第5話「憎しみと復讐とそれから」
────白い世界、眩しくて何も見えない。
ツーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
変な音がする。
────ユキナ………………ヨカッ……………ジャウカト…………………
璃の声がする。綺麗な声だ。
────あーまた意識がなくなってきた。
ゴメ…………………………………
────茶色い床、今にも落ちてきそうな明るい照明。
ここは…どこ?
窓から外を覗く。街中が照明のように光を放っている。その光を壊している大人もいた。火事ってやつか。
自分の場所はだいたい分かった。
確か…ここは…
旧小学校
昔の人の建物だ。今は倉庫として使われているらしい。
暗くて周りが分からない。
────そろそろ目が慣れてきた。
璃が隣に寝ている。花さんもいた。
────クッ
苦い記憶が蘇る
みんなは感情がない。だからあの行動は当たり前だ。当たり前なのに。また、声帯を思いっきり震わせたくなってきた。
────ゴソッ
「幸奈…?」
璃を起こしてしまった。
ん?
璃は私の手を握りしめた。理由は分からない。ただ、抵抗する気は全く起きなかった。
璃の手は相変わらず小さく、柔らかい。ツヤツヤしている。
「……………ごめんなさい」
────2人は外にいた。
炎の街を見ながらゆっくりと歩く。
歩きながら話す。
感情のこと。お母さんのこと。花さんのこと。
そして、謝罪。謝罪。謝罪。
「もういいって」
もう大丈夫。璃の顔がいつも通りではなくなっている。シワがよっている。目を細めてそこから水を流している。口角を下げておばあちゃんみたいになっている。足がもつれてきたらしい。
────2人は転んでいた。
手を繋ぎながら歩いていたらしい。
璃を助けるように手を出すと
また、謝罪。
だから、仕返ししてやった。
璃をひっくり返した。
────2人は炎の中で夜空を見ていた。
それはまるで「増える」とは逆の行動だった。
周りの人から見れば愚かな行動だっただろう。
でも、これでいい。これがいい。
この世界は残酷だ。感情を持ってしまった人はもう生きることが出来ない。こんな辛いならもういい。
璃は謝罪した。だから、私も謝罪する。
2人で逃げよう。
────あぁ、熱い。
けど、隣には璃がいる。あんな顔をクシャクシャにした後でさえ、璃の顔は美しかった。
────おい、なにやってんだ!
その男は唐突に現れた。私たちの前に。いや、私の前に。
お母さんを殺した男。やっぱり世界は残酷だった。逃げたいのに。逃げなきゃいけない理由を作ったやつが逃げさせてくれない。
いや、チャンスか。
炎のついた鉄パイプが転がってきた。
こいつを殺そう。
私には使命がある。
確か…「敵討ち」ってやつだ。復讐だ。
私はお前を許さない。許すはずがない。
それから、璃と一緒に………
────声が出たのかもしれない。
分からないがとりあえず襲いかかる。
────2つある。衝撃的なことが2つある。
1つ目は私の腕が動かないこと。
2つ目はこの男はそれを受け入れたような表情で動かないこと。
「ダメだよ、幸奈…」
どうやら、私は復讐することさえもできないらしい。
「君の母親、青葉玲奈を殺したことを謝罪したい」
また、謝罪。
男は唐突に頭を地面に擦り付けた。
意味が分からない。
「大変申し訳ございませんでした」
はぁ、私のこの気持ちはどこにやればいいんだろう。
もうこの気持ちを向ける相手さえ、居なくなってしまったらしい。
────私は璃の手を振りほどいた。
喉が潰れるような感覚がした。体が勝手に動く。
視界がボヤける。
男の頭を踏み続ける。踏み続ける。踏み続ける。
────私の喉が潰れた頃、この儀式は終わった。
もう「増える」だとか、「感情」だとかそんな事よりも、男の頭を上げてはならない。その使命感からこの儀式を成し遂げた。
「大変…申し訳…ございませんでした…」
男は終始、呪文のようにその言葉を発し続けた。
────大きな炎が上から降ってきた。
遅かった。気づかなかった。そういえば、さっき死のうとしていた。なんで、わざわざ気づかなかったことを後悔するんだ?別にいいじゃないか。もう死ぬのだから。
「うおおおおおおおおおあああ」
男は叫んだ。叫びながら私たちを突き飛ばした。
男は私たちを助けた。
男は死ん………
「ああああああああぁぁぁ」
鳥のように甲高い声が聞こえた。
その叫んだ女の人は男の手を引いた。助けたのだ。花さんだった。
もう誰が何のために人を助けるのか分からなかった。
「増える」に反するから?違う。
これは、感情だ。助けたいと願う感情だ。
────やっぱり、不味い。けど、
8:00
私、璃、花さん、オリヴィエさん。4人で食料を貪った。
復讐は?もうしない。
憎しみは?心に留めておく。
これが私の結論だ。
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