第4話 クラスメイト
望月幻夜はその目立つ外見とは違い、
静かで大人しい生徒だった。
休み時間になると早速、
女子の中で最も影響力のある
円響
が彼女に声を掛けていたが、
反応の薄い幻夜に興味を無くしたのか、
給食時間になると取り巻きの
雲泥万里
と
久瑠凛
の3人だけで机を囲んでいた。
帰りのホームルームが終わると、
幻夜は
「さようなら、またね」
と僕の方へ控えめに微笑んでから
いち早く教室を出ていった。
僕は僕は圭太と良司の2人が
鞄に教科書を仕舞うのを待ってから
3人で教室を出た。
「あの転校生、すげー可愛いよな」
靴箱で圭太が興奮気味に口を開いた。
圭太はクラスで2番目に背が低く、
お調子者で口が達者だった。
一九分けの黒髪はジェルで固められていて、
もみあげを顎のあたりまで伸ばしていた。
本人は「エルビス」を気取っていたが、
どちらかと言えば
僕は教科書に載っている
大久保利通の方が似ていると思っていた。
思春期真っただ中の圭太は
3人で集まると
いつも女子の話題を口にしていた。
「オイラはマリア様の方がいいんだなぁ」
一方、
良司は幻夜にはあまり興味がないようだった。
良司はクラスで誰よりも体が大きく、
圭太と並ぶと親子ほどの体格差があった。
坊主頭にげじげじ眉毛、
ギョロリとした目に団子鼻。
教科書に載っている
西郷隆盛にそっくりだったが、
女子からは
「プーさん」
と親しみを込めて呼ばれていた。
性格も穏やかで、
その口調もおっとりとしていた。
若干、
間の抜けたところがあったが、
それも1つの愛嬌だった。
そんな良司はもっぱらこの学園のマドンナ
安武マリア(あべ まりあ)
を崇拝していた。
マリアは才色兼備。
物静かでその立ち居振る舞いは
優雅且つ気品があった。
肩の下まで伸びたダークブラウンの髪は
緩いパーマがかかっていて、
アーチ眉の下の二重の大きな猫目は
長い睫毛でより一層大きく見えた。
高い鼻とやや厚いピンクの唇が情熱的で、
健康的な褐色の肌をしたラテン系の美女だった。
世界でもっとも知られたあの名画に
描かれた女性にどことなく似ていた。
さらに。
同年代の女子に比べて圧倒的に大きな鳩胸は
思春期の男子にとっては
この上なく刺激的な禁断の果実だった。
そしてそのことも彼女の人気を支える
一因だった。
圭太の目測では
Dカップ以上はあるとのことだったが、
僕と良司もそれに関しては同意していた。
マリアと良司は同じ小学校出身で、
5年生の時にイジメられていた良司を
助けてくれたのがマリアだったらしい。
それ以来、
良司は「マリア様」と敬意を払って呼んでいた。
ちなみに最初に良司を
「プーさん」と呼んだのもマリアだった。