止されてるからだ。
2人の会話は専門すぎて俺が聞いても意味がなさそうなので別な事を考える。
「――と理由で禁止というか注意かな」
「すばらしいですわ」
「どうも」
話が終わったらしい。
「いや。俺もそう思っていたよ!」
「…………あなた途中から話聞いてませんでしたわよね?」
「…………まぁうん。長いだもん」
「ふふふ、正直者は好きですわよ。いつか貴方の秘密を知りたいですわね」
皇女サンはとても機嫌が良さそうだ。
俺の秘密ってもちょっと原作ゲームをクウガ視点でやり込んだぐらいしかない。
そのクウガ視点っても映画っぽさもあってクウガ自身になっていたわけじゃないし。
「まだ名前を聞いてないわ。一方的にメーリスって呼ばれるのはフェアじゃないと思う。たとえあなたが城の偉い人でも名ぐらいは名乗るべきと思うの」
「おーーー」
俺はメーリスに拍手した。
「ちょっと、なんで拍手?」
「それもそうですわね。こちらのクロウベル=スタンは何故かわたくしの名すら知っているようですけど、自己紹介がまだでしたわね」
皇女サンは作業着のまま見えないドレスを摘まみ優雅にお辞儀する。そのしぐさで魅了されそうだ。
「バール家第一皇女サン」
はっきりと言い切った皇女サン。
それに文句を言っていた鍛冶師メーリスは口からケーキを落とした。
「こ、皇女様!? とんだ無礼を!」
「いいえ。わたくしは1人の友人として同士として貴方に頼みたいのです。先ほどの話どうされますか?」
恐縮して色々言い訳をするメーリスに畳み込むように質問し始めた。
力強く透き通るような声。
いや、魔力か? 皇女サンの体が少し光っているようにもみえる。
メーリスのほうはいつの間にか土下座してふるえていたが、皇女サンの『友人として同士として』で震えが止まっている。
顔を上げメーリスは手を差し出す、一方皇女サンはその手をしっかりと握った。
正直。
俺は何を見せらてるんだ。
とりあえずこれで飛空艇が貰えそうだ。
「えっと、明日取りにくればいい?」
「…………」
「…………」
1人は細い目になり。もう1人は目を見開いて俺を見る。
「あなた……17年かけて作っているのが明日出来るとでも?」
「現物をみてないけど、明日出来る物だったら私要らないと思うんだけど?」
「え、あっはい……ごめんなさい」
だってだって。他のゲームで飛空艇作ってる爺さんは宿屋に一泊したら。こんなこともあろうかとって出来てたよ!?
「何日待てば……」
「そうですわね2年ぐらいは」
「じゃぁ3日後にくるよって、2年!?」
普通に王国帰った方が早い。
ってかギースに何て説明すれば……じゃなくても『早く王国にいき聖女を探したほうが方がいい。自分の魔法とて完璧じゃない』って口うるさく言われてるのに。
たぶんだけど、激怒してギースが時止の魔法を使って俺が殺される可能性が高いだろう。
もう全部捨てて逃げるか?
別にクウガだもんな、死んだって……。
クウガの『クロウベルさん!』って捨てられた子犬のような顔が思い出される。
思わず吐きそうだ。
その笑顔に騙されておれば殺されるのだ、殺していいのは殺される覚悟がある奴だけだ。
いやでもなぁ。
「そんなにクウガさんという人が大事なのですか?」
「は?」
俺はサンを見るとサンは穏やかな笑みを浮かべてる、こんな顔も出来るだ……じゃなくて。
「俺いいましたっけ?」
「ギルドに手配して聞きましたわ。なんでも瀕死のご友人を助けるために……飛空艇が欲しいんでしょうね」
「個人情報保護法とかないんですかね?」
「皇族ですわよ」
あっ無いんだ。
まぁないか……民主主義ってわけでもないしなこの世界。
力ある奴が黒といったら白い鳩も黒になる。
「どういうこと!?」
1人納得してないのはメーリスだ。
そりゃ説明してないからな。
「いまサンが言った通りかな……友人じゃなくて知り合いな。まぁ最終的には失敗するとその知り合いのファンに俺が殺される可能性があるので回避するためだけど。まだ師匠に再会してないしイチャラブもしてないのに死にたくないし」
「うわ、いい話と思ったのに」
「正直な人は好きですわよ……約束は約束です。5日後に来てください……メーリスさんこちらに」
「え、は! はい皇女様」
サンは立ち止まるとメーリスの方に向いた。
「ご友人に身分は関係ありません、今後皇女様と呼ぶ事を禁止します」
それこそ身分差の命令だろうって事はさすがの俺も口に出さなかった。




