第五話 出会い(クラウス視点)
「竜炎の血盟」パーティのあまりにものブラックさを思い知った俺は、隙をみてこのパーティを抜けようと考えていた。
そんな時、俺はダンジョン内でたった一人で戦い続ける女性を見かけた。
彼女はシスター服を着ていたけれど、その上から金属製の胸当てを装備しており、ごついメイスと金属製の盾で戦っている。
ボブカットの黒髪が乱れるのも全く構わず、彼女は的確にメイスで魔物を粉砕していく。
――殴りプリーストか? それにしては動きが戦士のそれだ。全く隙が無い動き――けれど回復魔法は不慣れに見える。
――ほとんど受け入れられるとは思わなかったが、念のため俺は「竜炎の血盟」リーダーの竜騎士アーサリオに聞いてみた。
「彼女を助けなくていいんですか?」
「彼女?」
「あちらで一人で戦っている女性が見えないんですか?」
「――余計なことを言うな。目の前の戦闘に集中しろ」
アーサリオは吐き捨てるようにそう言った。おそらく他のメンバーも同じだろう。
彼らの隙をついて、俺はパーティから離れ、その女性に近づいていった。
「彼女」は黒髪ボブカットを振り乱し、鋭い眼光を走らせ、的確にメイスで魔物の群れを粉砕していく。盾の扱いも慣れたものだ。
――並みの戦士とは思えない、獣のような戦い方。
回復魔法が不慣れなこと以外は「完璧なソロで戦う戦士」だった。
(俺、入る隙あるんか……?)
俺はそう思って彼女を観察していると、ふとした拍子に彼女が倒れそうになった。
「――危ない!」
俺は彼女と魔物の間に入り、盾で攻撃を受け止め、剣で魔物を倒していく。――彼女を守るように、敵を一掃したあと、ドサッと彼女はダンジョンの床に倒れた。
「――大丈夫か?」
俺は彼女に歩み寄り声をかける。
「――お願い……できますか……、――教会に、連れて行ってもらえないでしょうか……」
息も絶え絶えにそう言う彼女を連れて、俺は一人で戦いながらダンジョンを脱出し、街の教会へと向かった。
☆ ☆ ☆
教会にたどり着いたころには日も暮れていた。
シスターたちが俺と彼女を出迎える。
「お父さんですか?」
シスターの衝撃のひとこと。
――え?俺、そんな歳に見えるか? まだ23なんだけど……。
戸惑う俺に、シスターは言葉を続ける。
「彼女――リリアさんのお腹には、赤ちゃんがいるのです。無茶させないようにしてあげないと――」
☆ ☆ ☆
シスターとのやり取りで、なんとか誤解を解いた俺に、リリアと呼ばれた女性はお礼を言う。
「ありがとう。けれども、私はあなたを信用したわけではありません。『竜炎の血盟』の奴らと、行動を共にしていたあなたを――」
「――!!」
彼女は――リリアは、「竜炎の血盟」と何か繋がりがあるのだろうか?
「ごめんなさい。あなたは私を助けてくれたのに――でも、これだけは譲れない」
毅然とした口調のリリアに、なるべく穏やかに俺は話を続ける。
「――確かに、俺は”奴ら”のパーティにいたよ。人が抜けたって聞いてたから、穴埋めとして入った。自分の力を試したかったのもある。――だけど、あのパーティは『人を使い潰すブラックパーティ』だった。行き過ぎた効率主義で、人を人としてみていない。――俺は、今からギルドに行って、パーティを抜けてこようと思う。――君にはもう、二度と会えないかもしれないけれど――」
「――待って」
立ち去ろうとした俺を、リリアはサファイアブルーの目で真剣に見つめた。
「私は奴らに、『竜炎の血盟』の奴らに、妊娠させられた――」
「――!!」