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負け悪役貴族に転生した俺は推しキャラである師匠を攻略したい  作者: えん/えんとつ畑@雑記


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第1話 記憶

 小雨が降る夕方、目の前に車のライトが見えた。

 見えたからなんだって話になるけど、避ける間もなく俺にぶつかって来たのだ。


 日中は公園にいっては時間を潰し、夕方は上司に怒られるやる気の無いサラリーマンの俺の人生はここで終わった……のか?


 もう少し好き勝手に生きてもよかったな。

 例えば知らない場所に着いたら叫んでみたり、セクハラしても怒られない女性とイチャイチャしたかった。



 人体の不思議で人は死ぬ時に意識だけが超回転する場合があるという。

 その時に過去を振り返るのが走馬灯と呼ばれるアレだ。


 今の俺の状態がそれで、手から吹き飛んだカバンの事を思い出す。

 飛び出たのは昔遊んだゲーム情報が載った雑誌、昼間のサボリ中に古本屋で見かけ買ったやつ。

 お値段なんと3980円! 高すぎるだろあの店主。吹き飛んだページがパラパラとめくれていくのが見える。


 あー懐かしいな。

 少しだけ流行っていた『マナ・ワールド』特集のページが開かれていた。

 序盤は良かったのに途中から迷走に迷走を重ねたRPGゲーム。

 そのDLCコンテンツで追加された巨乳キャラ『魔女メルギナス』のラフ画に目が映った。


 この『魔女メルギナス』はイベントが少なく主人公と恋愛フラグが出る前に終わった。

 もったいない。突然に意識が飛ぶ。


 ――

 ――――



「クロウベル様!! しっかりしてしてさい」

「はい! しっかりしてます!」



 女性の声で怒られたので反射的に謝ってしまう。

 これが日本人の駄目な所だ。


 って、クロウベル? まさに俺が昔遊んでいた『マナ・ワールド』に同名のキャラクターがいたのを思い出す。


 ゲーム序盤のほうでハーレム主人公の『クウガ』に殺されるだけの『悪役辺境貴族』がその名前だったはずだ。



「お体は大丈夫でしょうか? まさか……落とされ……いえ……足を滑らせたようですが」

「は?」



 改めて俺を心配してくれている女性を見る。

 姫カットと呼ばれる青色髪、え? 地毛か? とにかくメイドさん。


 次に振り向くと背後にある階段。

 30段はありそうな段差で舞台セットにしては大き過ぎる。


 じゃあメイドが心配してるからメイド喫茶じゃないの? と思ってしまうが、メイド喫茶のメイドさんは『ご主人様』と呼んでも『クロウベル様』とは呼ばない。

 

 と、いうかこのメイドの恰好をした女性は見た事があるし名前も思い出す──そう。



「アンジュ! そのようなカスにかまうことはない。よかったな大事な屋敷に傷がつかなくて」



 小生意気そうな子供の声。

 階段の上でちょっとぷっくりした《《スゴウベル》》が俺を見下ろしていた。



「あれって子ブタ……じゃないスゴウベル……?」



 小さくつぶやくと、目の前のアンジュが唇をキュっとしたのが見えた。



「スゴウベル様……そのような事を言っては同じ兄弟です」

「同じなものか!」



 そうそう同じじゃなくて設定では母親が違う。

 俺は3男で黒髪。

 次男のスゴウベルは……茶髪だな。

 もう1人兄が設定上いるはずだが、見た事はない。



 上から降りて来たスゴウベルは俺の前に立つと心底呆れた顔だ。



「愛人の子などさっさと追放だ、スタン家に愛人の子など不要」

「スゴウベル様、クロウベル様の母親は違えど共に私の友人であります」



 そうそう。

 俺の親父であるサンドベルは無類の女好きなのだ。

 向こうの記憶とこの世界の記憶が混ざりだす。



「だからどうしたのと言うのだ! メ、メイドのくせに」

「メイド長です。スゴウベル様」


 

 アンジュが少し怒ると、スゴウベルもひるむ。



「でも……こいつは本編にはいなかった……」

「泣き虫のくせに何をブツブツ言っているのだ?」

「もしかしたら頭を強く……」



 まだ優しい時のアンジュは俺の頭を優しく包み込む。

 女性らしい天然の匂いが俺の五感を一気に覚醒させてくれた。



「いよいよか、これだったら父上も追放してくれるだろう」



 間違いないな。ここは『マナ・ワールド』、つまりはゲームの中だ。

 でもこの世界で現実として生きてきた記憶もある。


 『クロウベル=スタン』の生涯は死ぬだけである。



 うん? うん。



 本編の『マナ・ワールド』の主人公であるクウガは自らの呪いを解くべく幼馴染アリシア、ミーティアとともに旅に出る。

 性格は困った人間を助けちゃうマンで、困った人、特に女性中心の願いを聞いては世界を回り、のちに英雄となるだろう。で終わるタイプだ。言いきらないのは、ルートによって英雄ってわけでもないし。地域の正義マンお兄さんみたいな? とにかく! その呪いとは『ハーレムの呪い』どこの主人公だ! と思うが主人公だからしょうがない。


