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第3話 『聖イノセンツ学園』

教室に滑り込むと同時にチャイムが鳴った。

教壇に立っていた担任の

田村孝太郎たむら こうたろう

「冬至、ギリギリだぞ。

 もう少し余裕を持って登校しなさい」

と頭を掻きながら小言を言った。


34歳。

独身。

国語教師。

丸い小さな目と鼻、そしておちょぼ口。

それらのパーツが顔の中央に寄っていて、

付いた綽名はなぜか『フクロウ』だった。

無精髭に寝癖のついたボサボサの頭、

そして皺だらけのスーツと

その様子は見るからに疲弊していた。

色白で体の線も細く

その姿はまるで病人のようだった。


僕は「はーぃ」

と返事をして窓際の一番後ろの席に向かった。

僕の前の席の

出口良司でぐち りょうじ

とその前の席の

細川圭太ほそかわ けいた

がニヤニヤと笑いながら手を振っていた。

僕は舌を出して席に着いた。

隣の空席には

昨日まで置かれていた

一輪挿しの花瓶がなかった。


宿禰市舞鶴町にある

『聖イノセンツ学園』は1学年に1クラス、

そして男女各8名の16名という

少人数制の私立中学校だった。

当然、

入学から卒業までの3年間を共に過ごす

クラスメイトの顔触れは変わらない。

それは担任にしても同じだった。

その点はやや新鮮味に欠けるが、

ある意味平穏であるとも言えた。

そして。

『聖イノセンツ学園』は

世間的には有名進学校として知られていたが、

別に僕が特別優秀というわけではない。

それは圭太や良司を見ても明らかだ。


パンッパンッ!

ふいに田村が手を叩いた。

「皆揃ったところで改めて紹介しよう。

 今日からこのクラスで

 一緒に勉強することになった

 新しいクラスメイトだ」

その時になって初めて

僕は田村の横に立っている少女に気付いた。


二重の狐目にスッと通った鼻筋。

そして血のように真っ赤な唇。

驚くほど色が白く、

艶のある長い黒髪を頭の後ろで

1つに束ねていた。

真っ直ぐ垂れた後れ毛が

幼さの中にどこか大人びた色気を

醸し出していた。

将来、

美人になることは容易く想像できた。


望月幻夜もちづき げんや

 です。

 よろしくお願いします」

少女が頭を下げた。

「望月は冬至の隣の席に座りなさい」

田村にそう言われた少女はこくりと頷いた。

そして僕の方を見た。

目が合うと少女はにこりと微笑んだ。

小さな八重歯が覗いていた。

僕は慌てて目をそらした。

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