第九十六話 前世でのわたし・想いが通じ合うわたしたち
わたしの手を握る殿下の手から、殿下のやさしさが流れ込んでくる。
苦しさの中でも心が沸き立ってきた。
できればこのまま殿下の愛を受け取り続けていたい。
「殿下、そのお言葉だけで、わたしは幸せでございます。これで心おきなくこの世を去ることができます。生きてきてよかったと思います。ありがとうございます」
わたしはなんとか殿下に言うことができた。
それに対し、殿下は、
「そんなことは言わないでください。わたしはあなたと今世で結婚したいのです。来世で結婚することはもちろん約束します。でもわたしはあなたが大好きです。愛しています。来世があることは信じたいと思っていますが、それまで待つことはできないのです。あなたにはもっと生きてほしい。わたしと一緒に長生きをして、幸せになってほしい。それが、わたしの願いなのです」
と涙を流しながら言った。
気持ちはうれしい。
わたしだって、できれば殿下と今世で幸せになりたかった。
でもそれを殿下に伝えたくても、もう言葉にならなかった。
体のつらさ、苦しさがいよいよ頂点を迎えようとしていた。
せめて最後は、殿下に微笑みを届けたい。
そして、最後の想いを伝えたい。
だんだん意識が遠くなり始めているが、まだこの世を去るわけにはいかない。
わたしは、一生懸命微笑もうとしていた。
今まで部屋の中でも、わたしたちと少し離れたところにいた侍医が、もう持たないと思って、殿下の側近にお願いをしたのだろう。
わたしのそばには、殿下だけではなく、国王陛下と王妃殿下と侍医、殿下の側近たちが集まってきていた。
そして、王宮にやってきて別の部屋で待機していた、わたしのお父様もわたしのそばにきている。
お父様は、わたしの容態が悪化したので、二日前から王宮に滞在していた。
殿下が使者を出してくれたのだ。
わたしの意識が戻った時に、お父様とは二人きりで少しだけ話すことができた。
その時、お父様に感謝の思いを伝えているが、まだまだ足りないと思う。
お父様に、もう一度感謝の思いを伝えたい。
殿下にも、もう一度感謝の思いを伝えたい。
そして、集まった人々に感謝の思いを伝えたい。
しかしそれは、この体の苦しさからすると、とても困難なことだった。
意識が朦朧としてきている。
このままでは、意識を失ってしまう。
それでもわたしは伝えたかった。
伝えないまま意識を失いたくはなかった。
そして、このままこの世を去りたくはなかった。
伝えたいという気持ちが強く沸き立ち始めていた。
その気持ちがいい方向に行ったのだと思う。
意識が少しずつ戻り始めた。
弱々しい声にはなってしまうと思うけれど、話すことはできそうだ。
多分、一時的なものだと思うが、これでみんなに思いを伝えることができる。
わたしは、弱々しくて涙声ではあったが、国王陛下と王妃殿下、そして集まった人々にそれぞれ感謝の思いを伝えることができた。
そして、お父様にも、
「お父様、ありがとうございました。わたしはお父様の子供に生まれて幸せでした」
と感謝の思いを改めて伝えることができた。
皆、わたしの為に泣いてくださっている。
ありがたいことだ。
わたしも涙が止まらない。
そして、殿下。
「殿下、今までどうもありがとうございました。来世で結婚することを約束していただいて、とてもうれしいです。来世が今から待ち遠しいです」
わたしがそう言うと、
「リーゼアーヌさん、お礼を言わなければいけないのはこちらです。ありがとうございました。来世での結婚の約束をしていただいて、わたしの方こそうれしいです。でもわたしは、まだあなたと今世で結婚する望みを持っています。今世であなたと結婚するのが、幼い頃からの夢だったのです。その夢は今も変わりません。ですから、来世でも結婚しましょう、と言わせてください」
と涙声で殿下は応えた。
そして、
「わたしはリーゼアーヌさんが大好きなのです。愛しています。この愛は、来世でもそれ以降も持ち続けます!」
と殿下は言ってくれた。
これほどうれしい言葉はない。
「殿下に対するわたしの愛も、これからずっと持ち続けます。わたしも殿下が大好きです。愛しています」
殿下に想いを伝えた言葉。
その言葉が、わたしの前世での最後の言葉となった。
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