第八十七話 新しい女性 (マイセディナンサイド)
わたしは母王妃・妹とルアンチーヌとのことで悩んでいた。
わたしには信頼できる側近は全くいなかったので、自分で決めるしかなかったが、どうにもいい解決策が思い浮かばなかった。
そんな時、わたしは、ある女性を紹介された。
ルアンチーヌが来訪しない日のことだった。
ボイルマロール男爵家のゼリドマドロン。
なかなかのゴージャスさ。
遊び相手を心から望んでいたわたしにとっては、うれしいことだった。
紹介された当日から二人だけの世界に入っていく。
たちまちにしてわたしはゼリドマドロンに夢中になる。
ゼリドマドロンがいれば、後はもうどうでもいいと思うようになってきた。
もちろん、それは長く続くとは思わなかったが、それでも今は楽しむことできるのだからそれでいい。
しかし、ここで問題になるのがルアンチーヌとの関係だ。
母王妃と妹の方は、大して気にすることはないだろう。
婚約者ではなく、ただの遊び相手。
またいつもの遊びだとしか思わないに違いない。
でもルアンチーヌにとっては、浮気相手ということになる。
怒り出してしまうかもしれない。
怒ってしまった場合、
「わたしの意に沿わない」
ということにすれば、婚約破棄への道は開かれるとは言える。
怒らなかった場合は、当分婚約破棄の話は出てこないと思う。
いずれにしても、三人には話はしておいた方がいいと思った。
わたしはまず母王妃と妹にゼリドマドロンのことを話した。
「遊び相手です」
ということを強調した。
二人は少しあきれていたが、
「お前らしい」
「おにいさまらしい」
と言っただけで、特に他に言うことはなかった。
ルアンチーヌに対するけん制になると思って、内心は喜んでいたかもしれない。
その後、ルアンチーヌにゼリドマドロンのことを話した。
怒り出すことは覚悟していたが、
「殿下がわたしと結婚してくださるのであれば、殿下がその方を愛しても我慢いたします」
と言って、わたしに対して恨みがましいことは言わなかった。
しかし、それは作り笑いであることは理解した。
その内、嫉妬する可能性は十分あると思った。
ルアンチーヌがゼリドマドロンに嫉妬をし出すようになれば、それこそ母王妃・妹とルアンチーヌだけでなく、ルアンチーヌとゼリドマドロンの戦いにもなっていく。
決して望ましい戦いではない。
面倒なことは嫌いなわたしだ。
そういう戦いになったら、ルアンチーヌとの婚約破棄に進むしかない。
もうその頃には、ルアンチーヌにも飽きてきている頃だろう。
とはいうものの、わたしはまだルアンチーヌのことをそこまで嫌になったわけではない。
母王妃・妹とルアンチーヌの戦いは激しくなっていったとはいっても、ルアンチーヌと二人だけの時は、まだ楽しかった。
もう少しルアンチーヌとも楽しい時を味わっていたかった。
それには当分の間、四人には仲良くしてもらうしかない。
わたしは母王妃・妹・ルアンチーヌ・ゼリドマドロンの四人を満足させるべく、豪華な服・食事・贈り物を提供することにした。
もともとわたしは、自分一人の為に贅沢をしていた。
しかし、そういうわけにもいかなくなっていた。
ルアンチーヌにはそれまでに何してないわけではなかったが、自分自身に対するものとは比較にならないものだった。
それを贅沢なものと思えるものにし、母王妃・妹、そしてルアンチーヌにも拡大したのである。
母王妃と妹は、わたしの婚約に不満を持っているだけではない。
最近では、わたしの持っている権限の一部を移譲してほしいと言ってきていた。
もともと政治に介入したいという望みを持っていた二人だったが、その要求がだんだん強くなってきていた。
わたしはそれを拒み続けていた。
一旦それを認めると、際限がなくなっていくと思ったからだ。
それでも要求はどんどん強くなってきたので、やむなくほんの一部の権限だけを委譲することにした。
しかし、それだけでは不満がまだまだあるようだ。
母王妃・妹に贅沢なものを提供することにしたのは、二人の不満を弱くしていく必要があったというところも大きい。
贅沢なものを提供することにより、母王妃・妹の不満を弱めていき、ルアンチーヌとゼリドマドロンの機嫌をとっていく。
そうすれば、わたしも面倒な戦いで嫌な思いをすることは少なっていくことが期待できる。
もし、それほど少なくならないにしても、小康状態になってくれればそれだけでもいい。
しかし、わたしにとっては身を切られるほどのつらい決断だった。
機嫌など絶対にとりたくなかったのに!
悔しくてしょうがない。
機嫌をとることにより、四人の仲が小康状態になったとしても、わたしのプライドは大きく傷つけられる。
最近、少しずつではあるが、リンデフィーヌとの婚約は破棄するべきではなかったのではないかと思うようになってきた。
四人は結局、わたしのことをただの道具としてしか思っていない気がする。
その点、リンデフィーヌはわたしを大切に思ってくれていたと思う。
気が合わなかったとは言っても、もう少し大切にすべきだったのではないだろうか?
そうしていけば、少しずつ仲は良くなっていたのでは?
そう思うことも増えてきた。
しかし、今さらそう思っても間に合わない。
わたしは四人の機嫌を取っていくしかなかった。
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