第三話 地獄の始まり(クラウス視点)
「今日から『竜炎の血盟』に加入することになったクラウスだ。ジョブはパラディン。これからよろしく頼む」
そう言って俺は「竜炎の血盟」パーティメンバーの前で頭を下げる。
――妙な沈黙。
竜騎士アーサリオ、忍者ジン、ソードマスターレイザーク、そして賢者ヴェイン。
ギロリ、と彼らは俺を睨みつける。
全身黒い鎧や衣装を纏った彼らの、威圧感――。
――何だ?? この違和感は――。
そう俺が思った次の瞬間、蹴りが入る。
――勢いよく、俺は床に叩きつけられた。
「――フン、行くぞ新入り」
アーサリオはそう言い捨てて、ギルドを立ち去ろうとする。
他メンバーも誰も俺のことなど見ていない、まるで”新入り”ならそれが当然のような態度だった。
――最初から、悪い予感しかしない。
(でも、どうせ最初だけだよな。だってレベル999、名声SSSとか勇者パーティだろ?)
そう思いながら、押し黙ったまま俺は「彼ら」についていく。
ギルドを出て、街の入り口で馬を借りる。
――俺が馬に乗ろうとすると、アーサリオがギロッとこちらを睨みつけて言ってきた。
「新入りの雑魚に、用意する馬は無い」
――馬で移動するような距離で、俺は歩けってことか??――いや走るのか。
「それと、貴様新入りだから何も知らんようだが――作戦会議と報酬の山分けの時以外私語禁止だ。もちろん食事の時も。それと睡眠は最低限。ダラダラしてる暇があったら戦闘で貴様の役割を果たせ。以上だ」
――とんでもないパーティに入ってしまったか? ――と俺は一瞬思ったが、
「分かりました」
俺は頭を下げる。
すかさずアーサリオのアッパーパンチが入る。
――俺は血反吐を履きそうになるがすぐ起き上がる。
「フン、生意気な奴だな。――このパーティがどういうパーティか教えてやる。身体でな」
吐き捨てるように、アーサリオが言った。
☆ ☆ ☆
休みなく走り続け、その間に魔物との戦闘もこなしてダンジョンを目指す。
――その間の食糧は、信じられないことだがその辺に転がっている魔物の肉。
調理することすらなく、無言で山分けして、ただ胃に流し込む。
(これ、半分腐ってるんじゃないか? ただでさえ臭くてまずい肉を、調理すらせずに食べるのか――?)
――案の定、吐きそうになる。それを抑えながらまた走り続け――そして絶え間なく続く戦闘。
それをこなしているうちに、俺は妙なことに気付く。
(全く回復魔法とか無しなのか、このパーティは――?)
俺の役割は盾役だから、基本ヘイト稼ぎをしてタゲをこちらに集め、パーティへの攻撃を受け止める役だ。
盾を使ってある程度受け止めるものの、技を使っている隙にどんどん体力が削られていく。
おまけに胃の中に入っている腐りかけの魔物肉のせいで、毒にも侵されているようだ。
それでも回復魔法が来ないので俺は手持ちのポーションを飲もうとした、直後に、
「貴様何をやっている!!」
――アーサリオが俺に蹴りを入れた。
「いや、回復魔法が来ないので、ポーションを使おうとしただけで――」
俺が言いかけると、アーサリオは信じられないことを言った。
「いいか、回復は『弱さ』であり『甘え』だ」
「――は!?」
――俺が呆気に取られていると、
「いいから持っているポーションを全部よこせ」
アーサリオが俺の頭を鷲掴みにする。
ほぼ強制的に俺はポーションを没収され、瓶は全て割られた。
――間違いない。
このパーティ、『竜炎の血盟』はブラックパーティだ。
俺は、そう確信してしまった――。