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異端者達のメメント・モリ ~冬の始まり  作者: Mr.M
五章

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41/55

第41話 危機一髪

男は横断歩道を渡ると、

狭い路地へと入っていった。

僕達は男から距離をとって後に続いた。

「どこに向かってるんだろうな」

圭太が囁いた。

「さあね」

「この辺りに住んでるのかなぁ?」

車がギリギリ1台通れるほどの

小道の両側には

マンションやアパートが建ち並んでいた。

古い個人病院もあった。

男の行く手の先に公園が見えた。

男は公園を通り過ぎると

突き当りの丁字路を左に曲がった。

僕達は急いで追いかけた。


歩道の広い片側一車線の道路に出た。

男は車道を渡った先の歩道を

気怠そうに歩いていた。

僕達は男と平行に歩道を進んだ。

しばらくして。

男は道路脇の塀に囲まれた

古いビルの前で立ち止まった。

男はさり気なく周囲を確認してから

素早く塀の中へと姿を消した。

「行こうぜ!」

圭太の掛け声で僕達は車道を渡った。

そして警戒しつつ

塀の中へ足を踏み入れた。


敷地内は至る所に雑草が生えていて

見るからに荒れていた。

右手には塀に沿って用途不明の資材が

高く積まれていた。

正面の4階建ての古いアパートは

今はもう使われていないのか

人が住んでいる気配はなかった。

そして。

男の姿も見当たらなかった。

「あれ・・?」

「どこに消えたんだ?」

「誰もいないんだなぁ」

僕達は慎重に資材の裏側へ回り込んだ。

そこにも男の姿はなかった。


「・・俺に何の用だ?」

その時。

背後から声がした。

僕達は驚いて飛び上がった。

振り向くとそこにはあの男が立っていた。

伸びきったボサボサの黒髪が

目にかかっていて、

男の表情は窺えなかった。

頬がこけていて

口元と顎には無精髭が生えていた。

灰色のTシャツから出ている左の前腕には

逆さ十字のタトゥが彫られていて、

右手の手首には

シルバーのブレスレットが2つ付いていた。

「答えろよ。

 俺にはお前らみたいな

 餓鬼の知り合いはいねえぞ」

そう言うと男はポケットから

煙草を取り出して火を点けた。

「え、えっと・・」

僕が口を開きかけた瞬間、

圭太が男を指差した。

「し、知ってるんだぞ!

 お前は『No.4』だろ!」

髪に隠れた男の目が

大きく見開かれたのがわかった。

男が一歩だけ前に踏み出した。

「あん?

 何だそりゃ?

 俺は餓鬼の遊びに

 付き合ってる暇はねえんだよ」

そう言いながら男がゆっくりと

圭太に詰め寄った。


「あ、頭!肩!首!」

僕は咄嗟に声を張り上げた。

男の足が止まって僕の方に顔を向けた。

「あ、頭が重いでしょ?

 それに右肩が下がってる。

 左右のバランスが崩れてるのは

 見てすぐにわかったよ。

 首だってすごく凝ってるよね?

 知ってる?

 首は人体において

 特に大事な部分なんだ。

 だから世の中の重要な単語には

 『首』っていう漢字が付いてるんだ。

 首都、首領、首相、首脳。

 えっと・・他には・・。

 と、兎に角!

 オジサンの猫背は

 そんな体の歪みからきてるんだ!」

僕はそこまで一気に捲し立てた。

「それがどうしたんだよ!

 てめえが治してくれんのか、あんっ?」

「ざ、残念だけど・・。

 それは簡単には治らないよ。

 動物の怨念はヤバいんだ!

 人と違って言葉が通じないからね。

 今はまだその程度で済んでるけど、

 今後はどうなるかわからないよ。

 これまでに一体何匹の猫を殺したの?」

男の表情がサッと青ざめたのがわかった。

「て、てめえ!

 訳のわからねえことを

 言ってんじゃねえ!」

男が僕へと標的を変えた。

その時。

僕の前に大きな影が立ち塞がった。

「友達をイジメるのは、

 ゆ、許さないんだなぁ」

そう言って良司は両手を大きく広げた。

「いい度胸してるじゃねえか?

