第九十四話 前世でのわたし・来世で結婚したいわたし
その日以降、わたしの病はますます重くなり、意識を失うことも多くなっていった。
意識が戻った時、必ずそばには殿下がいた。
ますます忙しくなってきていて大変な時だというのに、夜だけではなく、空いた時間があるとわたしのところに来ているようだった。
殿下はますます疲れてきているようで、顔色は決して良くない。
「わたしのことはいいですから、お体を大切にしてください」
とわたしが病床から言っても、
「ご心配ありがとうございます。でも王国の為、そしてあなたの為にわたしは生きているのです。これくらいは何ともありません」
と殿下は微笑みながら応えていた。
ありがたいことだ。
この愛に応えられる時が、いつか来るといいんだけど……。
そして、わたしの体に限界がきた。
つらくて苦しくてたまらない。
もう持たないと思った。
声を出すことさえもつらくなってきている。
それでも最後に殿下と話をしておきたい。
わたしはそばで付き添ってくれている殿下に、
「もうわたしの生命はここまでのようです。今まで、本当にありがとうございました」
と弱々しい声で言った。
「何をおっしゃっているのです。わたしはあなたと幼い頃から一緒に生きてきて、これからもずっと一緒に生きていきたいと思っているのです。弱気にならずに、体を良くしていきましょう」
「殿下にそうおっしゃっていただいてありがたいです。でももう自分の体が持たないことは自分自身がよくわかります。わたしがこの世を去ったら、わたしのことは忘れて、他の素敵な女性と結婚してください。殿下は、文武両道な方ですが、体は丈夫ではない方だと思います。最近はお疲れのようで、心配しています。お体を大切になさって、長生きをされてください。そして、素敵な女性と幸せになってくださいませ」
意識を失ったり、戻ったりを繰り返す内に、わたしは殿下の幸せをますます思うようになっていった。
殿下が他の女性と結婚するということ。
そのことについては、どうしても抵抗がないとはいえない。
そのことを思うだけでも、嫉妬心が湧いてこないというわけにはいかない。
しかし、わたしはこの世を去ろうとしている人間だ。
もう殿下と結婚まで進むことはできない。
殿下には、殿下とふさわしい女性と結婚して幸せになる権利がある。
体を大切にして、その女性と一緒に幸せな人生をおくってほしいと思う。
それをわたしの方から伝え、そして結婚を祝福するのが、今まで殿下のことを愛してきた人間のしなければならないことだと思っている。
しかし、殿下は、
「わたしの体を心配してくださるのはうれしいです。そのことはうれしいですし、わたしの幸せを思ってくださるのはありがたいです。しかし、わたしはあなた以外の人と結婚するつもりはありません。わたしは幼い頃からあなたのことが大好きでした。恋をしていました。あなた以外の女性を想うことなどできないのです。わたしは他の女性とではなく、あなたと結婚して幸せになりたいのです」
と言ってくれた。
わたしはその言葉を聞いて涙が流れてくる。
「殿下、そのお言葉だけで十分です」
そう言った後、わたしにさらなる苦しみが襲ってきた。
「殿下、多分もうこれ以上話すことは難しそうなので、最後に一言だけ言わせてください」
「リーゼアーヌさん、無理はなさらずに……」
悲しそうな表情の殿下。
涙を流し始めている。
「来世というものがあるかどうかはわかりません。でもあることを信じたいと思っているのです。その来世でも、こうして殿下と恋人となり、婚約したいと思っています。そして、今世ではできなかった結婚をして、一緒に幸せになっていきたいと思っています。わたしは殿下のことが幼い頃から大好きですし、愛しています。来世でもきっと殿下のことが大好きになります。殿下がよろしければ、来世こそ殿下の妻になりたいと思っています」
今までは思っていても言えなかったことだ。
声を出すだけでも苦しく、大変ではあったが、なんとか想いを伝えることができた。
この想いが伝わってほしいと強く思った。
「面白い」
「続きが気になる。続きを読みたい」
と思っていただきましたら、
下にあります☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に思っていただいた気持ちで、もちろん大丈夫です。
ブックマークもいただけるとうれしいです。
よろしくお願いいたします。