第九十二話 前世でのわたし・殿下との思い出を作っていくわたし
こうして殿下との婚約が成立した。
その喜びがいい影響を与えたのだと思う。
わたしの体は、小康状態を迎えた。
もちろんそれは、一時的なものでしかないだろうとは思っていた。
しかし、それでも体が少しでも良くなったのはありがたいことだ。
わたしは残り少ない人生を、殿下と可能な限り一緒に過ごしたいと思っていた。
もちろん殿下には仕事があるので、ずっと一緒というわけにはいかなかったが、殿下も同じ思いだったようだ。
王宮に一室を与えられ、公爵家との往復をしないでもいいようにしてくれた。
そして、できるだけ一緒にいられるように努力をしてくれていた。
夜も毎日二人で一緒にいるようになった。
わたしは殿下と二人だけの世界に入りたいと思っていた。
しかし、それはわたしの病弱な体では難しいことだった。
殿下もわたしの体を気づかって。
「あなたのお体は、きっと良くなっていくと信じています。わたしはあなたのお体が良くなっていくまで待つつもりです」
と言ってくれていた。
ありがたい言葉だ。
わたしは体を良くしていき、殿下と二人だけの世界に入ることを願っていた。
二人だけの世界に入ることはまだできない。
しかし、
「リーゼアーヌさん。わたしはあなたのことを幼い頃からもちろん好きでした。幼い頃も魅力的でしたが、今のあなたはもっと魅力的になっています。わたしにはもったないくらいだと思っています。あなたのことがますます好きになってきています。ずっとすっと一緒にいたいです」
と殿下は言ってくれる。
それを何度も。
言われる度に恥ずかしい気持ちになってくる。
わたしの方こそ、殿下は、ハンサムで学問にも武術にも優れた素敵な方なので、もったいない存在なのに……。
しかも、わたしの生命が残りわずかだということも承知の上で婚約してくれた。
これほどうれしいことはないだろう。
ありがたいことだ。
感謝してもしきれない。
休日になると、庭で二人だけのお茶会を開催するようになっていた。
ちょうど春から初夏の頃で、新緑が美しい。
その中で、二人で飲む紅茶はとてもおいしいものだった。
ある日のお茶会で、殿下は、
「もっともっと、リーゼアーヌさんとの思い出を作っていきたいと思っています」
と言った。
「わたしも殿下との思い出をもっと作りたいと思っています」
「できれば一度、あなたと一緒に景色のいいところに遠出をしたいと思っています。幼い頃からそうしたいと思っていたのです。そこで、いい思い出をたくさん作っていきたいと思っています」
殿下と遠出。
わたしも幼い頃から一度したいと思っていた。
でも一度だけでは足りないと思う。
これからもしていきたい。
「そうおっしゃってくださってありがたいです。わたしの体がもう少し良くなったら、お願いしたいと思います」
「あなたの体が良くなる日がくることを願っています。きっと一緒に遠出ができる日が来ると信じています」
殿下はそう言って微笑んだ。
素敵な殿下。
わたしのことを癒してくれる殿下。
わたしは殿下のことがますます好きになっていった。
そして、生命の続く限り、殿下に尽くそうと思っていた。
しかし、その幸せは長くは続かなかった。
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