第54話 地縛霊と浮遊霊
時計の針が
コチコチコチと時を刻んでいた。
幻夜が
「はぁ・・」
と大袈裟に溜息を吐いた。
それから。
幻夜はトマトジュースを
コクコクと飲んでから、
唇をペロリと舐めた。
「ど、どうしたんだよ・・?」
「だってそうでしょ?
せっかく幽霊っていう
潜入捜査に使える駒があるのに、
このビルから出ることができない
地縛霊だなんて。
まったく役に立たないじゃない」
そう言って幻夜は
白露が立っている壁の方を
恨めし気に睨み付けた。
「お、おい!
兄ちゃんを駒扱いするなんて
酷いじゃないか。
それに。
霊の力を借りる探偵なんて
聞いたことがないけどね」
僕が反論すると、
幻夜はもう一度
「はぁ・・」
とわざとらしく溜息を吐いた。
「探偵はお母さん。
私は助手なの」
「ちぇっ。
都合が悪くなると
助手を言い訳にするんだよな」
「文句があるの?」
「べ、別に・・ないけど・・」
幻夜のするどい眼光に気圧され、
僕は言葉を呑み込んだ。
「ま。
いいわ。
兎に角。
冬至は妻鳥小絵が突き落とされた時の
目撃者を探しなさい」
「ちょっと待てよ。
目撃者がいるなら
警察が把握してるはずだろ?」
「馬鹿ね。
誰が人間って言ったのよ。
幽霊が見えるんでしょ?」
「まさか・・」
「そうよ。
目撃者じゃなくて目撃霊を探すのよ」
そして幻夜は満面の笑みを浮かべた。
小さな八重歯が覗いていた。
時計の針が
コチコチコチと時を刻んでいた。
「あのさ。
さっきの僕の話を聞いてなかった?
霊の大半は地縛霊で、
その地縛霊には縄張りというか
領域があるんだよ。
同じ領域に2体以上の霊が
存在することは滅多にないんだ。
あの屋上は妻鳥のテリトリーだよ。
つまり。
目撃霊なんていないんだ」
「ふうん。
でもそんなに都合良く
縄張りが被らないことなんてあるの?」
「ぼ、僕も詳しいことはわからないけど。
スガワラさんが言うには
同じ場所に2体以上の地縛霊が
存在した場合、
その場に留まることができるのは
1体だけで、
他の霊は浮遊霊となって
彷徨うことになるらしいんだ」
「ふうん。
それなら。
もしかして。
いたんじゃない?
妻鳥小絵が屋上に棲み付く前に
存在した別の地縛霊が」
「へっ?
む、無茶言うなよ。
浮遊霊になって彷徨ってる霊を
簡単に見つけられるわけがないだろ!
一体どれだけの霊が
この世にいると思ってるんだよ」
僕の反論を聞いているのかいないのか、
幻夜は天井を睨んだまま
トマトジュースを啜っていた。




