表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/150

第1話 記憶

目の前に車のライトが見えた気がした、気がした。じゃなくて本物の車が俺にぶつかって来たのだ。


 営業職うんねんの俺は小雨の中残業を終えたばっかりなのに、なんて日だ。

 時間は真夜中午前0時を過ぎた所、もう少しで大声で歌えば通報される時間帯。

 

 痛みよりも驚きで意識だけははっきりしてる、だって転がったカバンから飛び出たのは昔遊んだゲーム情報が載った雑誌、昼間のサボリ中に古本屋で見かけて家に帰って読もうと思ったページがパラパラとめくれていく。


 『マナ・ワールド』オープンワールドゲームで追加でキャラ決定した『魔女メルギナス』の素晴らしいラフ画が雨に濡れたのを最後に見えた……。



 ――

 ――――



「クロウベル様!」



 クロウベル? ひどく懐かしい名前なきがする。

 俺が遊んだ『マナ・ワールド』の初期に倒される辺境貴族の雑魚キャラがそんな名前だったきがする。



「お体は大丈夫でしょうか? 階段から……落とされ……いえ足を滑らせたようですが」

「は?」



 俺は目を開けると、目の前に現れた女性をみてしまう。

 短く青髪のカツラを着けたメイド服の女性が心配そうにしていて、俺が落ちたという階段を見上げる。


 メイド喫茶にしては規模がでかい。

 さしづめ、貴族喫茶である。


 その階段の上に人影がありクロウベルの……俺の一つ上の兄、スゴウベルがニヤニヤと見下ろしていた。



「アンジュ! そのようなカスに構う事はない。よかったな大事な屋敷に傷がつかなくて」



 俺の心配よりも屋敷を心配する兄……いやなんで兄だってわかるんだろう。

 それよりも俺はいつ貴族喫茶に行ったのだろう? というかこの屋敷も見覚えがありまくる。



「スゴウベル様……そのような事を言っては同じ兄弟です」

「同じな者か!」



 ああ、確か母親が違うだよな。

 俺は三男で黒髪、上の二人であるスゴウベルは次男。ゼロベルは長男で茶髪だ。


 階段から降りて来たスゴウベルは俺の前に立つと心底呆れた顔だ。



「愛人の子などさっさと追放すればいいものを」

「スゴウベル様、クロウベル様の母親は私の友人であります、スゴウベル様の母親も私の友人です」



 アンジュが少し怒ると、スゴウベルもひるむ。



「追放は俺が水属性の素質があるからとか……」

「は?」



 スゴウベルの言葉が止まった。


 俺も自分で口に出して頭が混乱する、何でそんな事俺が知っているんだ……いやでも、ゲームの設定資料集ではそうだったはずだ。



「アンジュ、こいつは何を言っているんだ?」

「もしかしたら頭を強く……」

「いよいよか、これだったら父上も追放してくれるだろう」



 ゲーム開始時には全然出てなこないアンジュであるが後半に出て人気が出る女性キャラだ。


 その隣で嫌な笑いをしてるのは俺の兄である茶髪のスゴウベル。


 名前だけしか知らないはずなのに顔もわかる。



 間違いないか……ここは『マナ・ワールド』というゲームの中だ。


 主人公クウガは困った人間を助けちゃうマンで、冒険者をしながら自らにかけられた呪いを解くために幼馴染達と旅に出る。


 その呪いは何と『ハーレムの呪い』どこの主人公だ! と思うが主人公だからしょうがない。


 プレイしながら別に解く必要なくない? と何度もおもったし結果エンディングでは呪いは解けたのに全員と重婚するという期待通りの展開だったはず。


 なんでこのゲームに熱中したか、というとサブクエストやヒロイン達が可愛くて……さらにDLCダウンロードコンテンツで見た魔女メルギナスに興味があったから。


 なんとこの魔女。

 主人公であるクウガになびかないのだ。


 まぁここまではまだ良い。



「問題はこの俺、クロウベルか」



 黒髪でわがまま、よく20年間も生きてこれたなって性格の悪役貴族。という奴だ。



「おいアンジュ、こいつブツブツと……自分の名前を言っているぞ……少し怖いが、回復魔法士呼ぶか?」

「クロウベル様、少しお休みしたほうが」



 2人に心配されて顔を上げる。

 思いっきり考え事をしていた。



「それよりもスゴウベル! 階段から落としてくれてありがとう」

「あ?」

「記憶が戻った」

「馬鹿の?」



 もうスゴウベルに構ってる余裕はない。

 営業マンの鉄則、現状を確認だ。


 二つの記憶がある中、俺は屋敷の中にある自室へと走った。

 部屋の中には本棚と机、姿見と簡単なベッド……何よりも俺が知ってるクロウベルよりも若いクロウベルが見えた。



「まるで少年か……よし現状」



 1つ! クロウベルは序盤に倒される雑魚キャラである。


 2つ! 殺される時はわがままだったけど、今の感じを見る限り陰キャに近い。


 3つ! クロウベルの本来の性格は水魔力の素質はあるけど努力は嫌いだ。


 4つ! 転生した俺は別にそこまで努力は嫌いじゃない


