第九十七話 この世に意識が戻ってくるわたし
「ここは……」
目を覚ますと、そこは殿下の執務室だった。
わたしはこの世に戻ってきた。
今まで見ていたのは夢ではない。
わたしは前世のことを思い出していたのだ。
わたしの手を握りしめているオディリアンルンド殿下。
その手には、殿下のやさしさが流れ込み続けている。
オディナデックス殿下は、リランマノーラ王国の王太子で、わたしと婚約していた方。
わたしはオディナデックス殿下のことを愛していた。
そう思うと、急激に恥ずかしくなってきた。
もともとこの世で出会った時から好意を持っていた方。
初めて会ったとは思えず、どこかで会っていたのでは? と思っていた方。
前世で殿下と出会い、結婚の約束までしていたとなれば、今世でも殿下に心が傾いていくのは当然のことだと思う。
「気が付かれましたか?」
心配そうな殿下。
「申し訳ありません。ちょっと気を失っていたようでございます」
「お体は大丈夫ですか?」
「お気づかいありがとうございます。大丈夫です」
わたしは殿下に前世のことを話したくなった。
せっかく今、思い出したのだ。
殿下と前世で結婚することを約束していたということを話せば、殿下も思い出してくれるのではないかと思う。
そうすれば殿下とわたしの仲は急激に進んでいき、近い内に婚約できるのでは、と思う。
そして、前世での約束通り結婚にまで進んでいけると思う。
しかし一方で、殿下が思い出さない可能性はある。
ただ思い出さないだけではなく、前世そのものが存在するかどうか、わからないというかもしれない。
殿下とわたしの間に気まずい雰囲気が流れてしまうかもしれない。
それでわたしが嫌われてしまうということは、殿下の性格からしてありえないことだとは思うが、可能性はなくはない。
殿下が前世のことを思い出せなければ、わたしが一方的に殿下との婚約をお願いするという形になる。
殿下は、わたしと出会ったばかりなのだ。
好意は持ってもらっているかもしれないが、前世で出会ったことを思い出さない限りは、婚約や結婚をしたいと思うことは、まず普通はないと思う。
いくらやさしい殿下でも、嫌な気持ちになってしまう可能性はあると思っている。
それは避けたいところだ。
わたしは話すのを躊躇した。
殿下と仲良くなっていきたい。
でも殿下に嫌われたくない。
そういう思いが、どうしても先に立つ。
しかし……。
ここで話すことができなければ、話す機会はなかなかないかもしれない。
今日、前世のことを話しておきたい。
二人で結んだ約束を二人で思い出し、できればまず婚約まで進みたい。
婚約まで今日は進めなくても、少しだけでいいので仲良くなりたい。
前世からの殿下への想いが流れ込んできていて、心が沸き立ってくる。
この想いは、抑えることができなくなってきた。
わたしは決断し、
「殿下、わたしは今、前世のことを思い出していました。そのことをお話ししてよろしいでしょうか?」
と言った。
殿下はここでどう思うだろうか?
話すことを断られたりはしないだろうか?
わたしのことを嫌いになってしまうのではないだろうか?
わたしが心配していると、
「どうぞ、続けてください」
と殿下は真剣な表情で言った。
殿下が話を聞いてくださる。
少し安心したわたし。
「それでは前世の話をさせていただきたいと思います。まず幼い頃の話です」
「よろしくお願いします」
わたしは前世の話を殿下にし始めるのだった。
「面白い」
「続きが気になる。続きを読みたい」
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