 プレイしながら別に解く必要なくない? と何度も思ったし結果エンディングでは呪いは解けたのに全員と重婚するという期待通りの展開だったはず。


 なんでこのゲームに熱中したか、というとしてもしなくていいサブクエストが多くヒロイン達が可愛くて……さらにDLCダウンロードコンテンツで見た魔女メルギナスに興味があったから。


 ハーレムの呪いの効かない魔女は、クウガと出会っても特にイベントもない。

 何百年も生きているらしく、ゲームプレイ中でもクウガには勿体ないな。と思ったものだ。


 第2の人生。

 色々とわがままに生きてもいいかもしれない。



「問題はこの僕が、クロウベル=スタンが殺される。と言う事だけ」

「おいアンジュ、こいつブツブツと……自分の名前を言っているぞ……まさかパーになったわけじゃないだろうな、親父に怒られ──勿体ないが錬金術師でも呼ぶか?」

「いえ、ここは回復魔法の上位ヒーラーを──」



 2人に心配されて顔を上げる。

 思いっきり考え事をしていた。



「2人とも大丈夫だ。元気元気!! それよりもスゴウベル! ボクを階段から落としてくれてありがとうございます!」

「あ?」

「記憶が戻った」

「馬鹿の?」



 もうスゴウベルに構ってる余裕はない。

 もっと現状を把握する必要がある。


 俺の記憶の中のクロウベルは領主になっており、しかも悪役だ。

 階段から落とされてメイドに慰めてもらうような性格はしていないのだ。


 二つの記憶がある中、俺は屋敷の中にある自室へと走った。

 部屋の中には本棚と机、姿見と簡単なベッド……何よりも俺が知っているクロウベルよりも若いクロウベルが見えた。



「少年姿かな、問題点はどこだろう」



 1つ! 元のクロウベルは序盤に倒される雑魚ボスキャラである。


 2つ! 殺される時はわがままだったけど、今の感じを見る限り陰キャに近い。


 3つ! 設定が同じならちょっと水魔法の素質を持っている。


 4つ! 転生した俺は別に結果の為なら努力は嫌いじゃない。


 5つ! 当然俺は死にたくはない。


 6つ! せっかくなら貴族の身分とゲーム知識で夢を叶えたい。


 7つ! 現在の俺が主人公であるクウガで無いため、ヒロイン達と関わる事も少ない。


 8つ! NTR系漫画はみるが別にそこまで興味もない、ヒロインは主人公とくっつくから華がある。


 9つ! ………………と言う事はハーレムに含まれない魔女メルギナスを攻略できる。 胸! 尻! 腰! あの高身長でジト目、おっぱいも大きくて甘えさせてくれる。と思うエルフっぽい姿で長寿族という女性。



「ええっと……魔女メルギナス。もっと思い出せクロウベル……あれ、前世と思われる名前が思い出せない……まぁそこはいいか、《《思い出したくない事もあるし》》」



 さて……本題だ。


 魔女メルギナス。年齢不詳のキャラ……と言ってもたぶん千年以上の年齢。

 さらにだ! 実は後付け設定で短期間であるがクロウベルの師匠だった過去を持つ。


 後付け設定で無理やりな所があるんだけど、俺の持つ水魔法が使えるきっかけに魔女メルギナスがかかわった。と設定資料で読んだ。


 語尾に『のじゃ』をつける魔法使いで、普段はだらしなく、脱いだ衣服を片付けないようなキャラ。真面目な時はキリっとしてるとかなんとか?


 ここで確認1に戻る。


 悪役貴族でわがままし放題で最後には殺される領主クロウベル。

 もちろん殺されるには理輔がある、クロウベルは主人公クウガと戦うわけであるが、その原因がクロウベルがヒロインの『アリシア』という仲間を襲ったから。


 それも強引に。

 結果的に未遂で終わるも、それまでも悪役領主をしていた関係で英雄素質マシマシの主人公君クウガにフルボッコにされ最後はこの世から。アーメン。


 ゲームだよ?

 倒されるんじゃなくて、殺されるだ。

 そこまでする? 一応は領主だよ?



