第九十一話 前世でのわたし・前世でのファーストキス
こうなると、殿下とわたしが婚約するのは無理そうだと思った。
婚約だけはしたかった。
わたしはそれだけ殿下のことが好きで、殿下を愛しているのだ。
そして、殿下の婚約者として、この世を去っていきたかった。
でもそれは、殿下に迷惑をかけることになってしまう。
まもなくこの世を去ってしまう女性よりも、健康的な女性の方が、殿下の伴侶にはふさわしい。
王国のこれからの発展を思っても、その方がいいだろう。
殿下との婚約は、もうあきらめるしかないと思った。
つらいことではあるけれど、仕方がない。
わたしの病床に、殿下が見舞いにやってきた。
殿下は、
「わたしはあなたと婚約することを待ち望んでいます。元気を出してください。きっと良くなります。良くなったら、婚約しましょう」
と言ってくれた。
しかし、そのやさしさを思えば思うほど、言わなくてはならない。
「もうわたしの体は持ちません。まもなくあの世へ旅立つと思います。婚約は、わたしとではなく、他の方としてくださいますようお願いします」
とわたしは言った。
わたしの恋はこれで終わり。
殿下と婚約もできないのは、残念で仕方がない。
しかし、わたしは殿下の幸せを誰よりも願っていた。
わたしが殿下との婚約をあきらめ、他の方と結婚することによって、殿下が幸せになれるなら、それでいい。
そう思っても、目から涙が流れてきた。
「そんなことは言わないでください。きっと体は良くなってきます。わたしはそう思っているのです」
と殿下は言う。
しかし、殿下の方も、わたしの苦しそうな様子を見て、病気の重さはだんだん理解してきたようだ。
「リーゼアーヌさん。あなたの病気は重いのかもしれません。しかし、そうであれば、もう今婚約するべきだと思いました。婚約をし、二人の愛の力を高めていけば、あなたの病気もいい方向に向かうと思っています。わたしは幼い頃からずっとあなたのことを愛してきました。あなた以外の女性を今さら好きになり、婚約することなどできません。お願いします。わたしにはあなたしかいないのです。あなたが大好きなのです」
頭を下げる殿下。
ここまで言われたら断ることなど、出来るわけがない。
わたしは、
「ありがとうございます。殿下にそうおっしゃっていただいて光栄です。残り少ない生命だとは思いますが、精一杯殿下に尽くしてまいります。わたしは殿下のものです。よろしくお願いします」
と涙を流しながら言った。
「それでは婚約しましょう。正式な婚約の式は、公爵家との間で行いますが、今日この時点からもうあなたはわたしの婚約者です。これほどうれしいことはありません。わたしはこのままあなたと結婚して幸せになることを願っています」
殿下も涙を流し始める。
「わたしも殿下の婚約者になれてうれしいです。殿下と一緒に幸せになりたいです」
わたしたちは、喜びに包まれて行く。
「リーゼアーヌさん、好きです」
「殿下、好きです」
殿下はわたしを抱きしめる。
そして、唇と唇を重ね合っていった。
幸せな瞬間だった。
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