 5つ! 当然死にたくはない。


 6つ! せっかくなら貴族の身分とゲーム知識で夢を叶えたい。


 7つ! 主人公クウガで無いのでヒロイン達は諦める。


 8つ! NTR漫画はみるが別にNTRしたいわけじゃない、ヒロインは主人公とくっつくから花がある。


 9つ! ………………と言う事は隠しキャラである魔女メルギナスを攻略できる…………いやっほおおおおおおおおおおおおおお。

 胸! 尻! 腰! あの高身長でジト目、おっぱいも大きくて甘えさせてくれる。と思うエルフっぽい女性。



「ええっと……魔女メルギナス。思い出せクロウベル……あれ、俺の前世の名前が思い出せない……まぁそこはいいか、《《思い出したくない事もあるし》》」



 魔女メルギナス、年齢不詳のキャラで一時的にクロウベルの師匠だった過去を持つはず。

 語尾に『のじゃ』をつける魔法使いで、普段はだらしなく、脱いだ衣服を片付けないようなキャラ。


 ここで確認1に少し戻る。


 悪役貴族でわがままし放題の領主代理クロウベル。


 そのクロウベルは主人公クウガと戦うわけであるが、その理由がクロウベルがヒロインの『アリシア』という仲間をNTRとしたから。


 それも強引に。


 で素質マシマシの主人公君クウガにフルボッコされ最後は殺される。



「俺としては別にクウガとは戦いたくはない、NTRしなければ戦わなくていいんじゃね? それよりもメルギナスを攻略に徹するか。昔から憧れていたんだよね……師匠と弟子のイチャラブ。よし今日はイチャラブ記念日だ!」


 俺が右腕を上げると、背後から拍手が聞こえた。



「よかったですね記念日」

「ぶっはっ!!」



 鏡の前で盛大にふいた。

 後ろを振り返るとアンジュが医療箱を手に持っていた。



「い、いつからそこに!」

「今ですけど……所で何の記念日なんですか? ノックはしたのですけど返事がないので入りました」

「…………生まれ変わろうかと思って」



 あぶない。

 前世の記憶を少し思い出した俺であるけど、叫んでいる所を見られるのは少し恥ずかしいからだ。


 それに俺が前世とゲームの知識がある。というのはなるべく広めない方がいいだろう。



「アンジュ……俺の年齢は」

「先月15歳の誕生会を開いた所かと」

「ああ…………あの小屋でやったやつか」



 普段から屋敷内でいじめられている俺は、誕生日を小屋で祝ってもらった。


 スゴウベルから『母親が平民であれば誕生日会など小屋で十分だな』と手配された奴だった。


 なお現在出張中の父親サンドベルは王都クラックの財政部に所属してるはずだ。


 泣いている俺の代わりにアンジュが何度もイジメを訴えたが『強くなれ』と助言だけ貰って終わりである。



「となると、5年前か」



 本編より5年前と言う事は色々と準備は出来る。



「10歳の時がどうがなされましたか?」

「ああ、その5年前じゃなくて…………いや、それよりもアンジュ。剣を教えてちょうだい」



 俺がアンジュに向かって命令すると先ほどまでのメイド長アンジュの表情が固まった。


 七星アンジュ。『マナ・ワールド』の世界では剣星の称号を持つ女性で、なななんと父であるサンドベルの愛人。

 メイド長をしながらサンドベルの息子である俺やスゴウベルに仕えている。


 俺としてはそんな彼女に剣を教えて貰いたい、少なくとも主人公クウガには負けたくない、極力戦いたくないが負けると死ぬ可能性が高いし。




「何のご冗談でしょうかクロウベル様、私はただのメイドですけど」



 若干引きつるアンジュの笑顔。



「冗談をいうほど時間があるわけじゃないからな、俺はとっとと強くなって結婚がしたい!」



 俺が宣言するとアンジュかポカーンと口を開けている。



「クロウベル様……まさか、そのアンジュには決めた相手がですね、その嬉しいですけど、いやまさかこの歳で求婚をされるとはアンジュびっくりしました。いくらあの人の子供とはいえ……お気持ちは嬉しく思います。ど、どうしましょう……カナデとサンドベルの子から」



 アンジュが何か勘違いしてないかこれ、俺は別にアンジュと結婚するわけじゃない。



「…………アンジュ、勘違いしてるようで悪いけどアンジュが父の愛人だってのは知ってるから、流石の俺も父から奪う趣味はないしアンジュは家族だし」

「!?」



 高揚していた顔が今度は蒼白になる。

 面白いなぁ、アンジュの口が金魚の様にパクパクなって声が出てない。



「へ、部屋は……私の部屋はここから遠いですよね!?」

「あーええっと、トイレ。そうトイレのついでに外を散歩した時に、父がアンジュの部屋から出るのをさ……」

「うかつでした……わたくしが剣を使えるのもその時に……ですよね」

「あーうん。たまに中庭で剣を振ってるよね」



 アンジュの心底落ち込んだ顔をみて目的は達成されそうだ。と確信した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