第九話 涙を流すわたし
殿下と異母姉は、二人だけの世界にも入っていっているという。
わたしと婚約をしてからは、他の女性とそういうことはしていないと思っていたのだけど……。
涙があふれ出してくる。
殿下は、異母姉の唇から唇を離すと、
「泣くぐらいだったら、なぜわたしのやさしい心を受け入れなかったのだ。婚約自体をしていなかったことにすれば、お前も悲しまずにすんだというのに。どうしてなのだ。どうしてもわたしには理解ができない」
と言った。
わたしは、
「婚約がなかったことになろうと、婚約を破棄されようと、殿下に受け入れられなかったことには変わりはありません。それが悲しいのです。これでも殿下にふさわしい女性になろうと一生懸命努力してきましたのに」
と涙声になりながら言った。
すると。異母姉は、
「リンデフィーヌよ、あなたにはわたしと違って魅力はない。だから殿下に受け入れられなかったのです。殿下はその魅力のないあなたを今まで我慢して、婚約者として礼遇してきたのです。むしろ殿下の方がかわいそうだと思いますわ。そんなこともわからず、一人で悲しむなんて、人間としてどうなのかと思ってしまいます。わたしという女性がこうしてそばにいるから殿下は救われましたが、いなかったら殿下の方こそ、つらく苦しい状況になっていたでしょう。とにかくあなたは、もう殿下のそばにいてはいけない人間です。いや、殿下のそばだけではない。わがブルトソルボン公爵家にいてもいけない人間だと思います。お母様もそう思うでしょう?」
と継母の方を向いて言った。
「ルアンチーヌの言う通りです。こんな人間がわが名誉あるブルトソルボン公爵家にいるというのは、恥ずかしい限りです」
継母は吐き捨てるように言った。
どうしてそこまで言われなければならないのだろう。
日頃は仲が良くないとはいっても、同じブルトソルボン公爵家の一員。
その人間を殿下の前でここまで言う必要があるのだろうか?
「お前がわたしの言うことに従わないから、二人にもこうして言われるのだ。それにしてもルアンチーヌは良く言ってくれた。ルアンチーヌこそ、わたしの婚約者としてふさわしい。このまま結婚をして、誰もがうらやむ夫婦になっていくのだ」
殿下は微笑みながら言う。
「殿下、そう言っていただいて、とてもうれしいです」
「わたしもお前が喜んでくれてうれしい」
また唇を重ね合う二人。
どこまでわたしの心を傷つけたいのだろう。
涙がますます流れてくる。
唇を異母姉から離した後、
「リンデフィーヌよ。これでお前とは会うこともないだろう。今日の今までのやり取りで、わたしに対して無礼なところがあったが、それは許してやる。もう帰るがよい」
と冷たくわたしに言った。
「殿下のおっしゃる通り、屋敷に帰りなさい」
継母も冷たくわたしに言う。
そう言われても、ここで帰ったところで、どうなるものではない。
先程の継母や異母姉の言葉だと、屋敷に戻っても、わたしの安住の場所はない。
今までも二人には、散々嫌味を言われ続けてきた。
それがエスカレートして、ますますつらい思いをするだけだろう。
もう公爵家に戻っても、みじめな人生になるだけだ。
それに何よりも、まだわたしは、殿下が約束した人である可能性を信じていたかった。
わたしは殿下の婚約者として生きるしかない。
もちろんここまで言われてしまっているので、チャンスはもうないと言っていい。
それでもチャンスは、ゼロにはなってはいないと思う。
わたしは、もう一度だけ殿下にお願いをすることにした。
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