 じゃあてめえから殺ってやるよ、

 この豚が!」

次の瞬間、

ゴンっという鈍い音と共に

良司が尻餅をついた。

男が右拳を握りしめていた。

男は続けて倒れている良司に

蹴りを入れた。

「や、やめてよ!」

僕は良司の体の上に覆い被さった。

直後、

背中に痛みを感じて僕は悲鳴を上げた。

「け、警察を呼ぶぞ!」

圭太の声が聞こえた。

見ると圭太がスマホを掲げていた。

「あっ?

 呼んでみろよ!

 サツが来る前に

 お前らをボコボコにしてやるよ!」

男が圭太の方へ向かって歩き出した。

圭太はスマホを男に向けたまま

後退った。

「け、圭太っ・・逃げろ!」

僕は腹の底から声を出した。


次の瞬間。

男が前のめりに倒れ込んだ。

「誰だ!」

地面に手をついた男が振り返って叫んだ。

僕の目が上下黒のジャージに身を包んだ

目付きの鋭い五分刈りの少年を捉えた。

「九・・?」

「何だてめえ!」

男が立ち上がって吠えた。

そこからはあっという間の出来事だった。

男が九に殴り掛かると、

九は半身でそれをかわし、

男の腹に強烈な蹴りを入れた。

男の口から

「ぐぅぅ」

という呻き声が漏れた。

九は攻撃を緩めずに

男の腕と胸元を掴むと

背負い投げの要領で

男を地面に叩きつけた。

直後九の足が男の脇腹に振り下ろされた。

ゴッゴッ!

と鈍い音と共に

男が声にならない悲鳴を上げた。

「も、もう十分だよ!

 それ以上したら死んじゃうよ」

僕は慌てて九の許へ駆け寄った。

「ふぅ」

九は息を吐いて五分刈りの頭を撫でた。

「警察」

それからぽつりと一言だけ呟いた。

「えっ、あ・・う、うん。

 圭太!警察に連絡!」

僕は立ち尽くしている

圭太に向って叫んだ。


しばらくして。

圭太の通報で駆けつけてきた

警察官によって男は現行犯逮捕された。

容疑は良司と僕への暴行。

そして圭太は

「金銭を脅し取られそうになった」

と嘘を吐いた。

さらに男の所持品から

バタフライナイフと違法薬物が

見つかったことが決定打となった。

九に関しては

やりすぎた感は否めなかったが

僕達を守るための行動ということで

お咎めなしとなった。

2人の警察官は

最後まで救急車を呼ぶかどうかを

話し合っていたが、

結局男はパトカーに乗せられて

連れていかれた。


「いやー助かったぜ」

「うんうん。

 やっぱり十は強いんだなぁ」

圭太と良司がお礼を言った。

「それよりも。

 九はどうしてこんな場所に?」

僕が疑問を口にすると

九は気怠そうに五分刈りの頭を撫でた。

「アーケードのゲーセンから出てきたら、

 怪しい動きをしてる

 お前らが見えたんだ」

「声をかけてくれれば良かったんだなぁ」

「馬鹿か。

 そんなことをしたら

 俺まであの男に警戒されてただろ。

 お前らの尾行はバレバレなんだよ。

 特に出口、

 お前のそのでけえ図体は目立ちすぎだ」

「あう・・」

「で。

 何者だあの男は?」

九の質問に圭太が「へへへ」と笑った。

「聞いて驚くなよ。

 アイツは『No.4』なんだぜ。

 なあ、冬至」

「う、うん・・」

「それってあの猫殺しか?」

良司が何度も大きく頷いた。

「そんなことなら。

 もう腕の1本や2本、

 折ってもよかったな」

九が恐ろしいことを言った。

「そう言えば。

 九って猫を飼ってるんだよな?」

圭太がポンと手を叩いた。

「まあな」

そして九は照れたように

ふたたび五分刈りの頭を撫でた。

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