第49話 空き家
僕は深く息を吸い、
書斎のドアを押し開いた。
次の瞬間。
目の前に立つ人物を見て、
僕は思わず息を呑んだ。
「げ、幻夜・・!
ど、どうしてここに・・?」
「学校を出る時の冬至の様子が
変だったから尾けてきたけど・・。
隠れて何をコソコソしてるのよ?
ここは空き家でしょ?」
「う、うん・・」
僕は書斎を出て
そっと後ろ手にドアを閉めた。
「ねえ。
説明しなさいよ」
幻夜はそう言うと腕を組んで
僕の方を睨んだ。
「・・人が来るとマズいから、
一旦、外に出よう。
近くに公園があるからさ。
そこで話すよ」
僕の言葉に幻夜は眉をひそめた。
「何よ。
空き家に不法侵入しておいて今更・・」
「い、いいから!
は、早く!」
僕は力強くそう言い放つと、
幻夜の手を取って家を出た。
『本所町第二公園』には
僕達以外に、
犬の散歩をしている年配の夫婦が
1組いるだけだった。
「こ、こんなところで道草を食って、
み、店はいいのかよ・・?」
僕はやや挑戦的な口調で
質問をぶつけた。
「言ったでしょ?
お店はあくまでもお手伝いなの。
それに。
出来の悪い三男坊が
犯罪者の真似事をしているのなら、
それを止めるのは
居候として当然の務めでしょ?」
そう言って幻夜はブランコに座った。
僕は溜息を吐いて
その前の境界柵へ腰を下ろした。
キーィキーィ
幻夜がゆっくりとブランコを漕ぎ始めた。
「そんなことより。
説明してもらおうかしら?
あの空き家で何をしてたのか」
「えっと・・。
『本所町2丁目の惨劇』っていう
未解決事件を知ってる?」
「あれね。
ご主人の留守中に奥さんと赤ちゃんが
殺されたっていう事件ね」
「う、うん・・」
「たしか。
残されたご主人は書斎で
首を吊って自殺したって聞いたけど?
もしかして。
さっきの空き家が
その事件のあった家なの?」
フラフラと揺れるブランコの上から、
幻夜は探るように問いを投げてきた。
「う、うん」
僕は頷きつつそっと額の汗を拭った。
「へえ。
それで。
その事件と冬至に何の関係があるの?」
「そ、それは・・」
僕は言葉に詰まった。
「そ、そうだ!
自殺したスガワラさんには
勉強を教えてもらってたんだ。
だから・・」
「ふうん。
だとしても。
不法侵入の理由にはならないわよ」
「えっ・・。
あ、ああ。
うん」
「怪しいわね。
私に何か隠してることがあるでしょ?」
いつの間にか動きを止めたブランコから
幻夜が真っすぐに僕の目を見ていた。
その瞳が赤く光ったような気がした。
心臓がドクンと跳ねた。
ふたたび額に汗が滲んだ。
僕はごくりと唾を飲み込んだ。
「こ、こんなことを話しても。
し、信じないと思うけど・・」
そして。
気が付けば、
僕の口はまるで何かに
取り憑かれたように、
ぽつりぽつりと言葉を紡ぎ出していた。