「俺としては別にクウガとは戦いたくはない、NTRしなければ戦わなくていいんじゃね? それよりもメルギナスを攻略に徹するか。昔から憧れていたんだよね……師匠と弟子のイチャラブ。よし今日はイチャラブ記念日だ!」



 俺が右腕を上げると、背後から拍手が聞こえた。



「よかったですね記念日」

「ぶっはっ!!」



 鏡の前で盛大にふいた。

 鏡面越しにアンジュが医療箱を手に持っているのが見えたからだ。



「い、いつからそこに!」

「今ですけれど……何かの記念日なんですか? ノックはしたのですけけれど、お返事がないので入りました。たんこぶが大きくなっていると思われます。こちらに……おかわいそうに」

「…………生まれ変わろうかと思って」



 あぶない。

 イチャラブ記念日だ! と叫んでる所聞かれていたら、病院に行きましょう。となりそう。

 そもそも病院があるのか知らないけど。


 それに俺が地球の記憶とさらにゲームの知識がある。というのはなるべく広めない方がいいだろう。本当に転生していたとして、序盤からひけらかすと、誤差が出た場合最悪だ。



 アンジュは俺の頭に氷のうを置くと、優しく包帯で巻き始める。

 別にそこまでしなくても。




「アンジュさ……俺の年齢は」



 自分のメイドに『さん』付けもおかしいか。現に階段から落とされる前は呼び捨てにしていた記憶もある。



「先月15歳の誕生日をご一緒に」

「ああ…………あの小屋でやったやつね」



 普段から屋敷内でいじめられている俺は、誕生日を小屋で祝ってもらった。

 何故貴族なのに屋敷じゃないのかって言うと、そこで真っ赤な顔の兄が「平民のくせに」とイジメて来たから。気の弱い俺はアンジュに言って小屋で誕生日を行った。


 なお現在出張中の父親サンドベルは王都クラックの財政部に所属してるはずだ。

 泣いている俺の代わりにアンジュが何度もイジメを訴えたが『強くなれ』と助言だけ貰って終わりである。



「となると、5年前か」



 本編開始まで色々と準備は出来る。



「10歳の時がどうかなされましたか?」

「ああ、その5年前じゃなくて…………いや、それよりもアンジュ。剣を教えてちょうだい」



 俺がアンジュに向かって命令すると先ほどまでのメイド長アンジュの表情が固まった。


 七星アンジュ。『マナ・ワールド』の世界では剣星の称号を持つ女性で、なななんと父であるサンドベルの愛人。


 メイド長をしながらサンドベルの息子である俺やスゴウベルに仕えている。


 俺としてはそんな彼女に剣を教えて貰いたい、少なくとも主人公クウガには負けたくない、極力戦いたくないが万が一だ、戦う事が強制イベントであった場合は死ぬ可能性が大幅に高いし。


 やだよ。これから5年間、毎日死のカウントダウンは。



「何のご冗談でしょうかクロウベル様、私はただのメイドですけど」



 若干引きつるアンジュの笑顔。



「冗談をいうほど時間があるわけじゃないし、俺……ううん。僕は強くなって結婚がしたいんだ!」



 俺が宣言するとアンジュがポカーンと口を開けている。



「クロウベル様……まさか、そのアンジュには決めた相手がですね、その嬉しいですけど、いやまさかこの歳で求婚をされるとはアンジュはとてもびっくりしました。いくらあの人の子供とはいえ……お気持ちは嬉しく思います。ど、どうしましょう……カナデとサンドベルの子から」



 アンジュが、何か勘違いしてないかこれ、。俺は別にアンジュと結婚するわけじゃない。



「…………アンジュ、勘違いしてるようで悪いけど、アンジュが父の愛人だってのは知ってるから。流石の僕も父から奪う趣味はないし、アンジュは家族だし」

「!?」


 高揚していた顔が今度は蒼白になる。

 面白いなぁ、アンジュの口が金魚の様にパクパクなって声が出てない。



「へ、部屋は……私の部屋はここから遠いですよね!?」

「あーええっと、トイレ。そうトイレのついでに外を散歩した時に、父がアンジュの部屋から出るのをさ……」

「うかつでした……わたくしが剣を使えるのもその時に……ですよね」

「あーうん。たまに中庭で剣を振ってるよね」



 アンジュの心底落ち込んだ顔を見て目的は達成されそうだ。と確信した。





※────作者からのお願い────※


定型文みたいな物ですが、よろしければ☆やハートを入れてもらえるとモチベが上がります(1話だけにお願い文字を入れてます)


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