第108話 皇女サンと黒き水竜
グランバール冒険者ギルド2階応接室。
俺とギースはそこに座って目の前にはモブギルド職員のアンナが座ってる。
テーブルには色々な書類。
一つ一つに色々誓約が書いてあって軽く目を通してからサインをした。
「話はわかりました……」
「でしょ?」
「5日ほどクウガ冒険者の遺体を監視しましたが、話の通りに傷口が悪化しませんでした。薄くとても固い膜のような者でおおわれてますね。……保存の魔法らしいですが、これほどの魔力……いえ魔法聞いた事がありません」
「ええっと純粋に魔力を巻いたみたいな? ギースの祈りが届いたみたいで不可抗力でなったらしいよ」
「…………そうなんですか……まるで時間が止まったようですね」
アンナさん確信つきすぎい!
「そ、そんな魔法あるわけないじゃない! なぁギース!」
「……ない」
「そうですよね、もしかしてあったら大変な事です」
やっぱそうよね。
一応ギースから時止めの魔法の事は言わないでくれって言われた。
だったら牢の時に話すな。と思ったが……まぁ普通の人は信じないか。
俺もマナ・ワールドをプレイした身としては信じるが、この世界の事だけを知っているクロウベルの立場で言えば信じない。
動きを一時的止める魔法はあっても時止は初めてだ。
「わかりました。あなた方が高位のヒーラーを連れてくるまではギルドで保管します」
「いやぁ悪いね」
「当たり前です。橋の下で保管するとか……ギースさん聞いてますか!? あなたが橋の下に置くので前回通報騒ぎがあったのですよ!!」
なるほど。
ギースは隠したつもりが見つかったのか。
「埋めるわけにもいくまい」
「そうですけど……でしたら先に言ってください。なぜ言わなかったのですか、こちらももう少しで燃やす所でしたよ!」
「だから何度も言った」
確かに言ってたな。
ギースが文句を言うとアンナも心当たりを思い出したのだろう無言になる。
小さく咳払いをして話を進めて来た。
「維持費は月金貨5枚でいいですよ」
「え、お金取るの?」
「当たり前です、冒険者の私物の保管。本来なら月に金貨10枚なんですけど半額でいいです。あっこちらにサインを……毎月の支払が遅れると私物は冒険者ギルドの物になるので」
「いやぁそれはいいんだけど……返済が遅れたらギルドで生きてると思うクウガ引き取るの? もしかして捨てる? 後味悪くない?」
「…………要りませんけど! 決まりなので」
怒られてしまった。
「ごめんって……確認の意味もあってさ、はいこれ」
俺は金貨20枚ほどを一気に支払う。
少し遅れても大丈夫なようにだ。
「確かに。ではこちらの用も終わったので後はご自由にどうぞ……ギース冒険者はともかく、クロウベルさん本当に冒険者の資格取らないんですか?」
「取らないよ。クウガみたいに命の危険は避けたい」
「はぁ……《《この数日で調べましたけど》》……もったいないですね」
意味深な言葉を残してアンナは礼をして応接室から出て行った。
残ったのは俺とギース君である。
「貴様……今のはどういう意味だ? やっぱり貴様は強いんだろ」
「だから弱いって、もうけちょんけちょんよ……さて話は戻すけど。知り合いの聖女を連れてこなければならない」
もちろん聖女アリシアだ。
今頃は王国でクウガを探しながら巡礼の旅をしてるんだろう。
「そういう話だったな」
「で……2日前も言ったけど移動する乗り物が欲しい」
「馬車の事か? 王国までレンタルするのなら馬のほうがいい」
「んー……それに関してはちょっとアテがない事もない、あと馬も馬車も時間がかかりすぎる」
問題は会えるかどうか。
転移の門をあちこち移動でも良いんだけど、やっぱり時間はかかる。
ここ数日でギース君はだいぶ俺と打ち解けた。
にらむだけで済むんだもん。
「話ついでに聞くけど結局ギースの正体ってなに? 魔女? 男だから魔男?」
「…………長寿の一族だ……魔女というのは一族の中でも魔力を持った女性の事だ」
あ、やっぱりそうなんだ。
エルフって事なんだろうな……その呼び名がなくて長寿族とでもいうのだろうか。
「納得したわ。俺も1人知ってるし」
「なっ!? 誰の事だ!! あったのか!? 生きてるのか」
「誰って……教えない」
実はギースは師匠の恋人です。とか。
実はギースは師匠の兄や弟です。など。
そんな関係だったら嫌だから……ギースの事を義兄さんって呼ばないといけなくなる。
「ますます謎が多いな貴様」
「俺は普通の人なんだけどねぇ……さて。何時までもギルドにいても仕方がないので飯にするよ。『竜の尻尾』でいいかな、おごるけど」
