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異端者達のメメント・モリ ~冬の始まり  作者: Mr.M
六章

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第51話 手掛かり

僕がコップを2つ持って部屋に戻ると

幻夜は大人しくベッドに腰かけていた。

僕はトマトジュースの入ったコップを

幻夜に渡して机に座った。

あの後。

公園を出た僕達は

バラバラに帰路についた。

そして。

夕食を済ませて

部屋で寛いでいた僕のもとへ、

幻夜が押しかけてきたのだ。


「もう全部話したけど?

 これ以上何の話があるんだよ?」

僕はアイスコーヒーを一口飲んでから

幻夜の方に向き直った。

幻夜はゆったりとした白いTシャツに

着替えていた。

そのシャツの裾からは

白く健康的な太腿が覗いていた。

「もう一度確認するけど。

 妻鳥小絵の幽霊は、

 突風や足を滑らせたわけではなくて、

 間違いなく背中を押された

 と言ったのね?」

幻夜はトマトジュースを

一口だけ飲んでから徐に口を開いた。

「うん・・」

僕は幻夜の生足をチラリと見てから

小さく頷いた。

「ふうん。

 つまり。

 妻鳥小絵の死は自殺じゃなくて他殺。

 そして。

 手掛かりは煙草の香り。

 そういうことね?」

「う、うん・・」

「それで。

 うちのクラスで煙草を吸ってる人間に

 心当たりは?」

「へっ?」

「『へっ?』じゃないわよ。

 当然いるんでしょ?

 そんな不真面目な生徒が」

「う、うん・・」

そして僕は躊躇いつつも

マリアを除いた3人の名前を挙げた。


時計の針が

コチコチコチと時を刻んでいた。


「なるほどね。

 そうなるともっとも怪しいのは

 円響ってことになるわね」

そう言って幻夜は僕の方へ

意味深な視線を投げてきた。

「な、何だよ・・」

「別に」

僕は幻夜から目をそらして

ふたたびアイスコーヒーを一口飲んだ。

マリアの名前を出さなかったのは、

決してマリアを庇ったわけではない。

あの日見たのが本当にマリアだったのか、

僕自身、

確信が持てなかったのだ。



僕がソレを目撃したのは・・。

妻鳥が死んで4日後。

僕が『ピーピングトム』で

『マイワイフ』のスレッドを発見した日。

あの日の夜。

僕は妻鳥の盗撮画像を見ながら

不謹慎にも自らを慰めた。

飛び散った分身を見て

我に返った僕は

深い後悔と罪悪感を抱えたまま

家を飛び出した。

そして。

葛城町の歓楽街をフラフラと歩いた。

ネオンに照らされた歓楽街は

昼間さながらに明るかった。

僕は歓楽街のど真ん中にある

『森林公園』に入った。

そこは喧騒の荒野に突如現れた

深緑の異界だった。

園内の木々の下では

何組もの男女が体を寄せ合って

愛を囁いていた。

彼らの間を縫うようにして

森の中を進んでいくと、

すぐに頭上が開けて、

円形の広場が現れた。

それはまるで。

森の奥深くに眠る秘密の湖のようだった。

5本のポールライトが広場全体を

優しく照らしていた。

その時。

僕の目がベンチの1つに座って

煙草を燻らしている1人の少女を捉えた。

少女は丈の短い

黒いワンピースを着ていた。

それは彼女の艶やかな肢体を

惜しげもなく晒していた。

僕は咄嗟にポールライトの下から離れて

ふたたび森の中へ体を隠した。

そして木陰からそっと少女を窺った。

少女はダークブラウンの髪を

後ろで1つに結んで

広い額を露わにしていた。

アーチ眉の下の二重の大きな猫目が

はっきりと見えた。

マリア・・?

いや。

マリアに似ている別人か?

前髪を下ろした彼女しか知らない僕には、

咄嗟に判断ができなかった。

どちらにせよ。

少女の放つ魔性とも呼べる色気に

僕の頭は痺れていた。

その時。

ふいに2人の若い男が少女の前に立った。



「ねえ、ちょっと。

 聞いてるの?」

「えっ?

 あ、ああ・・ごめん」

あれは本当にマリアだったのか。

「もう。

 本当に頼りないわね」

「そ、それで何?」

「だから。

 私も幽霊と話がしたいわ。

 妻鳥小絵の幽霊をここに呼んでよ」

幻夜がさらりとそんな台詞を口にした。

「へっ?

 む、無理だよ・・」

「どうしてよ?

 私が幽霊を怖がると思ったの?」

「い、いや・・そういうわけじゃなくて」

そして僕はこれまでスガワラさんから

聞かされ続けてきた幽霊談義を披露した。


「ふうん。

 つまり。

 妻鳥小絵は地縛霊で

 校舎の屋上から出られない。

 そういうことね」

「うん。

 フラフラと好き勝手に

 彷徨ってる霊なんて

 滅多に存在しないんだ。

 大抵は地縛霊として

 想いのある場所に留まってるか、

 もしくは背後霊として

 人に憑いてるか、

 その2つの場合がほとんどなんだ」

「それなら。

 私が直接会いに行くしかないわけね」

「ま、待てよ!

 妻鳥だって面識のない幻夜が現れたら

 びっくりするだろ?

 それに。

 そもそも幻夜には霊が見えないし、

 その言葉も聞こえないだろ?」

僕が強く反対すると

幻夜は不満げにコップに口をつけた。

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