第八十四話 殿下のやさしさと流れ込んでくる前世の記憶
殿下は、気持ちを整える。
そして、
「わたしはあなたのことが好きです。恋をいう意味での好きです」
と言った。
わたしのことが恋という意味で好き……。
あまりの予想外の言葉に、わたしの心は沸き立っていく。
「あなたとは今日初めて会ったのですが、もうあなたのことしか想うことができなくなっています」
「殿下……」
だんだん恥ずかしい気持ちになってくる。
「もちろんあなたの気持ちが一番大切です。わたしがそう思ったからといって、あなたの方は、いきなりそう言われても心の準備ができないと思います。そこで、客人となっていただいて、少しずつ仲良くなっていくつもりでした。そして、相思相愛になりたいと思いました。もちろん仲良くなれなければ仕方がありません。その時は、あなたの思い通りにしていただこうと思っていました」
殿下はそういうことも思ってくれていた。
ありがたいことだ。
しかし、わたしも殿下と仲良くなりたいとおもっているので、殿下がわたしのことを嫌いにならない限りは、仲良くなっていけると思う。
「しかし、お父上は一か月という短い時間しか与えてくれそうもありません。これではどうにもならないと思ったわたしは、決断しました」
いよいよ殿下の決断の言葉が出る。
今まで以上に緊張する。
「わたしはお父上とお母上に、『わたしはリンデフィーヌさんと婚約し、結婚したいと思っています。この一か月で相思相愛になり、まず婚約したいと思っています』ということを話しました」
婚約? 結婚?
つい先程までは想像もしていなかった言葉がどんどん出てくる。
あまりの展開にすぐにはその意味が理解されてこない。
しかし、その意味を理解すると、心は沸騰していく。
「お二人は、しばらくの間、驚きすぎて言葉が出ない様子でした。しかし、その後、『お前は正気で言っているのか? 相手は今貴族ではないのだぞ。そういうことは認められるわけはない』とお父上はおっしゃられました。お母上も同じ意見です。それに対しては、『わたしが好きになった人です。身分は関係ありません』と申しました」
「国王陛下と王妃殿下は納得されたのでしょうか?」
「なかなか納得はしてはもらえませんでした。しかし、説得を続けた結果、『お前が初めて会っただけなのに、そこまで好きになるということは、よほどお前の心を動かすものをもっている女性ということなのだろうと思う。既にお前には政治の権限を移譲し始めていて、一人前になっているといっていい。そういう男が好きになった女性だ。貴族でなくても、お前と支え合ってくれる女性だと信じたい。しかし、まだ納得はしていない。これから一か月の間、お前の気持ちが変わらず、その女性の方もお前との婚約を了承するのだったら、婚約することを許してやろう』とお父上におっしゃっていただきました」
殿下のねばり強い説得には頭が下がる。
これでわたしは、一か月後殿下と婚約する可能性が出てきた。
「リンデフィーヌさん。わたしはあなたが好きです。そして、婚約し、結婚したいと思います。でもあなたの気持ちも大切です。もし今までの話を聞いて、わたしのことを嫌いになったのであれば言ってください。その時はあきらめたいと思っています」
殿下はわたしのことを気づかって言ってくれている。
わたしは殿下のことに好意を持っている。
今日出会った時から、殿下への好意はどんどん強くなってきていて、それはもう恋と言えるところまで発展してきている。
しかし、婚約、結婚というところまでになると、まだ心の準備は整っていない。
心の準備を整えるには、もう少し時間が必要だと思っていた。
それに、わたしは、殿下にふさわしい女性というところにはほど遠い、という気持ちは強い。
もっと殿下にふさわしい女性はいるのではないかと思う。
それでもわたしの心は急激に、この殿下の想いに応えたい気持ちで一杯になってくる。
心のコントロールが難しくなってきた。
わたしは恥ずかしさを抑えながら、
「殿下、わたしも殿下のことが好きです」
と言った。
殿下はそれを聞くと、
「わたしのことを好きだとおっしゃってくれまして、ありがとうございます。とてもうれしいです。」
と言って微笑んだ。
殿下が喜んでくれている。
それはわたしもうれしいことではあるのだけど……。
わたしはその後、
「ただ婚約、結婚ということになると、殿下にふさわしい女性がもっと他にいるような気がしますので、わたしのようなものが、殿下と婚約、結婚をしていくのは、おそれ多いと思っています」
と言った。
どうしてもこれは殿下に言っておく必要のあることだった。
すると殿下は、
「自分のことを決して偉ぶらない。わたしはあなたのそういうところがますます好きになりました。わたしはあなたのことを好きになったのです。婚約、結婚をしたいと思ったのです」
と言うと、わたしの手を恥ずかしそうに握った。
「リンデフィーヌさん、わたしはあなたのことが好きでたまらないのです」
殿下のやさしさがわたしの手に流れ込んでくる。
それと同時に、わたしの前世の記憶も流れ込んできた。
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