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裏切りの婚約  作者: もも
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4 いにしえの魔石

 ダニエルは黒曜石を王宮の筆頭魔術師に見せた。

「これはかなり昔に無くなったはずの幻と呼ばれた魔石だよ。こんな貴重なものが偶然にも手に入るなんて素晴らしい。予知夢の力が働いたか、妹殿が前世で余程悔しい思いをしたのか分からないが、良い方向に働いたのは明らかだ。ほらここに少しだが傷があるだろう。これが使われた証拠だ」


「妹は最悪の人生から守られたのですね」


「そうだと思う」


「消しておけば良かった」


ダニエルは拳を握りしめ歯噛みをした。待て、これからでも遅くはない。平民が二人消えたところで誰も気にしないだろう。

魔術師に礼を言いながら暗い笑みを漏らした。



「ダニエル殿、これはこれからどうされるつもりだろうか。妹殿の身を守った品物、貴重だとは思うが気持ちが悪いのも本当の所ではないだろうか」


「仰る通りです。妹は奴の色なので気持ち悪がっておりましたが、守ってくれましたので他の形に変え大切に保存しようかと思っております」


「研究の為に、その際に出た削りかすを分けて欲しいのだがどうだろうか」


「このまま暫くお預けしますよ。形を変えた時の残りは差し上げます」


魔術師の無表情な顔が少し緩んだ気がした。余り感情を表さないと聞いていたがそうでもないかもしれない。現に石のことも言い当ててくれた。おかげでこれからの方針が決まったのだから、お礼に片方をあげたいくらいだった。しかし自分の一存では決められない、持ち主は妹なのだ。



「どれくらいの価値があるものなのでしょうか」


「この魔石自体がとても古くて珍しく、魔法を使っている我々でも中々お目にかかれないのだ。予知夢を見せて人を助けたとすれば値打ちは計り知れないと思う」


「そうですか、大変参考になりました。お礼はこれで如何でしょう」


ダニエルは袋にぎっしりと入れた金貨を渡した。


「これは有り難い。魔術部は予算が少なく苦労しているので助かる」


「どうしてそのような事になっているのでしょう。国の大切な機関ではありませんか」


「昔の様に頻繁に魔獣が出るわけではないし、万が一の戦争の為と便利な生活の為に置いておくか、というくらいの待遇なのだ」


「昔は魔獣と戦っていただき、今は色々な便利な物を発明してくださっているのに罰が当たりますね。それに魔術師様達が国外に移住されると困るでしょうに、国のお偉方は何を考えているのですかね」


「そう言って貰えると嬉しい。平和だから魔道具の発明に力を入れられる。いい時代になったと思うことにしている」


ダニエルは最初は冷たそうな印象の魔術師が段々打ち解けて来てくれたのを何とも言えない気持ちで見つめてしまった。まだ若そうだが魔術師は年を取りにくいと聞く。自分より年上なのだろうかと思った。


「長々とお邪魔いたしました。私で力になれることがあればおっしゃってください。又ゆっくりお話ししたいものです」


「こちらこそ、面白いものを見せていただきありがたかった。なるべく早くお返しすると約束する」




屋敷に帰ったダニエルはミレーヌに石の不思議な力について話した。


「やはり石に不思議な力があったのですね。神様のおかげですわね。見てくださった魔術師様と助けてくださったハロルド様にお礼をしなくてはなりませんね」


「魔術師様には相応の報酬を渡しておいた。魔石を研究したいと言われるので暫くお貸しすることにしたよ。借用書も貰ってあるから心配は要らない。ハロルドは夕食にでも招くとしようか」


「そんなことでよろしいのでしょうか」


「いつも退屈そうな顔をしてるからこの度のことは刺激になって楽しかったのではないかな。夕食に招いたらミレーヌに興味が湧くかもしれない」


「もう口説かれましたわ。でも私は男性が怖くなりました。完璧な婚約者のふりがとても上手で見抜けなかったのですから」


「ミレーヌはゆっくりすれば良い。何も気にするな。あのカフスボタンだが元の石に戻して家宝にしようか」


「はい、私を守ってくれた大切な宝物ですから」






夕食に招待したハロルドは花束を手に現れた。

白銀の髪を後ろで束ね、黒のディナージャケットに黒のトラウザーズで凛々しさが半端なかった。

ミレーヌは感謝を表すため玄関まで迎えに出た。自分の瞳の色の薄紫のスレンダーなドレスを纏っていた。


「ようこそおいでくださいました。その節はお力をお貸しいただきありがとうございました」


「こちらこそお招きいただきありがとう。菫色のドレスがとても似合っている」


「ありがとうございます。ハロルド様も素敵ですわ。シェフの腕前は中々のものですのでお楽しみいただけると良いのですけれど」


「貴女がいるだけで楽しい時間になりそうだ」


「まあ、嬉しいですわ。さあ皆が待っています、参りましょう」


両親とダニエルが待っている食堂に行き和やかな雰囲気の中でディナーを楽しんだ。


ミレーヌは冷たいと評判のハロルド様が笑っていることに感銘を受けた。

(笑うと可愛いのね、これからもこうして食事が出来たら楽しいと思ってくださるかしら)


兄の友人なので見かけたことはあったが実際に話してみると柔らかな雰囲気の方だ。いや、駄目駄目、私ってば男性を見る目がないのよ。騙されていた事を忘れてはいけないとミレーヌは心を引き締めた。

お読みいただきありがとうございます。誤字報告ありがとうございます。

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