第57話 告白
6月24日。木曜日。赤口。
放課後。
僕達は肩を並べて屋上の縁に立っていた。
「嬉しいな。
会いに来てくれて」
左に立った妻鳥が口を開いた。
「約束したからね」
僕は南の空に目を向けたまま
小声で返事をした。
屋上には僕達の他に3人の生徒がいた。
男子が1人に女子が2人。
いずれも3年生だった。
「この前聞いた話の中で
気になったことがあるんだけどさ。
そもそもの疑問っていうか・・。
どうやってあのサイトのことを
知ったのかなって?
白露兄ちゃんが言ってたけど、
簡単に見つけられる
サイトじゃないらしいからさ」
「マリアちゃんに聞いたの。
私の盗撮画像が貼られてるって」
「安武マリアに・・?」
「うん。
マリアちゃん、
ああ見えてパソコンに詳しくて
誰よりも情報通なんだよ。
あっ!
マリアちゃんの誤解を
解いた方がいいかも。
彼女はまだ冬至くんが盗撮犯だと
思ってるはずだから」
それを聞いて僕はようやく腑に落ちた。
誰にでも優しい聖母のようなマリアが、
2年生に進級してから、
僕に対する態度が
どこかよそよそしくなった、
その理由に。
僕は大きく溜息を吐いた。
「ね。
あそこの3人を見て」
「う、うん?」
「さっき冬至くんが来る前に、
こっそり話を聞いたんだけど、
どうやら彼が2股をかけてたみたいなの。
うちみたいに少人数の学校で
よくやるわよね。
バレないと思ったのかな?」
「そ、そうなんだ・・」
僕はそっと向こうにいる3人の方へ
目を向けた。
その瞬間。
女子の1人が男子の頬を叩いた。
続けてもう1人の女子が
男子の股間を蹴り上げた。
男子は「ぎゃっ」
という悲鳴をあげて前かがみで悶絶した。
2人の女子は何事もなかったかのように
手を繋いで屋上を出ていった。
「友情と愛情を天秤にかけるとさ。
どっちに傾くんだろうね?」
その様子見た僕は
そんな疑問を口にしていた。
「う~ん。
友情かな?」
「どうしてそう思うんだい?」
僕は妻鳥の方を見た。
「だって。
愛情は1つでしょ?
でも。
友情には数の制限がないから」
妻鳥は南の空を見たままそう言った。
「へぇ。
そんな考え方もあるんだね。
でもさ。
1つの愛情がすごく重かったら?」
すると妻鳥はこちらに顔を向けて
首を傾げた。
「それを言い出したら
友情だって重いわ。
それに。
愛情が永遠に続く可能性は
限りなくゼロに近いけど、
友情は永遠に続くでしょ?」
「儚いからこそ。
愛情は尊いモノなんじゃないの?」
僕が食い下がると
妻鳥は頬を膨らませた。
「冬至くん。
口が達者になった気がする」
「えっ・・そ、そうかな?」
僕は慌てて南の空の方へ目を向けた。
どんよりと曇った空が広がっていた。
今なら言える。
いや。
今更伝えたところで・・。
「それよりもさ。
この前の答えだけど・・」
僕は大きく息を吸った。
「僕は・・。
今でも好きだよ、妻鳥のこと」
その時。
ポツ、ポツ、と小さな雨粒が
僕の頭を濡らした。
「どうして私が雨を好きになったのか、
聞きたい?」
妻鳥は僕の告白には触れず、
そんな言葉を口にした。
僕は妻鳥の方へ向き直った。
雨粒が妻鳥の体を通り抜けて
その足元の地面を濡らしていた。
妻鳥の白い上履きも
雨には濡れていなかった。
「・・うん。
でも。
その話はまた今度にしよう」
そして僕は少女に微笑みかけた。




