第九十八話 前世での話をするわたし
わたしは殿下に、前世の話をし続けた。
幼い頃から、前世を去る時まで。
殿下とは幼馴染で、物心がついた時から殿下のことが好きだったこと。
殿下もわたしのことが好きだったようで、愛を育んでいったこと。
そして、二人の想いは、婚約というところまで到達したこと。
しかし、これから結婚するというところで、わたしは病床の人になったこと。
そして、殿下と来世で結婚することを約束して、あの世に旅立ったこと。
以上の話をした。
言葉で言えば、すんなりと話ができたように思うかもしれないが、実際は話をしている内に、恥ずかしてたまらなくなったところもあった。
特に、わたしが、
「殿下のことがずっと好きでした。愛していました」
ということを言った後は、心が沸騰しそうになった。
殿下はわたしの話をどう思ったのだろう。
前世の存在がわからない人であれば、ただの夢想だと思うかもしれない。
わたしも、前世のことを思い出すまでは、前世が存在するかどうかはわからなかった。
同じ立場であれば、夢想だと思ってしまうかもしれないと思う。
殿下は、前世の存在を理解しているかどうかはわからない。
しかし、わたしとの思い出を思い出すことができないのであれば、どちらにしても、わたしの夢想だと思われてしまうかもしれない。
それだけではなく、わたしの想いを殿下に押し付けているだけだと思われるかもしれない。
そうなれば、わたしが悩んでいた通り、殿下に嫌われてしまうこともありうる。
ただ殿下はわたしが話をしている間、ずっと真剣に聞いてくれていた。
そうした姿勢をとっていたので、夢想だと思うことはないとは思う。
少なくともわたしの殿下への想いは伝わったと思う。
そう信じたい。
わたしは殿下の言葉を待った。
すると、殿下は、わたしが話をしている間、離していたわたしの手をまた握った。
そして、
「聞かせていただいて、どうもありがとうございます」
と言うと、涙を流し始めた。
「殿下……」
殿下の手から、やさしい気持ちがより一層入り始めた気がする。
「リンデフィーヌさん……」
殿下は、その後の言葉が涙でなかなか出てこないようだ。
胸がいっぱいになっているのかもしれない。
やがて、殿下は涙を拭き、気分を整えると、
「わたしもリンデフィーヌさんの手を握っている時、自分の前世を思い出していたのです。それは、自分の夢想ではないかという気持ちがあったので、すぐには話すことができませんでした。前世というものの存在は、それまでわたしにもわかりませんでしたので、リンデフィーヌさんもわからないのではないかと思いました。こういう話をしたら変な人だと思われて、あなたに嫌われるかもしれないと思ってしまったのです。それを、あなたは先におっしゃてくれました。なんと勇気のあることでしょう。ありがたいです。わたしもあなたのことが好きでした。そして、あなたと前世で婚約をしました。残念ながら、結婚することはできませんでしたが、来世で結婚しようと約束しました。その約束をわたしは思い出したのです」
と殿下は、少し恥ずかしがりながら言った。
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