第九十三話 前世でのわたし・病床のわたし
夏がやってきた。
このリランマノーラ王国は、気温は高くなるが、湿度はそこまで高くないので、蒸し暑いということはあまりない。
屋外に出ていても、木陰に入ればそこまでつらくはない。
夕方、庭を散歩すれば心地良い風が吹いてきて気持ちがいいものだけど……。
わたしは病床の人になっていた。
もともと侍医には、大人になるまで生きることは難しいと言われていたので、大人になり、殿下と婚約することができただけでも上出来ではないかと思う。
今まで何度も病床に倒れては、なんとかその度に日常生活がかろうじてできるほどには回復をしてきたが、もう今回は無理そうだった。
とにかく体から力が一日ごとに奪われていくような気がする。
苦しくてつらい状態が続き、病床を出ることができなくなりつつあった。
殿下は相変わらず忙しく、もともと体が強い方ではないので、次第に健康を害し始めているようで心配だった。
それでも夜になると必ずわたしのところに見舞いに来てくれた。
そんなある日の夜のこと。
「リーゼアーヌさん、苦しくはないですか?」
殿下がやさしくきいてくる。
わたしにとって、殿下の声は癒しになっていた。
「苦しいですが、殿下のお言葉を聞いて、少し気分が良くなりました」
「それならばいいんですけど……」
心配そうな殿下。
「わたしのことをお気づかいしていただき、ありがとうございます。いつも毎日来ていただいて、うれしいです」
「わたしはあなたと一緒にこの王国を豊かにしていきたい。そして、二人で幸せになっていきたい。あなたには、少しずつでもいいですから、元気になっていってほしいのです。その為にお力になれるのであれば、これからも毎日あなたのところにこうして伺いたいと思っています」
「ありがとうございます。殿下に来ていただけるだけで、だんだん元気になってくる気がいたします」
「そうおっしゃてくださるとうれしいです」
殿下は微笑んだ。
しかし、疲れがたまってきているような気がする。
リランマノーラ王国にとって、とても大切なお方。
健康でいてほしい。
「ただ、わたしは殿下の健康が最近気になってきています。あまり無理はなさらないでください。わたしの健康が回復してきましたら、殿下も望まれていましたが、少しでも殿下のお役に立っていくことができますように、国内経営について少しでも助言をしていきたいと思います。わたしは、その為に幼い頃から内政について勉強してきました。殿下の負担を少しでも減らしたいと思っているのです」
話すだけでも相当の疲れが発生するが、そういうことは言っていられない。
「国内経営についての助言、わたしが待ち望んでいたことですから、おっしゃっていただいてうれしいです。でもあなたの健康が第一です、時間がかかっても体を良くしてほしいと思っています。わたしのことは気にしないでください」
殿下の柔らかい口調でやさしい言葉。
その言葉に応えたいと思うのだけど……。
殿下、申し訳ありません。
せっかくそうおっしゃっているのに、体がいうことを聞きません。
このままでは殿下のお役に立てないまま、この世を去らなければならなくなりそうです。
それがとてもつらいです。
もう少しだけ生きたいと思っています。
結婚して一緒に幸せになりたいです。
それが無理そうなら、せめて殿下には幸せになってほしいです。
わたしの目から涙があふれ始めた。
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