元人間の九尾の狐による中居ストーリー
設定はふわっとです!
連載を書く気力がなくめっっちゃギュギュッとして短編にしました!
_この世界には、幽世と呼ばれる妖達の楽園と現世と呼ばれる人間達の楽園がある。
「玉藻ー!奥方様にこれ運んでー!」
異形の中居が料理が乗ったお盆を手に持っている。
「はーい!」
同じく中居の着物を着ている私はそれをサッと受け取り目的地へと小走りする。
_鬼狐玉藻。私の名前だ。16歳。でも、何故か大人と見間違われる。身長が高い訳でもないのに。
「失礼いたします」
しずしずと扉を開け、中に入る。
「あ…」
中にいるのは、2本角の支配人様が攫ってきた綺麗な女性だ。
サラッサラな黒髪に宝玉の様な黒い瞳。まさしく、美少女。しかし、そのお体には痣が沢山できており、とても痛々しい。
1つ訂正しておくが、これは支配人様が付けた訳ではない。どうやら、再婚して出来た継母や異母妹に追い出されたところを保護してきたらしい。
怒りで9本の尻尾が出そうになる。
危ない危ない。キュッとお尻に力を入れて我慢する。
_そう。私は化狐だ。
何故か尻尾が9本あるのだが、私を化狐にしてくれた親切なカラスさんはこの尻尾を隠すようにと怯えながら言っていた。
カラスだから尻尾で叩き殺されると思ったのだろうか?
その辺は分からない。
「奥方様、お食事をお持ち致しました」
返事はなし。仕方が無いので机の上にお盆を置いた。
「ごゆるりとお過ごし下さいませ」
この後も仕事があるので、帰ろうとすると…
「あ、あのぅ…」
後ろ…つまりは奥方様から声がかかった。
「どうかなさいましたか?」
くるりと振り向く。
「あ、ありがとうございます…」
怖がりながらだが、きちんとお礼を言うところに育ちの良さが表れている。
「礼は不要ですよ。なんせ、私は中居ですから。この旅館で一等偉い支配人様のご結婚候補であられる貴方に尽くすのは当然の義務です。
それでは失礼します」
淡々と無表情で説明する。
愛想がないのが私の欠点だ。
_あぁ、そう。ここは幽世。その中で唯一の旅館だ。
お偉い方々からど庶民まで受け入れている。まぁ、受け入れると言っても部屋の大きさ云々はある。
少しの…いや大分格差はあるがそれでも客足は途絶えない大人気の旅館。
そんな旅館にとある人の身代わりで中居になった。
悔いは一切ない。
「どうだった?」
私にお盆を渡した異形の中居が食い入る様に聞いてきた。
「何が?」
質問の意味が分からず、質問を返してしまう。
「奥方様よ!綺麗なお方だった!?」
顔を真っ赤にして、興味津々と言った様子だ。
「綺麗な方だったよ。流石、支配人様の『番』ね」
その言葉にキャーッと黄色い悲鳴が上がる。
それを背景に淡々と仕事をこなす。
_妖には番と言うものがある。そして、その番は必ず人間だ。
出会う確率は千分の一。だから、妖たちはそれにロマンを抱くのだ。
元人間の私には一生分からないことだろう。
奥方様にも番と言う言葉は使わなかった。絶対に結婚することを言われても困るだろうと思ったからだ。
(馬鹿馬鹿しい)
運命の番とかなんだとか言われているが、その番様に恋人がいたらどうするのだ?
無理矢理離してお前は俺の番だから結婚しろと脅すのか?
人間はお前らのことが番だと分からないのに。
そんなことをするより、好かれ合う同族と結婚した方がよっぽど有意義だと私は思う。
「今日の仕事はこれで終わり!
解散解散!」
短いオレンジ髪の若女将がパンパンと元気に手を叩く。
私達はその言葉で帰り支度を始める。
「玉藻ー!」
後方から勢い良く走ってくるタヌキの耳と尻尾がついた可愛らしい幼女をサッと抱き上げ、高い高いをしてやる。
「どうしたの?猯」
狸児猯。化け狸の見習い(本人から聞いた)。
「高い高い止めるのです!」
楽しそうだけど。止めて良いのかな?
「止めていいの?」
コテンと首を傾げる。
「…っ…うぅ………はい…!」
苦渋の決断みたいな感じだが、高い高いなんだよなぁ。
ストンと下ろしてあげる。
「一緒に帰りましょ!です!」
ギュッと私の手を握る。
「うん」
ぽわぁと笑う猯に私もつられて笑ってしまう。
_元人間で家もない私に手を差し伸べてくれたのが、猯だ。
旅館の近くにあるボロアパートで一緒に住ませて頂いている。
勿論、家賃は折半だ。
現世のお金と幽世のお金は違うので、給料が入るまで払って貰ったが、ちゃんと返した。
「らーんらん♪」
猯は歌を口ずさみ、私はそれを黙って聞く。蛇足だが、手は繋いだままだ。
帰ったら、ご飯の準備をしよう。
あの人が好きな料理を猯に振る舞ってあげるのだ。
✼
「えぇっと…」
奥方様が来てから数日が経った。
私には関係のないことだと思い、いつも通り仕事をこなしていたら奥方様が突撃してきたのだ。
「私のこと、認めて貰いますから!」
ビシィッと私を指差してくる。
目立つから止めて欲しい。仕事の邪魔だし。
「認めていますよ…?」
ちょっと言葉の意味が分からず疑問形になってしまう。
「え!?だって、最初に会った時に『結婚候補』って…」
あぁ、少し気を利かせて言った言葉が誤解を招いているのか。
「待って下さいです!」
いつから聞いていたのか猯が割って入ってくる。
「玉藻は口下手な所があるです!
だから、多分、気を使っただけだと思う…です…」
どんどん声が小さくなっていき、最後は手をもじもじとさせて自信なさげだった。
その言葉を聞いて、私に視線が集まる。
「私は口下手じゃないよ?猯」
不満に思ったので、訂正する。
「え…!?でも…むぐっ」
すっと飴玉を口に入れる。黙った。よし。
「奥様」
くるりと奥様の方を向く。
「ひゃい!」
舌を噛んでしまったらしい。痛そうだ。
「支配人様のご結婚に私が口を挟む通りはありません。それと、私は奥方様のことをいい人だと思っているので、支配人様のご結婚相手に相応しいと思っています。
ご理解頂けましたか?」
「は、はい…」
捲し立てる様な言い方になってしまったが、これで引き下がってくれるならそれで良いか。
お騒がせしましたとペコペコしながら去って行った。
やれやれ。
「さて、仕事に戻ろう」
無表情で仕事に戻った。
_私は知らない。
これから奥方様のせいで面倒くさいことになるとは
ここまでお読み頂きありがとうございます!!
この小説の連載は7月7日に書く予定です!すこーーーーーーしでも気になったら見に来てくれると嬉しいです!