「1人でいけ」
「え。食べないの?」
「クウガの治療代、維持費……どれもこれも貸しは作りたくない。進展があれば『竜の尻尾』のマスターに伝えろ」
ギースは不機嫌な顔のまま応接室を出て行った。
なんていうか、もう少し打ち解けてもいいだろうにねぇ。
「さて……じゃ俺もいくか。このままクウガを放置してもいいんだけど流石にな。俺の責任もあるんだろうし……ってか死ぬなら遠くで死んでくれないか。俺と別れて半日で死ぬとかさ。いや死んでないか」
応接室から出てギルド1階へ降りる。
忙しそうにしてるアンナと目線が合うと手を降ってみた。
手を降り返したアンナは書類を落とし慌ててるのが見えた。
悪い事をした気分だ。
そのままギルドを後にしてふらふらと歩く『竜の尻尾』という酒場に入ると昼間というのに数人の飲んだくれがいた。
カウンターでは腕っぷしが強そうな姐さんがコップを磨いている。
夜の酒場で主人をしてる人の奥さんで名前はメリル姐さんだ。
事前に連絡を入れて、とある人を呼んで。と頼んでいた。
「おや。もう来たのかい?」
「暇だからね。夜まで待たせてもらっていい?」
俺はメリル姐さんに言うとカウンターのはじに座る。
何か頼もうかと思うと透き通る声が聞こえた。
「その必要はないわ!」
あちこちツギハギと汚れの目立つ作業着姿の耳が隠れる程度の金髪女性。
その女性、第一皇女サンが腕を組んでカウンターの奥から出て来た。
「あら、いたの?」
いくら城の関係者といっても店主は絶対にサンと連絡が取れると知ってると思っての駆け引きだ。
ちょっと用事があるから呼んでくれない? って言っておいたのだ。
「呼ばれたから来たのですけど……《《それも名指しで》》……おかしいですわね。私自己紹介しましたっけ? 《《王国領の貴族スタン家三男のクロウベル・スタンさん》》?」
「俺も《《自己紹介した覚えは無いんだけど》》」
不敵な笑みを浮かべる皇女サンは俺の隣に座った。
俺の個人情報は駄々洩れである。
ギルドでも調べられていたし、そのせいもあるんだろう。
メリル姐さんは俺とサンの前にグラスとワインを置くとカウンターを離れる。
内緒話は聞かないし漏れないよ。という暗黙の動きだ。
すばらしい。
「で、本当に何なんですの?」
「この銃を渡すから飛行艇ちょーだい」
俺は腰に付けていた銃をサンの前に置くとサンは固まったまま銃を見た後に俺を凝視する。
ちょっと怖いんだけど。
「極秘中の極秘……側近や父上にも伝えない事なんで知ってますの?」
やべ。そうだったのか。
そういえば会議で『秘密兵器がありますわ!』って登場するんだしそりゃそうか……。
「そんな気がした」
「どんな気ですの!!」
サンが怒鳴ったので、酒飲みやメリル姐さんは固まって俺達を見る。サンが失礼。と言った後に座りなおすと酒場の喧騒も戻っていった。
「まだ試作機……未満で完成もしてませんわ……いえ、完成できるかも難しい問題ですし、それに帝国領の新しい土地。そこの開拓に空を飛ぶ魔物が多いんですの。おいそれとあげるわけには」
「じゃぁ貸して」
「そのまま持ち逃げされても困りますの。銃は頂くとして別の事はどうですの? こう見えても多少の金品はもってますの」
銃は持っていくんだ。
このままでは手ぶらで銃だけ取られる、俺も別に金目的じゃない。
この皇女一枚上手である。
だが、俺とて悪役令息だ。
まだ切り札はある。
「この銃を作った人を紹介したら完成するじゃないかなー……一応俺知ってるし、紹介しようか」
「………………ふっふっふっふ」
何か笑い出した。
「本当に面白い人ですわね。何から何まで知りつくてるというか、占い師。いえ未来師か何かですの?」
「全然……知ってるかもしれないけど弱くて勘当された貴族の三男」
「しらじらしい事ですの。いいでしょう! この連続カートリッジ型の銃を作った人が仲間に加われば出来るかもしれせんわ。話はそれだけのようですね……では黒き水竜のクロウベルさん、いずれ」
無いはずのスカートを摘まみ、一礼して皇女サンは帰っていく。
しばらくするとメリル姐さんがカウンターに戻って来た。
いや変な呼び名は辞めて欲しい。
「話は終わったのかい?」
「色々とありがとう、いい話が出来た」
「いいのよ。旦那から聞いたけどあの人に気に入られ、いい稼ぎをさせてもらったからね1回ぐらいは借りを返すさ」
ついでに今日の昼飯もサービスさ。と、言うと俺の前に揚げ鳥の山盛りが差し出された。




