1 予知夢
よろしくお願いします。八話で終わる短い話です。暇つぶしに読んでいただければ嬉しいです。
ミレーヌにはライアンという婚約者がいた。双方に利のある政略的なものだったが良い関係を築けていると思っていた。
ミレーヌの家は豊かな銀鉱山を所有していたので、生活に困る事もなくのんびりとした性格に育っていた。
ライアンは伯爵家の嫡男で茶色の髪に黒い瞳の目立たないが整った顔立ちの男性だった。ミレーヌは性格が優しく真面目なライアンに好感を持っていた。政略だが結婚は上手くいくと信じられ幸せだった。
月に二度のお茶会には花束とスイーツは欠かさなかったし、街にデートに行く時にはドレスを贈ってくれ、観劇に行ったりレストランで食事をしたりした。
もうすぐライアンの誕生日が来るのでプレゼントを何にしようかミレーヌは悩んでいた。ハンカチに家紋の刺繍はしてあった。
侍女のマリアと護衛を三人連れて街へ行くことにした。自分で選んだものをプレゼントしたかったのだ。
宝石店で迷いながら選んだのはライアンの瞳の色に合わせた黒曜石のカフスボタンだった。侍女たちとお茶を楽しみ、お土産にケーキを買って家族と使用人に配った。
「ミレーヌ、ケーキをありがとう。美味しいと評判の店の品じゃないか」
「お兄様は見かけによらず甘いものがお好きだからたっぷり買いましたの」
「見かけによらずは余計だけど後でお茶にしよう。ミレーヌと飲むお茶は特別に美味しいから」
「お兄様シスコンが発動していますわよ」
「何とでも言ってくれ、どうして婚約なんてしたのかな、一生この屋敷で暮らせばいいのに」
「将来お兄様の奥様に嫌がられるからですわ。小姑が居座っている家になど誰も来てくれませんわよ」
「ミレーヌを好きな女性じゃないと結婚しないよ」
「もうお兄様ってば仕様がありませんわね」
★★★
その夜ミレーヌは知らない所で目を覚ました。ベッドも天井も見たことがなかった。お祖父様や親戚の屋敷でもなかった。私は誘拐をされたの?誘拐にしてはドアの外に見張りもいなければ、手足も縛られていなかった。
ドアをそっと開けて廊下の明かりだけで様子を調べることにした。マリアが側にいてくれるのかと思えばそうではないようだった。
此処はライアン様のお屋敷らしい。いつも通される応接間があった。何故自分がこんなところにいるのか分からなくなったミレーヌは一度行ったことのあるライアン様の部屋に行って話を聞いてもらおうとした。
ライアン様の部屋まで行った時少しドアが開いていて薄灯も漏れていた。良かった、まだ起きていらっしゃる。
だがそこで見たのはライアンが全裸の女性を抱いている姿だった。艶のある女性の声が聞こえた。
「婚約者様がいるのに裏切って酷い人ね」
「愛しているのはオリビアだけだよ。婚約は政略だ、上手くやっているから大丈夫だ。好きだ」
激しい行為は喘ぎ声と共に更にエスカレートしていった。
見ていられなくなったミレーヌは動けなくなった。あれは誰?私以外の女性に睦言を囁き獣のように盛っている人は誰?ここから動かなくてはと思いながら身体が言う事を聞いてくれない。ミレーヌの意識は暗く暗転していった。
★★★
目が覚めたのは自分の部屋だった。びっしょりと嫌な汗をかいていた。ベルを鳴らしマリアに来てもらい湯船の用意を頼んだ。
まるで見てきたようにはっきりとした夢だった。予知夢なのか過去に経験したことなのか頭が錯乱していた。
今までの態度が演技なら自分はなんて見る目がなかったのだろう。あれを見なければずっと騙されたままで結婚をし、いつか愛人に気がついたとしても我慢をするだろう。容易に未来が想像できた。
入浴してもまだ顔色の優れないミレーヌを見てマリアは
「お嬢様お医者様を呼びましょう」
と言った。
「お医者様はいいわ、お茶をお願い。それと着替えたらお兄様に部屋に来ていただくようにお願いして」
「畏まりました。では直ぐに」
あれを見た途端ライアンへの気持ちは冷めた。神様が教えてくださったのだと思うことにした。父に話すのは早すぎる。貴族は愛人がいて当たり前だと言いそうだ。父にはそういう相手はいないと思うが確証は持てなかった。
父がそういう考えであるかもしれない以上母にも頼れない。兄に相談することにした。
「ミレーヌ、何かあったのか、顔色が悪い」
「昨夜嫌な夢を見ましたの。予知夢なのか過去に経験したことなのか分かりませんがあまりにも生々しくてお兄様だけにご相談をしようと思いましたの」
「それはきっと予知夢だ、一度でもミレーヌがそんな生活をしていたなどと思いたくもないからな。私が奴の身辺を探ろう。大丈夫だ、心配するな。婚約破棄に持っていってやる」
「ありがとうございます、やっぱりお兄様に聞いていただいて良かったです。暫く会いたくありませんので体調が悪いということにしたいと思います。三ヶ月後に王宮で夜会がありますのでそれには出席しないといけませんけれど」
「ドレスは贈ってくるだろうな、それまでに結果が出せるといいが」
「あの方の色は纏いたくありませんが、ドレスに罪はありませんので我慢しますわ」
込み上げてくる吐き気を我慢しながらミレーヌはその時に思いを馳せた。




